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第四章 星の降る夜
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「クラスごとに整列。点呼とるぞー!!」
浮かれる生徒たちを前に、高木が声をはった。
まだ薄暗い夜明け前、高校の校庭には数台のバスと大勢の生徒がいた。
生徒の合間をぬって自分のクラスに向かっていた陽介は、向こうに藍を見つける。
今日なら。そう思って、陽介は手を握りしめて声をかけた。
「藍!」
一度振り向いた藍は、けれど声を返すことなく生徒の波にまぎれてしまう。
「うわ。避けられてるって本当だったんだ」
初めてその場面を目にした諒が小さくうめいた。
「うん……」
陽介は小さく返す。
陽介の気持ちに答えられないならそれでも仕方ない。あの夜、藍の気持ちも確かめずに勝手にキスしたことを怒っているなら謝りたい。嫌いになったのなら嫌いだと、はっきり藍の口から聞くまでは、陽介の気持ちはいつまでたっても晴れなかった。
乗車が始まり、陽介がもやもやしながらバスに向かっていると、目の前の女子が人波に押されてふらつく。
「お、っと。大丈夫? あ、赤羽さん」
陽介が荷物を支えて声をかけると、赤羽が振り向く。
「ありがと、宇都木君。ちょっとよろけちゃった」
「もしかして、足、まだ痛い?」
「ううん、ぶつかっただけ。足はもう全然痛くないよ。ほら」
そう言って赤羽は、スカートをちょっと持ち上げてひねった方の足を見せる。
「宇津木君がすぐ手当てしてくれたから、回復が早かったんだって。あの時、宇津木君の言う通りすぐ保健室行ってよかったわ。一応サポーターしているけど、おかげで修学旅行も問題なく行ける」
「そりゃよかった」
サポーターをしていると赤羽は言ったが、靴下をはいている足は、そうとは全然わからない。それくらいで済んでよかったと、陽介は赤羽の足元を見つめる。
そんな陽介を見て、赤羽がふふ、と笑う。
「私を保健室に連れて行ってくれた時の宇津木君、かっこよかったよ。ちょっとときめいちゃった」
「は? なんで?」
「あんな風に助けられて、ときめかない女子なんていないんじゃない? 折しも修学旅行の直前だし、これは、って期待しちゃった。でもさ」
「陽介、女の子の足をまじまじと見ないの!」
二人の様子に気づいたらしい皐月が、隣から声をかけてきた。腰をまげて赤羽の足を確認していた陽介は、あわてて背を伸ばす。
「あ、ごめん!」
「ガードが堅いなー。宇津木君の幼なじみは」
持ち上げたスカートをもとに戻すと、赤羽は苦笑しながら言った。
「いいよ、見せたのは私だし。皐月、うちの保健委員はホント頼りになるね」
そう言って赤羽は友達とバスに乗っていった。
「裕子、まだ足痛いって?」
皐月も、陽介がなんのために赤羽の足をのぞき込んでいたのかということをわかっていた。
「見た限り、腫れもないし普通に歩けるみたいだ。サポーターはしているって言ってたけど」
そう言ってから、陽介は気づいたように言った。
「それを見てただけだぞ。変な気を起こしたわけじゃないからな」
「わかってるわよ。陽介がただのスケベおやじ予備軍だってことでしょ」
「皐月!」
皐月と笑いながらバスに乗っていく陽介を、別のバスの中から、藍がじっと見ていた。
☆
浮かれる生徒たちを前に、高木が声をはった。
まだ薄暗い夜明け前、高校の校庭には数台のバスと大勢の生徒がいた。
生徒の合間をぬって自分のクラスに向かっていた陽介は、向こうに藍を見つける。
今日なら。そう思って、陽介は手を握りしめて声をかけた。
「藍!」
一度振り向いた藍は、けれど声を返すことなく生徒の波にまぎれてしまう。
「うわ。避けられてるって本当だったんだ」
初めてその場面を目にした諒が小さくうめいた。
「うん……」
陽介は小さく返す。
陽介の気持ちに答えられないならそれでも仕方ない。あの夜、藍の気持ちも確かめずに勝手にキスしたことを怒っているなら謝りたい。嫌いになったのなら嫌いだと、はっきり藍の口から聞くまでは、陽介の気持ちはいつまでたっても晴れなかった。
乗車が始まり、陽介がもやもやしながらバスに向かっていると、目の前の女子が人波に押されてふらつく。
「お、っと。大丈夫? あ、赤羽さん」
陽介が荷物を支えて声をかけると、赤羽が振り向く。
「ありがと、宇都木君。ちょっとよろけちゃった」
「もしかして、足、まだ痛い?」
「ううん、ぶつかっただけ。足はもう全然痛くないよ。ほら」
そう言って赤羽は、スカートをちょっと持ち上げてひねった方の足を見せる。
「宇津木君がすぐ手当てしてくれたから、回復が早かったんだって。あの時、宇津木君の言う通りすぐ保健室行ってよかったわ。一応サポーターしているけど、おかげで修学旅行も問題なく行ける」
「そりゃよかった」
サポーターをしていると赤羽は言ったが、靴下をはいている足は、そうとは全然わからない。それくらいで済んでよかったと、陽介は赤羽の足元を見つめる。
そんな陽介を見て、赤羽がふふ、と笑う。
「私を保健室に連れて行ってくれた時の宇津木君、かっこよかったよ。ちょっとときめいちゃった」
「は? なんで?」
「あんな風に助けられて、ときめかない女子なんていないんじゃない? 折しも修学旅行の直前だし、これは、って期待しちゃった。でもさ」
「陽介、女の子の足をまじまじと見ないの!」
二人の様子に気づいたらしい皐月が、隣から声をかけてきた。腰をまげて赤羽の足を確認していた陽介は、あわてて背を伸ばす。
「あ、ごめん!」
「ガードが堅いなー。宇津木君の幼なじみは」
持ち上げたスカートをもとに戻すと、赤羽は苦笑しながら言った。
「いいよ、見せたのは私だし。皐月、うちの保健委員はホント頼りになるね」
そう言って赤羽は友達とバスに乗っていった。
「裕子、まだ足痛いって?」
皐月も、陽介がなんのために赤羽の足をのぞき込んでいたのかということをわかっていた。
「見た限り、腫れもないし普通に歩けるみたいだ。サポーターはしているって言ってたけど」
そう言ってから、陽介は気づいたように言った。
「それを見てただけだぞ。変な気を起こしたわけじゃないからな」
「わかってるわよ。陽介がただのスケベおやじ予備軍だってことでしょ」
「皐月!」
皐月と笑いながらバスに乗っていく陽介を、別のバスの中から、藍がじっと見ていた。
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