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あなたの名前は?

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 ある時、突然路上に飛び出した事で、人対自転車の道路交通事故に遭った彼女は、そのまたある日の午後、病院のベッドで目を覚ました。点滴を替えに来たナースが、それに気付いて質問した。

「あなたの名前は?」

「イズミル・サム」

 イズミルは、知らせを受けて職場から駆け付けた母親に涙ながらに抱きすくめられたが、そこに父親の姿は無かった。
 父親のヘンリーは、飲んだくれて毎日寝て過ごすような、かなりろくでもない男とはいえ、回復した娘の見舞いにも訪れないような人間だっただろうか? イズミルが首をかしげていると、後ろから誰かに頭を撫でられた。

「イズミ、おはよう。…起きてすぐなのに、ごめんね。とても大事な話があるんだ」

 一週間後、イズミルは産まれ育った街を離れた。娘の意識不明中に再婚していた母とその友人、サワに連れられて。飛行機を降り、バスや電車を乗り継いで到着した先は母の故郷、雪けぶる町だった。イズミルは新たな父に連れられて教会に行くと、そこで洗礼を受け、バーバラという聖名を授かった。



「バーバラ・プラスティラス!」

 呼ばれてハッ、と顔を上げると、数学教師のMs.シューイが顔を覗き込んでいた。具合でも悪いのかと心配そうに訊ねられ、私は慌てて否定した。その後は何とか眠らずに授業を切り抜け、もう眠くて限界だったので、残りの授業はパスして帰った。

 母が国に帰った祖母から譲り受けた、自宅兼店舗の民族料理店・ザキントスに帰宅すると、1階の店舗には誰も見当たらず、テーブルの上に1杯だけ飲み残した水のグラスが置いてあった。

 それはそのまま放置して2階に上がり、部屋のドアを開けると、見知らぬ男がデスクに腰掛け、私が隠しておいたはずの同人誌を、手に持ってパラパラと捲っていた。

「Oh, Noooooooooo!!! Who are you?」

 悲鳴を上げて睨みつけると、向こうの男が顔を上げた。全く持ってそんな場合じゃないのだが、悔しいことに悪くない顔立ちだ。

「何があったんだバーバラ! ちょっと入るよ、いいね?」

 私の悲鳴を聞き付けて、パパが部屋のドアをノックした。助かった、即座にOKすると部屋に入って来たパパは、男を見て言った。

「今すぐ止めてくれませんか。ここは僕の娘、バーバラの部屋です」

「サワ、君っていつの間に結婚してたの? こんなに大きな子供が居るなんて。しかも似てない」

「当たり前でしょう、stepfamilyなんだから。それより誰アンタ、どこ出身?」

「シャリム・マリス、君のパパが産まれた国の人。多人種混合だから、見た目は母親寄りなんだ。返すよコレ。――中々面白いもの読んでるね。明日から自分も同じ高校の生徒だから、よろしく? バーバラ先輩」

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