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第三章 悪魔になんかならないで!
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小さな声は、戸惑ったようなに自信なさげだった。
すると、あたりに吹き荒れる風が少しだけ弱まった。私を見る宮崎さんの目も、まだ赤いままだったけど、さっきまでのきつさがなくなっている。
萌ちゃんが、ぎゅ、と私の腕をつかむ。
「萌ちゃん?」
「ありがとう、美優ちゃん。これで……闇を落とせるわ」
「そ……なの?」
「ええ。今ね、彼女の心に光が差し込んだの。ほんの少しの光でよかった。少しだけでも心に光が入れば、私の力が有効になる。私一人の言葉じゃだめだったけど、美優ちゃんも一緒に説得してくれたから、宮崎さんがようやく私の言葉を信じてくれたの」
「萌ちゃん。宮崎さん、助かるよね? もう、あんなに苦しまないですむようになるよね?」
私がそう言うと、萌ちゃんはまじまじと私を見つめた。
「萌ちゃん……だめなの?」
「ううん」
そうして萌ちゃんは、場違いなほど嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「やっぱり美優ちゃんは、いい子ね」
「へ?」
「まかせてちょうだい。見てて、これで終わりにできるわ」
そう言って萌ちゃんは、ゆっくりと、おじぎをするように体を前に倒した。その体が、ぼんやりと光り始めて、その背中から何かもやのようなものが立ち上がってくる。
見る間にそれは、萌ちゃんの背と同じくらい大きい翼の形になった。それは、うっすらと向こうが透けて見えている不思議な翼だった。
その翼全体からは、お日様のように暖かい光があふれてくる。さっき、萌ちゃんの手から出たボールと同じ光だ。
きれい。これが、萌ちゃんの、天使の翼。
「光よ、万物に宿る命よ、私に力を貸したまえ」
体を起こして天を仰いだ萌ちゃんが、大きく空へ向かって手を広げた。開ききった翼に、あちこちから小さい光が集まり始めて、どんどん萌ちゃんの翼にくっついていく。
私も、そして宮崎さんも、固まったようにその姿をただ見ていた。
私たちの前でその翼は、最初の倍くらいの大きさにまでふくれ上がって、すみずみまで暖かい光で満たされる。
その翼がばさりと大きな音をたてて羽ばたいて、光の筋がきらきらと光りながら風のように宮崎さんへと流れていった。
「ぎゃあああああああ!」
その光に包まれた宮崎さんが、ものすごい悲鳴をあげる。しばらく苦しげにもがいていたけれど、そのうちばたりとその場に倒れてしまった。その体の上には、萌ちゃんの翼の光にあおられて、黒いもやもやとした影のようなものが揺らめいている。
「何、あれ?」
「あれが闇の本体。私の力でむりやり引きずり出したの。あれを体の外に引き出せれば、もう本人は大丈夫よ」
その影を見て、ぞ、とする。
宮崎さんを乗っ取ろうとしていた、黒い影。心の闇。それが、宮崎さんの上で身もだえるようにもがいていた。ぐにぐにとうごめくその姿は、鳥肌立つくらい気持ち悪い。
宮崎さんは、倒れたまま動かない。
ばさり、と萌ちゃんの翼がもう一度音をたてる。再び、翼を包んでいた光が宮崎さんへと向かっていった。その光は、うごめいている黒い闇をふわりと包み込む。苦しそうにもがいていた闇は、しゅわしゅわとはじから溶けるように小さくなっていった。
その様子を息を飲んで見守っていると、闇は小さくなって小さくなって……最後には、ぷすん、と消えてしまった。
後に残されたのは、倒れている宮崎さんだけだった。もう、風は吹いていない。
そこは、いつもの三角公園に戻っていた。きれいな夕焼けが空に広がっている。
私は萌ちゃんに、おそるおそる声をかけた。
「終わったの?」
萌ちゃんは、振り向いてにっこりと笑った。
「これで宮崎さんも、もとの宮崎さんに戻るわ」
「よかった」
ほっとして力が抜ける。ふと、手の平がジンジンとしてるのに気がついた。いつのまにか、両手を固く握りしめていたみたい。
すると、あたりに吹き荒れる風が少しだけ弱まった。私を見る宮崎さんの目も、まだ赤いままだったけど、さっきまでのきつさがなくなっている。
萌ちゃんが、ぎゅ、と私の腕をつかむ。
「萌ちゃん?」
「ありがとう、美優ちゃん。これで……闇を落とせるわ」
「そ……なの?」
「ええ。今ね、彼女の心に光が差し込んだの。ほんの少しの光でよかった。少しだけでも心に光が入れば、私の力が有効になる。私一人の言葉じゃだめだったけど、美優ちゃんも一緒に説得してくれたから、宮崎さんがようやく私の言葉を信じてくれたの」
「萌ちゃん。宮崎さん、助かるよね? もう、あんなに苦しまないですむようになるよね?」
私がそう言うと、萌ちゃんはまじまじと私を見つめた。
「萌ちゃん……だめなの?」
「ううん」
そうして萌ちゃんは、場違いなほど嬉しそうな微笑みを浮かべた。
「やっぱり美優ちゃんは、いい子ね」
「へ?」
「まかせてちょうだい。見てて、これで終わりにできるわ」
そう言って萌ちゃんは、ゆっくりと、おじぎをするように体を前に倒した。その体が、ぼんやりと光り始めて、その背中から何かもやのようなものが立ち上がってくる。
見る間にそれは、萌ちゃんの背と同じくらい大きい翼の形になった。それは、うっすらと向こうが透けて見えている不思議な翼だった。
その翼全体からは、お日様のように暖かい光があふれてくる。さっき、萌ちゃんの手から出たボールと同じ光だ。
きれい。これが、萌ちゃんの、天使の翼。
「光よ、万物に宿る命よ、私に力を貸したまえ」
体を起こして天を仰いだ萌ちゃんが、大きく空へ向かって手を広げた。開ききった翼に、あちこちから小さい光が集まり始めて、どんどん萌ちゃんの翼にくっついていく。
私も、そして宮崎さんも、固まったようにその姿をただ見ていた。
私たちの前でその翼は、最初の倍くらいの大きさにまでふくれ上がって、すみずみまで暖かい光で満たされる。
その翼がばさりと大きな音をたてて羽ばたいて、光の筋がきらきらと光りながら風のように宮崎さんへと流れていった。
「ぎゃあああああああ!」
その光に包まれた宮崎さんが、ものすごい悲鳴をあげる。しばらく苦しげにもがいていたけれど、そのうちばたりとその場に倒れてしまった。その体の上には、萌ちゃんの翼の光にあおられて、黒いもやもやとした影のようなものが揺らめいている。
「何、あれ?」
「あれが闇の本体。私の力でむりやり引きずり出したの。あれを体の外に引き出せれば、もう本人は大丈夫よ」
その影を見て、ぞ、とする。
宮崎さんを乗っ取ろうとしていた、黒い影。心の闇。それが、宮崎さんの上で身もだえるようにもがいていた。ぐにぐにとうごめくその姿は、鳥肌立つくらい気持ち悪い。
宮崎さんは、倒れたまま動かない。
ばさり、と萌ちゃんの翼がもう一度音をたてる。再び、翼を包んでいた光が宮崎さんへと向かっていった。その光は、うごめいている黒い闇をふわりと包み込む。苦しそうにもがいていた闇は、しゅわしゅわとはじから溶けるように小さくなっていった。
その様子を息を飲んで見守っていると、闇は小さくなって小さくなって……最後には、ぷすん、と消えてしまった。
後に残されたのは、倒れている宮崎さんだけだった。もう、風は吹いていない。
そこは、いつもの三角公園に戻っていた。きれいな夕焼けが空に広がっている。
私は萌ちゃんに、おそるおそる声をかけた。
「終わったの?」
萌ちゃんは、振り向いてにっこりと笑った。
「これで宮崎さんも、もとの宮崎さんに戻るわ」
「よかった」
ほっとして力が抜ける。ふと、手の平がジンジンとしてるのに気がついた。いつのまにか、両手を固く握りしめていたみたい。
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