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二章 “憐れみ掠する地獄の王”悪鬼編

第26話 “神童”

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「グハッ!!」

『ラァァ!!!』

 美穂の一撃によって吹き飛ばされ、壁にめり込んだ俺に、美穂は即追いつき追撃を入れる。

「ッグゥ!!」

『どうしたの!? 【虐殺スキル】も使わずに私に勝つ気!?』

 俺に追撃を入れた美穂は、俺の頭を掴んで闘技場の中心まで投げ飛ばす。

「……チッ!」

 俺はなんとか空中で体制を立て直して着地する。

(なんだあのスキル……“悪童”の【憑依】といい“神童”の【月狼変化】? といい……皆必殺スキル持ちすぎだろ!)

『【貫通】!!』

「!!」

 ビュンッと美穂は加速し、手に持つ大剣で俺の胴体を貫こうとする。
 俺は美穂の突きをすんでのところで転がってよける。

「ちよ!!!!」

「兄貴ィィ!! 避けてください!!」

「宝晶!!」「一年!!」「ちよ君!?」

 第四学園サイドから俺の安否を伺う声が聞こえる。

『……彼らはずいぶん楽しそうですね』

「あ?」

『人の心配より先に自分の弱さを憂うべきなのに』

「ああ゛?」

 ポツ、と美穂は言うが言うや否や、左手の凶爪と右手の大剣で猛攻を仕掛けてきた。

(通りでなんか体格の割に大きな剣を使ってんなって思ったぜ……!)

『これで……終わり!!』

 美穂は大上段から大剣を振り下ろす。
 決着がついたと皆が確信し、目をとじた──

「【虐殺】!!」

『……っ!』

 俺は武器を三叉槍に変え、その一振りを弾く。

『……まだそんな力があったの』

「はぁ、はぁ……」

 俺は、手に持つ変形剣を見つめて……バッと床に捨てる。

『……!?』

「「「「……!?」」」」

「千縁!?」

 焦りの声が聞こえるが、俺は意に介さず首の骨をならした。

『何を……笑ってる、の?』

「はは……ハハハハ!!」

 ああー……やっぱりまあ、そうだよな。

「やっぱ、あの“神童”にスキルなしってのはキツ過ぎたか」

「「「「「「「!?!?」」」」」」」

『何を……!?』

「いやー、俺もあんたと同じでさ。今まで使ってなかったスキルがあるんだな」

 俺の言葉に、会場中が、特に学園長席が騒がしくなる。

「おい……滝上、あいつまだ隠し球があるのか!?」

「いや……そんなばかな……宝晶……まさかデュアルだったのか……?」

「まあ、あんまし使いたくなかったんだけどな……から、何言うかわかんねーし」

『……?』

 そうだよ。もう知っての通り、【憑依】すると今以上に人格がその存在にからな。
 テレビで中継中な以上、絶対変なこと口走らないようにと気をつけてたんだが……負けるのに比べたら万倍マシだよな。
 俺は、意地を張るのを諦めて言った。

「さあ……こっからが本番だぜ? 【憑依】──」

「【憑依】!?」

『……ッッッ!! させるかッッ』

 ドッと溢れる濃密な気配を感じ取ったか、会場の人々が圧倒されている中美穂だけは即座に復帰し、俺に攻撃しようとする……が。
 当然、間に合うはずもなく。

「────悪鬼」

 が、この世に降り立った。








​───────​───────​──────







 時は“神童”神崎美穂が秘匿されていたスキル【月狼変化】を使った頃まで遡る。

「嘘でしょ……まさかまだ、全力を隠していたなんて!!」

「なんだと……?」

 第二学園控え室にて、二つの驚愕の声が上がる。

「神崎さんって去年の中学大会の時も、あんなの使ってなかったよね……?」

 例のお姉さん、水月由梨みなづきゆりが横の少年、“悪童”鬼塚蓮に向かって震える声で尋ねる。

「あいつ……!!」

 鬼塚は去年、中三の時に、中学探索者大会という日本で一番強い中学生を決める大会に出て、決勝戦で神崎美穂と当たったのだ。

 自分の他に、もう一人の天才と言われてきた金髪の少女。ハーフではないらしいが、どういうわけか染めてはないらしい。

 自分なら“神童”なんてたいそうな名の少女にかって勝てると信じてやまなかった鬼塚だが、結果は敗北だった。
 完敗、とまではいかなくても、接戦ですらなかった。

 それでも学生離れした能力から“悪童”なんて腹の立つ称号をもらったが、鬼塚の心の中は今年こそ“神童”を負かしてやるという気持ちで満ちていた。
 だから、第一学園に誘われた時も“神童”がいると聞いてあえて第二学園に入った。同じ学園だと大会の場で戦うことができないからだ。

(なのに……あいつに、負けちまったな)

 今年こそと臨んだ学園対抗祭だったが、どこからか現れた少年──宝晶千縁に負けてしまい、“神童”とは対戦すらできなかった。
 
「……」

「あ……鬼塚君」

 由梨は鬼塚の過去の傷に触れてしまったと思って焦って声をかけるが、その心配は杞憂に終わった。

「……今年こそは勝つつもりでいた」

「……」

「なのに、まだ本気も出されてなかったとはな」

 鬼塚はつい苦笑する。
 千縁のせいで“神童”と戦えず、最初は腹を立てていた鬼塚だが今の試合を見ているとそんな気持ちは吹き飛んでしまった。

(あんな隠し玉があるから超級探索者だったのか)

「うん……?」

「あ……? ……!!!!」

 そこまで言って、鬼塚は再びテレビに視線を戻し……固まった。

『おい……おい……嘘だろ!? んなばかな……いや……そんなわけ……』

「あ? どうした、鬼童丸!」

 千縁が何やらしようとした瞬間、鬼童丸が震えたのがわかった。【憑依】契約をしている以上、いつでも頭の中で会話ができるのだが……こんな怯えた鬼童丸は初めてだ。

 恐らく、千縁がついに解放した【憑依】……悪鬼? とやらに関係しているんだろう。

「酒呑童子様以外に俺より強い鬼はいないと言ってなかったか? 悪鬼なんて名もない雑兵じゃ……」

『ばかか!! あいつは、違う……違う! あいつは名を剥奪されたはずだ!』

 異常なまでに狼狽える鬼童丸。

「なんだ? あいつはなんなんだ?」

 鬼塚はテレビの中で姿を変貌させた千縁を指差して聞く。

『あれは……あいつは……名もなき雑魚鬼じゃない! あいつは……!!』

 ──かつて名を失った、伝説の鬼《アイツ》だ

 続くその言葉に、鬼塚は絶句した。
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