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第二章 雪けぶる町
雪けぶる町
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ザキントスは、別れた両親の故郷から名前を取ったらしい。移民として流れ着いたこの町で、彼は漁師となり、彼女は民族の味を活かして料理店を開いた。しかして彼女は漁へ出たきり帰らぬ元夫、帰って来た所で疲れ果て愛一つ囁かない元夫に嫌気が差し、一人娘の目の前で指輪を投げ付けた。その末路がこれだ。
――浮かれたバックパッカーが我が物顔で居座る家。
でも今居るこいつはまだマシな方。少なくとも、聞かれてない事は喋らない。
――君のママは最高だったよ。え?何がって?
気分は限りなくどん底のブルーだ。朝っぱらから嫌な事を思い出してしまった。
「何? 食べないの? せっかくケンが作ってくれたのに。無理なダイエットは美容に良くないんだからね、まったく、大して食べもしないのにぶくぶく太って」
遥か彼方のハイスクールまで、片道2時間運転しながら向かう。対向車も無ければ、後続車も無い。どれだけかっ飛ばそうが誰も見ていない。いっそこのままガードレールを突き破って、車ごとスクラップになってやろうか。
学校に着いた。オンボロ車を停めて駐車場を後にする。終わったら教会に行ってメトディオス修道士に会おう。
薄暗い廊下で剥がれかけたポスターに目が留まる。
――ホストファミリー募集中! 自宅で気軽に異文化交流!
留学生…良いかも知れない。ママが男を連れ込むなら、私だって異国の友人を連れ込んでやろう。
担当職員に話を聞けば、成り手が見つからずにほとほと困り果てていたらしい。
――男の子だけど、大丈夫?
あー……まあ、良いや。帰ってママに訊いてみます。私は全然、構わないんで。
「ダメに決まってるでしょう、そんなの。うちにはケンが居るの。余っている部屋なんか無いし、あ、それとも貴方が出てく?」
どうせ反対すると思った。でもその冗談は笑えない。
「おういキリアキ、注文はまだかい? ああイオニア、いつものコーヒーとヨーグルトパフェを頼むよ。おや? 何だか泣きそうな顔をしているね? 」
そっと気に掛けてくれたポチョムキン夫妻は、うちの常連で長い付き合いだ。
お給仕のついでに、留学生やホストファミリーの話を掻い摘んで説明した。
「へえ、なるほどねえ。悪くないんじゃない。うちなら部屋も余ってるし……」
――浮かれたバックパッカーが我が物顔で居座る家。
でも今居るこいつはまだマシな方。少なくとも、聞かれてない事は喋らない。
――君のママは最高だったよ。え?何がって?
気分は限りなくどん底のブルーだ。朝っぱらから嫌な事を思い出してしまった。
「何? 食べないの? せっかくケンが作ってくれたのに。無理なダイエットは美容に良くないんだからね、まったく、大して食べもしないのにぶくぶく太って」
遥か彼方のハイスクールまで、片道2時間運転しながら向かう。対向車も無ければ、後続車も無い。どれだけかっ飛ばそうが誰も見ていない。いっそこのままガードレールを突き破って、車ごとスクラップになってやろうか。
学校に着いた。オンボロ車を停めて駐車場を後にする。終わったら教会に行ってメトディオス修道士に会おう。
薄暗い廊下で剥がれかけたポスターに目が留まる。
――ホストファミリー募集中! 自宅で気軽に異文化交流!
留学生…良いかも知れない。ママが男を連れ込むなら、私だって異国の友人を連れ込んでやろう。
担当職員に話を聞けば、成り手が見つからずにほとほと困り果てていたらしい。
――男の子だけど、大丈夫?
あー……まあ、良いや。帰ってママに訊いてみます。私は全然、構わないんで。
「ダメに決まってるでしょう、そんなの。うちにはケンが居るの。余っている部屋なんか無いし、あ、それとも貴方が出てく?」
どうせ反対すると思った。でもその冗談は笑えない。
「おういキリアキ、注文はまだかい? ああイオニア、いつものコーヒーとヨーグルトパフェを頼むよ。おや? 何だか泣きそうな顔をしているね? 」
そっと気に掛けてくれたポチョムキン夫妻は、うちの常連で長い付き合いだ。
お給仕のついでに、留学生やホストファミリーの話を掻い摘んで説明した。
「へえ、なるほどねえ。悪くないんじゃない。うちなら部屋も余ってるし……」
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