タイマヲマイタ 【高校生時代】

テジリ

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Love and hate are not opposites. The opposite of love is indifference.

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 A・S・ニイル曰く、「愛と憎しみは反対ではありません。愛の反対は無関心です。」これはおそらく、灯枇あけびの国際感覚にも当て嵌まる。何故なら実のところ灯枇あけびは、朝鮮半島には、元々さほど興味が無いのだ。

 無知な灯枇あけびは太極旗を、なんか中国っぽいマークだから、たぶん中国国旗だろ! と、長らく思い込んでいた。そのきっかけは、灯枇あけびがある時保育園で目にした、他クラスの園児達が工作の時間に作成した万国国旗作品だ。それに含まれていた太極旗を目にした灯枇あけびは、その保育園時代以来、のちに韓流大河ドラマの大長今デ・チャングムにハマるまで、ずっと勘違いし続けていたくらいには関心が無く、何なら南側にある国は、良かれと思って無自覚のまま灯枇あけびに最大限のありがた迷惑を働いてくれた伯母母娘が一度出掛けた海外旅行先だった。

 しかも伯母が買った土産はあまり役に立たず超絶安っぽいデザインの手袋式アカスリと、見た目も味も灯枇あけびの好みからはかけ離れた韓国海苔、そして甘党の灯枇あけびには許せない辛さのキムチだった。

 ただまあ南側の人間に対しては、それほど悪い思い出ばかりでも無い。例えば灯枇あけびが小学校5年生の夏休み、家族旅行で訪れた北海道で、灯枇あけびは1人の東アジア系外国人の見た目をした女性旅行者から、富良野でとある親切を受けた。

旅行者の彼女が灯枇あけびに親切心を見せる前に、灯枇あけびは彼女と宿泊先のホテルの受付ロビーだか、富良野のラベンダー畑の道中だかですれ違っていたのだが、その際に彼女と連れの旅行者達が話していた言葉は、灯枇あけびには全く耳慣れない外国語で、確実に英語では無く、どうやら中国語でも無いようだった。なので灯枇あけびは、彼女はたぶん韓国人旅行者なのだろうと思っていた。

 灯枇あけびの北海道旅行の記憶は、場所は不明だが、どこかの観光地で、小さなビニール袋に入れられた10円玉が、「迷った際の電話代として使って欲しい」旨のメッセージ付きのアニメ画と同封されてあちこちの電柱に設置されていた衝撃や、地元ローカル局の取材に付き合わされ、おそらくは不採用となったインタビューの苦い思い出が残る札幌、あとは童話的浪漫に満ち溢れ、見ているだけでもかなり楽しいニングルテラスや、今思えば美しき思い出の残る富良野に集中している。

 父親曰く、小樽にも宿泊したらしいのだが、灯枇あけびには全くもってその記憶がなく、何なら大学時代の就職関連講座で強いられた、隣り合わせた人同士のインタビューの際に大変焦った灯枇あけびは、取り敢えず思い付きで小樽旅行に行ってみたいと口走るくらいには、小樽の記憶はすっぽりと抜け落ちてしまっていた。


 さて、肝心の美しき思い出の一コマとは、極々単純かつ些細な出来事で、でもだからこそ印象深い。実は灯枇あけび達家族は北海道旅行の際に、あちこちでソフトクリームを食べた。灯枇あけびは地元の日帰り旅行先として人気の、阿蘇に連れて行って貰った際にはいつも牧場で母親が買ってくれるので、ソフトクリームも大好物ではあった。

だがそれとは別に、ヒヲス小学校の音楽の授業で習った、札幌の空の歌詞にも登場する、とうきびに強く憧れを抱いていた筈なのに、何故か時計台からの帰りに公園に寄って食べたのもソフトクリームだった。季節は夏で、なのに九州と違ってまるでクーラーでも効いているかのような札幌の気候に、灯枇あけびはいたく感動を覚え、避暑地に住まう北海道住民が羨ましいと思った。

 だからそれと同様に、富良野のラベンダー畑でも、変わり種のラベンダーソフトを、家族の分もまとめて買って来るよう簡単なおつかいを頼まれたのは、当然とも言えるだろう。灯枇あけびは売店でラベンダーソフトを購入し、ラベンダー色のソフトクリームを1本受け取ってから、母親から預かったお金を出そうとしてまごついた。

そうしている間に、2本目のラベンダーソフトも出来上がってしまい、店員さんは客の灯枇あけびにも渡せず、ちょっと困っていた。すると、売店前で次の注文を待っていたくだんの外国人旅行者の女性が、代わりに無言でラベンダーソフトを受け取って、灯枇あけびが支払いを終えるまでの少しの間、持っていてくれたのだ。

何とか急いで支払いを終えた灯枇あけびは、親切な彼女からラベンダーソフトを受け取って、どうお礼を言ったら良いものか、考えあぐねた。彼女は英語でも中国語でも無い言語、おそらくは韓国語を、彼女の家族と見られる連れの旅行者達と話していた。だからThank youでは通じないかも知れないし、謝謝ではもっと通じないだろう。でも、韓国語でありがとうは、果たして何と言ったらいいのだろう?


 後々中学生となった灯枇あけびは、英語の授業の一番最初で流された、教科書の表紙裏に書かれた各国言語での「ありがとう」の音声を聴き取って、「カミさんにだ?」とページに書き込んだ。そしてそれから更に後、ようやく正式には「감사カムサ 합니다ハムニダ〈感謝します〉」と言うことを知った。


 しかし当時小学校5年生の野々下 灯枇あけびには、そんな韓国語知識は無く、更には世界中に話者の多い英語や中国語であれば、実は難なく通じた可能性や、そもそも北海道に旅行して来ているということは、ありがとうくらいの日本語は通じる可能性がある事も、まだ知らずにいた。

その為、言語的手段に頼ってお礼を述べることは諦めた灯枇あけびは、ぺこりと深く深く一礼をして、外国人旅行者の女性にお礼の意を表現した。それが彼女に上手く伝わったかどうかは分からない。少なくとも、ラベンダーソフトを持ち帰った灯枇あけびにその事を報告された母親は、何か言ったら良かったのにと否定的だった。


 だからまあ、どこのどなたかは存じませんし、おそらくは二度と会うことは無く、会ってもたぶんお互いに分からず、何なら旅行者のあなたは忘れていらっしゃるかも知れませんが、あの時は本当に助かりました。もしかしたらやはり灯枇あけびの勘違いで、韓国語では通じないのかも知れませんが、灯枇あけびはあなたに「감사カムサ 합니다ハムニダ〈感謝します〉」


 しかしながらこのような感動的エピソードがあったにも関わらず、中学生時代の灯枇あけびは悩み多き中二病患者となり、長らく思想的葛藤に苦しむ事となる。


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