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何がそんなに良いのやら
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希望した国立口之津海上技術学校への進学を、泣く泣く諦めさせられた野々下 灯枇にとって、次なる希望は、国立波方海上技術短期大学校だった。
しかし残念な事に、波方には男子寮しか無いのである。だがまだ望みはあった。国立清水海上技術短期大学校であれば、女子寮も存在している。あるいは入試の理系科目に不安要素があるものの、山口県下関市にある国立研究開発法人水産研究・教育機構、水産大学校に行ったって海技士資格は取れるのだ。
では何故東海大学の海洋学部・航海工学科の航海学専攻ではいけないのかというと、灯枇の支配的な母親が、私立大学は国公立と比べて学費がバカ高く、弟達の学費分を考えるとダメである。という、もっともらしい理屈を盾に、灯枇の進学逃亡を阻止したがっていたからだ。
だがこれらの進学希望先は、いずれも県外であり、県外まで行くとなると生活費が物凄くかかるから却下という理屈で一刀両断され、後は、またいつものように、灯枇の人格否定に終始して、その心をへし折って言う事を聞かせるのだ。それは親子のすれ違いによる哀しき誤解であると思うような、さぞかし恵まれた親子関係を享受して来たラッキー人間も居るかも知れないが、それは現実逃避のまやかしである。
実は県内には、今現在は統廃合により、県立天草拓心高等学校となっているが、その当時は県立苓洋高等学校という名前の高校が存在した。灯枇はそこでなら、県内でも海技士資格を取れたはずなのだ。しかし灯台下暗しというか、灯枇はその事実に関して、もう手遅れな大学受験シーズンになるまで気が付かなかった。そして親達はというと、灯枇を絶対に普通科高校へ進学させる皮算用だったから、そんな事は調べようともしなかったのだ。
一体全体、それはどうしてなのだろうか? その答えは社会的偏見である。
職業的な専門技術を身に着ける事が可能な高校、例えば水産・工業・商業・農業という分野の名前が一緒に付くような高校は、その実態内容に関わらず、どこも全部、入試偏差値が低く誰でも入れる底辺校だから、きっとヤンキーの溜まり場で、生徒も大学進学出来ないような馬鹿揃いという偏見を抱く馬鹿が居るのだ。
だからどうしてもそっちの道に行きたければ、死ぬ程受験勉強をこなして理系科目もバッチリなオールマイティとなり、神戸大学の海事科学部や、東京海洋大学に進学出来るような超優等生を目指さなくてはならないのだ。あるいは熊本大学に進学し、海洋学やら関連講座を受講すれば若干の悲しみは慰められるのかも知れない。
灯枇は結局、行きたくも無い普通科高校へ進学させられ、行きたくも無い地方私立大学に進学させられる羽目になったから、本当に行きたかった学校の詳しい内情は全く分からない。
ではそれ程までに、入試偏差値の高い普通科高校とは、優れた教育機関なのだろうか?
生徒全員が大学か専門学校、稀に高卒公務員や准看護師や、高卒就職のホテルマン等を目指して受験勉強させられ、学校が終わっても塾やら公務員予備校やらに通わされる。しかも九州独自の教育文化として、朝課外という名の、早朝課外授業まで学校によっては存在する。この朝課外への遅刻もカウントされ、必由館では事前予告も全然無しに、それが指定校推薦枠を使わせない理由としてまかり通る。
そんな自由を奪われた青少年達が、若さ故に有り余る体力を活かして校内暴力やら未成年犯罪などの方向へと走らないように、原則として運転免許の取得を禁じて、暴走族にもならないようにする。各種部活動を用意して、その使い勝手の良い指導者として、休日にも高校教師を扱き使い、生徒は部畜となって朝練・夕練・夜練・休練こなして大会入賞し、学校の評判を上げて次の犠牲者を呼び込む。
家庭事情によっては少なすぎる小遣いでも、マシな友人関係を維持していく為には圧倒的に不足する。だから保護者や学校に黙ってでも、校則で禁止されたアルバイトや、場合によっては窃盗品の転売行為や、恋人に貢がせたり、保護者から金を盗んだりや、後ろ暗くて援助交際やパパ活と言い換える、実質売春という名の肉体労働を欠かす事が出来ない高校生も居るのだ。
彼らはもし摘発されたところで、こう言うしかない。「遊ぶ金が欲しかった」のだと。
そう。何故なら放課後の、「遊び」という名の人付き合いには、何かと金がかかるばかりか、いざ金がなくなれば仲間と同じ体験を共有できず、結果としてその後、話の輪の中にも加われず、誰もが何より恐れる一人ぼっちになってしまうからだ。
しかし残念な事に、波方には男子寮しか無いのである。だがまだ望みはあった。国立清水海上技術短期大学校であれば、女子寮も存在している。あるいは入試の理系科目に不安要素があるものの、山口県下関市にある国立研究開発法人水産研究・教育機構、水産大学校に行ったって海技士資格は取れるのだ。
では何故東海大学の海洋学部・航海工学科の航海学専攻ではいけないのかというと、灯枇の支配的な母親が、私立大学は国公立と比べて学費がバカ高く、弟達の学費分を考えるとダメである。という、もっともらしい理屈を盾に、灯枇の進学逃亡を阻止したがっていたからだ。
だがこれらの進学希望先は、いずれも県外であり、県外まで行くとなると生活費が物凄くかかるから却下という理屈で一刀両断され、後は、またいつものように、灯枇の人格否定に終始して、その心をへし折って言う事を聞かせるのだ。それは親子のすれ違いによる哀しき誤解であると思うような、さぞかし恵まれた親子関係を享受して来たラッキー人間も居るかも知れないが、それは現実逃避のまやかしである。
実は県内には、今現在は統廃合により、県立天草拓心高等学校となっているが、その当時は県立苓洋高等学校という名前の高校が存在した。灯枇はそこでなら、県内でも海技士資格を取れたはずなのだ。しかし灯台下暗しというか、灯枇はその事実に関して、もう手遅れな大学受験シーズンになるまで気が付かなかった。そして親達はというと、灯枇を絶対に普通科高校へ進学させる皮算用だったから、そんな事は調べようともしなかったのだ。
一体全体、それはどうしてなのだろうか? その答えは社会的偏見である。
職業的な専門技術を身に着ける事が可能な高校、例えば水産・工業・商業・農業という分野の名前が一緒に付くような高校は、その実態内容に関わらず、どこも全部、入試偏差値が低く誰でも入れる底辺校だから、きっとヤンキーの溜まり場で、生徒も大学進学出来ないような馬鹿揃いという偏見を抱く馬鹿が居るのだ。
だからどうしてもそっちの道に行きたければ、死ぬ程受験勉強をこなして理系科目もバッチリなオールマイティとなり、神戸大学の海事科学部や、東京海洋大学に進学出来るような超優等生を目指さなくてはならないのだ。あるいは熊本大学に進学し、海洋学やら関連講座を受講すれば若干の悲しみは慰められるのかも知れない。
灯枇は結局、行きたくも無い普通科高校へ進学させられ、行きたくも無い地方私立大学に進学させられる羽目になったから、本当に行きたかった学校の詳しい内情は全く分からない。
ではそれ程までに、入試偏差値の高い普通科高校とは、優れた教育機関なのだろうか?
生徒全員が大学か専門学校、稀に高卒公務員や准看護師や、高卒就職のホテルマン等を目指して受験勉強させられ、学校が終わっても塾やら公務員予備校やらに通わされる。しかも九州独自の教育文化として、朝課外という名の、早朝課外授業まで学校によっては存在する。この朝課外への遅刻もカウントされ、必由館では事前予告も全然無しに、それが指定校推薦枠を使わせない理由としてまかり通る。
そんな自由を奪われた青少年達が、若さ故に有り余る体力を活かして校内暴力やら未成年犯罪などの方向へと走らないように、原則として運転免許の取得を禁じて、暴走族にもならないようにする。各種部活動を用意して、その使い勝手の良い指導者として、休日にも高校教師を扱き使い、生徒は部畜となって朝練・夕練・夜練・休練こなして大会入賞し、学校の評判を上げて次の犠牲者を呼び込む。
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彼らはもし摘発されたところで、こう言うしかない。「遊ぶ金が欲しかった」のだと。
そう。何故なら放課後の、「遊び」という名の人付き合いには、何かと金がかかるばかりか、いざ金がなくなれば仲間と同じ体験を共有できず、結果としてその後、話の輪の中にも加われず、誰もが何より恐れる一人ぼっちになってしまうからだ。
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