上 下
21 / 38
似非淑女的ペドファイルの従姉

目指すだけなら誰でも出来る

しおりを挟む
 野々下 森次しんじが産まれたE産婦人科病院は、相互理解と、安心と、確かな治療を『目指して』鋭意経営努力中のようだが、昔も今も、明らかに精神科病院ではない。

 だから医者から言われて更年期障害だと思いこんでいる、鬱病患者に何かしらの薬は処方出来ても、確かな治療は不可能だ。しかも鬱病患者本人には、更年期障害という嘘しか言わないという事は、ナポレオン・ボナパルトの辞書には不可能という言葉が存在しないように、E産婦人科病院の辞書にはインフォームド・コンセントという言葉が存在しないようだ。今現在は改善されている事を祈りたいが。


 このようにして、不当に鬱病患者から入院費用を稼いだ他、婦人病の治療目的以外、例えば生理痛改善や避妊を目的とする場合は保険適用外となる低用量ピルの金額も、他の婦人科病院よりも比較的高く上乗せしている。E産婦人科病院は、患者側から強く希望されなければ、生理痛改善にはロキソニン派で、避妊は出来ればコンドーム派である。今は改善されているかどうかは定かではないが、少なくとも野々下 灯枇あけびが見た範囲では、極めてがめつい経営方針であった。

そのくせ今現在は改善されている事を祈りたいが、子宮の検査器具も古く、前か後ろのどちらからか直接突っ込んで診ない事には、ピル処方の可否判断もつけられないらしい。一応毎回では無かったが、性別関係なくE産婦人科病院に勤務する医者達は、突っ込むのが当たり前だし、そうでなければ危ないので、低用量ピルは処方出来ないという主義だった。

「じゃあ、前から突っ込んで診てみましょうか。え、まだなんですか? 今どき珍しい」

 性別関係なくE産婦人科病院に勤務する医者達の頭は、恐ろしく春だった。

 もちろん突っ込む前にちゃんと質問するから、とんでもない悲劇は起こり得ないのだが。妙齢の女性ならば経験済みに違いないという、彼ら彼女ら独特の価値観のせいで生じる羞恥プレイを突破し、低用量ピルがどうしても欲しければ、どうせ異常など見つかるはずも無いのに、我慢して後ろから突っ込まれなくてはならないのだ。


 何故こんな話を書くかというと、この後ろから突っ込まれたのが引き金となって、大学生時代の野々下 灯枇あけびは、とある昔の話を思い出したからだ。それはある時、知人の美里君から話して聞かせてくれた話だった。

「フニャフニャだから、後ろから抱きつかれて入っちゃったんだ。この間部活の合宿でさー、風呂に浸かってる時。あいつフニャフニャだけん」

 灯枇あけびはその頃既に薔薇趣味だったから、突然告げられた内容に一瞬クエスチョンマークを浮かべたものの、美里君の話が果たして何を意味するのかは、ある程度理解出来た。

「え? ええっ!?」

 前提として、灯枇あけびは、今も昔も薔薇趣味同士以外の人前では、その趣味を公言した事は一切無い。また、善良な美里君は、残念ながらこの話以外は特筆すべきエピソードが見当たらないが、灯枇あけびとはごく普通の知人同士であり、少なくとも彼は灯枇あけびに嘘を吐くような人間では無い。

 美里君は、灯枇あけびのびっくり仰天した反応を確かめると、何故か微笑みを浮かべ、それじゃ、と手を振って去って行った。

当時の灯枇あけびには分からなかったが、そもそも後ろから突っ込まれるというのは、それが検査器具で、潤滑剤を塗布されていたとしても、精神的なショックはかなりデカい。ということは、謎のあいつがどんなにフニャフニャだろうが、美里君は、部活動合宿先の風呂場でめちゃくちゃ嫌な目に遭わされた事になる。

――ヒヲス保育園に通っていた、その母親とお揃いの、金髪混じりの茶髪に染められていた年下のアテネちゃん

――親達から江津湖近くのアパート内で臀部を平手打ちされ、度々外に叩き出されては泣き叫んで許しを乞い、その結果引き起こされた夜尿症をあざ笑われて、ヒヲス小学校入学前から自尊心がずたぼろに壊れ、中学生時代の柾谷まさや曰く、引っ込み思案な性格となっていた野々下 灯枇あけび

 保育園時代、年下のアテネちゃんが灯枇あけびと親しく遊んでくれたことや、中学時代に突然廊下で灯枇あけびに話しかけて来た美里君の例を紐解いて、ああやはり犠牲者同士は惹かれ合うのだとセンチメンタルに浸りたくなるかも知れない。しかしそれは違う。美里君は、灯枇あけびの価値観を問うたのだ。

美里君は男子だから、謎のあいつと同じ風呂に入るしかなく、結果としてトラブルに巻き込まれてしまったが、例えその場に部活仲間か、部活指導者か何かの第三者が居たのだとしても、単なる悪ふざけとして受け止められてしまったのだろう。もしかすると笑われてしまったのかも知れない。


 美里君はそんな最低最悪の部活合宿から生還したが、男子だから、もし仮に信頼できそうな先生か親に嫌悪感を訴えたとしても、真面目に取り合っては貰えなかっただろう。

本来であれば、誰に対してであっても刑法第177条が適用されて、犯罪者にはしかるべき処罰が下るべきだが、やるせない事にそれを警察官や検察官や裁判官に証明する為には、気色の悪い物的証拠があれば鑑定用にきちんと残し、刑事訴訟法に基づいて警察官達が作る、これは2020年今現在も変わらず、調書という名のインタビュー作文が完成するまで、可能な限り長時間、何回でも付き合わされる事になる。しかも役所の都合で担当者が変わることだってあり得るのだから、同じ事を何度も何度もインタビューされてしまう可能性だってある。

これが録画なら一回で済む上に、そもそも本当に本人が言ったのかどうかや、証言や自白の強要疑惑も晴らせるというのに。最悪PTSDを発症しかねない、トラウマ作文インタビューに参ってしまったら、もう残された手段は相手との示談で、犯罪者には金銭的処罰を与えて終わりにするしかない。誠に日本国の裁判制度というものは、特に刑法第177条に関しては、やったもん勝ちの犯罪者天国と呼んでも差し支えないのではないだろうか?


 こんな延々と続く作文インタビューシーンなんて、刑事ドラマの限られた尺で再現するのは不可能だし、つまらなくて視聴率も取れない。だから、本当に大事な部分はいつも省かれてしまうのだ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...