しらすの彼

いずみ

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「おじさん、しらす5パックね!」

 元気な声が聞こえたのは、私が山盛りのシラスを前にしてまさに1パック頼もうとしてた時だった。
 横を向くと、注文したのは背の高い若い男の人だった。どき、と胸がなる。

(あ、あの人だ)
 仕事帰りに寄ったいつものスーパーは、夕飯の買い物客でごった返していた。
「あいよ!」
 注文の入ったおじさんは、気前よくパックにしらすをいれていく。ふかふかのおいしそうなしらすを瞬く間に5パック作って袋に入れると、ずい、と私の前に突き出した。

「え?」
「なんだい、食べ盛りの子どもでもいるのかい? おかあちゃんも大変だねえ。はい、千円!」
「あの……」
 私は困惑して、5パックを注文した男の人と目を見合わせる。たまたま二人ともスーツを着ていたから、確かに見ようによっては若夫婦と見えないこともない。

 私はあわてて首を振った。
「ち、違います!」
「あれ? 5パックだよね」
「そうじゃなくて……」
「それ、俺のです」
 男の人が恥ずかしそうに千円を差し出しながら、私に笑んだ。

「ね?」
「は、はい。そうなんです。私は別です」
「一緒じゃないのかい?」
 きょとんとしたおじさんに、二人でこくりとうなずいた。


 気まずいまま私もしらすを1パック買って、スーパーをあとにした。店を出る時にまだ買い物をしていたあの男の人と目が合って、どうも、なんて言いながら会釈し合った。年上なんだろうけれど、はにかんだ笑顔がちょっと可愛い。
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