タイマヲマイタ 【中学生時代】

博愛 麗日

百合趣味と薔薇趣味

　新海誠監督の映画「君の名は。」を例に出すと、外見上れっきとした男が、口調や態度を社会的な女ぶると、例え本人が希望しなくても、たちまちコメディエンヌとして扱われる。しかしながら、外見上れっきとした女が、いくら社会的な男ぶろうが、むしろさっぱりとした気風の良さとなり、女ぶる男とは逆に、何故か好感度が上がる。


　これと同様に、架空の女同士の嬉し恥ずかしの関係性を描く百合趣味というものは、まず少しでも詳しい者が聞けば、「百合」という単語を聞いて即座に連想されるのは、恐らく元からビアン同士の欲を伴った現実的な恋愛模様では無い。主に女子学生同士が密かに交わす愛情の機微、要するに、少なくともどちらか片方は、最初の時点では清らかな疑似姉妹関係、極めて仲のいい友人だと思っている必要がある。つまりはこれが、少しでも薔薇趣味に詳しい者が抱くであろうイメージとの最大の違いである。


　薔薇趣味については、薔薇趣味者からも、それ以外からも、星の数程論じられている。まあ誰が何と言おうと、何かしらは一理ある。

ちなみに現在、隠れ薔薇趣味である野々下 灯枇あけびの趣味歴について書いておくと、彼女は元々夢趣味だった。しかし名前が自由に変えられるタイプの夢小説であっても、本名をそのまま入力するなんて恥ずかし過ぎて無理だった。また夢趣味の宿命として、原作の展開が進むに連れて、必ずその設定と矛盾してしまう。当たり前の話だが、原作には夢主が存在しないからだ。


　だからといって原作登場人物の男女達を、その二人に恋愛フラグがあろうが無かろうが、無理矢理くっつけるのは嫌だった。これは灯枇あけびの場合、実はかなり嫉妬深いからだ。

　原作に登場し、灯枇あけびのお気に入りキャラと同じ世界に存在し、あろう事か会話までしている。この時点で凄まじい幸運に恵まれていながら、その上、魅力的な理想の異性たる彼を独り占めしようだなんて。酷い！　酷い！　酷い！　そんなの残酷過ぎんだろ、今まで掛かった金返せや！

　要するに、素敵な彼はファン達の永遠の偶像崇拝対象であるべきで、半ば天使と言っても差し支えない。そんな尊い存在を、単なる独占欲で一家庭の枠に収め、あくまでものの例えで言うなら、彼をスーパーで卵買って来るような所帯染みさせ魅力を奪い、堕落させようだなんて。絶対に許されてなるものか！


　だが何故か不思議な事に、それを原作からかけ離れた、男キャラ同士にしてしまえば嫉妬が湧かない。むしろ元々最初に好きだった方より、原作の展開上縁があって、灯枇あけびの空想上くっつけただけのキャラの方を、いつの間にか愛でて登場巻の漫画を買っていたりもする。


　だから灯枇あけびが思うに、百合趣味とは疑似一夫多妻制である。魅力的な妻同士が、ファンである夫そっちのけで仲良くしていたら、あまり面白くは無いだろう。まあそれはまだ良かったとしても、どちらかが別のモブ男に心奪われるなんてもっての外である。

そして薔薇趣味とは、コンプレックスの塊かたまりで、普段なら恥ずかしくて出せない自己愛の特殊な発露方法である。薔薇趣味のメリットは他にも色々とあるのだが、灯枇あけびもまたその恩恵にあずかる事が出来た。博ひろく愛を持つ、薔薇趣味友達・博愛はくあい 麗うる日ひとの出会いである。