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第三章 悪魔になんかならないで!
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「ありがとう。美優ちゃんのおかげよ」
萌ちゃんは私のその手をそっと握りながら言った。
「私の?」
「うん。宮崎さんの心に、光を差し込んでくれた。人をうらやんでうらやんで闇を作ってしまった宮崎さんに、まだ自分はだめじゃない、って思わせてくれたの。だから、まだ融合していなかった……ええと、宮崎さんをのっとっていなかった闇を落とすことができたのよ。ありがとう」
「最初から、あの翼の力を使っていればすぐ終わったのに」
私が言うと、萌ちゃんは苦笑する。
「あれは、私の持っている力のすべてだから……最初の段階で使ってしまったら、その後何があっても私は無力になってしまう。だから、弱い力を使って浄化を……ええとなんていえばいいのかな。魂をきれいにすることを続けて、闇を薄くしていってからでないと使えないのよ」
「そっか……」
「でも、びっくりしちゃった。美優ちゃんがあんなにはっきり人に言うことって、あまりないから」
言われて自分でも気づいた。必死だったから、普段のようにためらっている暇もなかった。
私は、少し照れながら笑った。
「だって、萌ちゃんがけがしたみたいだったから必死で……そうだ、腕は? 痛くないの?」
「ええ、大丈夫。少しあざにはなるかもしれないけれど、さっき力を集めたから、その時に私の傷も一緒に治っちゃったわ。それより、美優ちゃんの肩も見せて?」
「あ」
私もあれを受けたんだっけ。
ムチで打たれた肩を触ると、ずきりと痛みが走った。
「やっぱり、いたああい」
「動かないで」
そう言うと、萌ちゃんは私の肩に、そ、と手を置いた。と、そこから、さっきの翼と同じ暖かい光があふれる。すると、みるみるうちに私の肩の痛みが消えてしまった。
「力は使っちゃったんじゃないの?」
「ええ。だから完全な治療はできないけれど、痛みを消すくらいならなんとか」
「うん、もう全然痛くない。ありがとう、萌ちゃん」
「あとは、彼女ね」
そう言うと萌ちゃんは私の手を離して、ばさりと翼を揺らしながらほんの一歩で宮崎さんのとなりに立った。
倒れている宮崎さんの体に手をかざして、私にしたのと同じようにその体をほんのり光る手で撫でていく。宮崎さんは眠っているように動かない。
「けがはないみたいね。ようやく、宮崎さんの悪夢が醒めたのよ。本当に、よかったわ」
私も近寄って見てみると、その顔はとても穏やかだった。
「宮崎さん、やっぱりきれいだね」
私が六年の教室で彼女を見た時には、もう闇が彼女をあやつっていたんだろう。今の宮崎さんは、その時よりもとてもやわらかい笑顔を浮かべて眠っていた。
「ふふ、そうね」
萌ちゃんが話す動きにつれて、その背中にある翼がゆらゆらと揺れていた。うっすらと光を帯びたそれは、透けてはいたけれど、本で見た天使の翼よりずっとずっときれいだった。
「ねえ、この翼って、触れる?」
私が聞くと、萌ちゃんはちょっと目を見開いた。
「触りたいの?」
「うん」
「いいわよ。そっとね、くすぐったいから」
言われた通り、そおっと手をのばす。
その翼は、ほんのりと暖かくて、思ったよりすべすべしていた。
「きれいだね」
思わずつぶやくと、萌ちゃんが嬉しそうに笑った。
「ありがとう。私は下っ端だからこんな翼だけれど、もっと上の天使様になると、真っ白でとても大きな翼を持っているのよ?」
「そうなんだ。萌ちゃんもいつかそうなるの?」
「ううん、そういう天使様は、最初から天使だった方だけよ。私は、このまま」
「え……そうなんだ。ごめん」
悪いこと聞いちゃったのかな。しゅんとした私に、萌ちゃんは笑った。
「そうじゃないの。私たちは一定の修行を終えたらまた生まれ変わるから、翼は必要なくなるの。これは、それまでの仮の翼。天使である証拠ね。この世界から力を貸してもらえるのも、この翼のおかげなのよ」
萌ちゃんは私のその手をそっと握りながら言った。
「私の?」
「うん。宮崎さんの心に、光を差し込んでくれた。人をうらやんでうらやんで闇を作ってしまった宮崎さんに、まだ自分はだめじゃない、って思わせてくれたの。だから、まだ融合していなかった……ええと、宮崎さんをのっとっていなかった闇を落とすことができたのよ。ありがとう」
「最初から、あの翼の力を使っていればすぐ終わったのに」
私が言うと、萌ちゃんは苦笑する。
「あれは、私の持っている力のすべてだから……最初の段階で使ってしまったら、その後何があっても私は無力になってしまう。だから、弱い力を使って浄化を……ええとなんていえばいいのかな。魂をきれいにすることを続けて、闇を薄くしていってからでないと使えないのよ」
「そっか……」
「でも、びっくりしちゃった。美優ちゃんがあんなにはっきり人に言うことって、あまりないから」
言われて自分でも気づいた。必死だったから、普段のようにためらっている暇もなかった。
私は、少し照れながら笑った。
「だって、萌ちゃんがけがしたみたいだったから必死で……そうだ、腕は? 痛くないの?」
「ええ、大丈夫。少しあざにはなるかもしれないけれど、さっき力を集めたから、その時に私の傷も一緒に治っちゃったわ。それより、美優ちゃんの肩も見せて?」
「あ」
私もあれを受けたんだっけ。
ムチで打たれた肩を触ると、ずきりと痛みが走った。
「やっぱり、いたああい」
「動かないで」
そう言うと、萌ちゃんは私の肩に、そ、と手を置いた。と、そこから、さっきの翼と同じ暖かい光があふれる。すると、みるみるうちに私の肩の痛みが消えてしまった。
「力は使っちゃったんじゃないの?」
「ええ。だから完全な治療はできないけれど、痛みを消すくらいならなんとか」
「うん、もう全然痛くない。ありがとう、萌ちゃん」
「あとは、彼女ね」
そう言うと萌ちゃんは私の手を離して、ばさりと翼を揺らしながらほんの一歩で宮崎さんのとなりに立った。
倒れている宮崎さんの体に手をかざして、私にしたのと同じようにその体をほんのり光る手で撫でていく。宮崎さんは眠っているように動かない。
「けがはないみたいね。ようやく、宮崎さんの悪夢が醒めたのよ。本当に、よかったわ」
私も近寄って見てみると、その顔はとても穏やかだった。
「宮崎さん、やっぱりきれいだね」
私が六年の教室で彼女を見た時には、もう闇が彼女をあやつっていたんだろう。今の宮崎さんは、その時よりもとてもやわらかい笑顔を浮かべて眠っていた。
「ふふ、そうね」
萌ちゃんが話す動きにつれて、その背中にある翼がゆらゆらと揺れていた。うっすらと光を帯びたそれは、透けてはいたけれど、本で見た天使の翼よりずっとずっときれいだった。
「ねえ、この翼って、触れる?」
私が聞くと、萌ちゃんはちょっと目を見開いた。
「触りたいの?」
「うん」
「いいわよ。そっとね、くすぐったいから」
言われた通り、そおっと手をのばす。
その翼は、ほんのりと暖かくて、思ったよりすべすべしていた。
「きれいだね」
思わずつぶやくと、萌ちゃんが嬉しそうに笑った。
「ありがとう。私は下っ端だからこんな翼だけれど、もっと上の天使様になると、真っ白でとても大きな翼を持っているのよ?」
「そうなんだ。萌ちゃんもいつかそうなるの?」
「ううん、そういう天使様は、最初から天使だった方だけよ。私は、このまま」
「え……そうなんだ。ごめん」
悪いこと聞いちゃったのかな。しゅんとした私に、萌ちゃんは笑った。
「そうじゃないの。私たちは一定の修行を終えたらまた生まれ変わるから、翼は必要なくなるの。これは、それまでの仮の翼。天使である証拠ね。この世界から力を貸してもらえるのも、この翼のおかげなのよ」
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