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「あれ? これ、今日のコンサートだね。ライブ見てたの? 水無瀬さん、ラグバ好きだったんだ」
 か、課長に知られてしまった……。まじまじ課長が覗き込んでいるから、今さらスマホを隠すこともできない。
 アイドル好きなんて知られたら、子供だなって笑われるかも。いや、課長なら笑わない。けど、でも。
 焦る私の横で、課長は残念そうに言った。

「会議さえなければ、俺もこれ見に行ってるはずだったのに」
「え? 課長、ラグバ好きだったんですか?」
 意外。課長が興味持ってるなんて知らなかった。
「ああ。ラグバの歌、好きなんだ。みんな歌がうまいだろ? アイドルなんて、と最初は思ってたけど、あの表現力と声量を聞いて考えを改めた。いいよな、ラグバ」
「そう! そうなんですよ! ただのアイドルじゃないんです! みんながみんな、本当に歌がうまくて、ソロでも合わせても聞きごたえがあるんです! あれだけ動いて踊っているのに、まったく息も音程もぶれないんですよ! すごいことなんです! それが5人も集まって……!」
 は、と気づいた。課長がくすくす笑っている。

(わ、また私やっちゃった……!)
 久遠の時にもやっちゃったっけ。進歩がない。せっかく今まで大人っぽく見せてきたのに、台無しだわ。
 落ち込んでしまった私に、課長は笑いながら言った。
「本当に、水無瀬さんてかわいいね。今、とても生き生きした顔していたよ。普段と違う表情を見られて嬉しかったな」
「……へ?」 
 変な声でた。課長は、微笑んだまま聞く。

「で、資料は終わった?」
「あ、はい。これです」
 私が渡すと、内容を確認した課長はうなずいた。
「ああ、経年の比較をグラフでつけてくれたんだね」
「はい。その方が一見した時に見やすいと思いました。余計でしたか?」
「いや、助かるよ。やっぱり水無瀬さんの仕事は頼りになる。ありがとう」
「いいえ」
 課長のOKがでて、ほ、とする。

「あとは必要分だけコピーして終わりです」
「それは、もういいよ」
「でも」
「明日、高塚さんにやってもらおう。これ以上君に負担させるわけにいかないし、そもそもは彼女の仕事なんだから。とんだとばっちりだったね」

 課長……わかってくれていたんだ。
 いいえ、と苦笑する私に、課長は表情を引き締めた。
「今回は、本当に悪かった。以前から高塚さんの事は問題だと思っていたんだ。部長の関係者だからと大目に見ていたけど、ここまで周りに迷惑をかけるようなら一度きちんと話さなければいけないな。場合によっては、配置転換も考えよう」
「私の指導不足です。課長にまで迷惑をかけて申し訳ありません」
「いや、俺だって指導する立場だし」
「でも、私も」
 二人で言い合って、同時に、ぷ、と吹き出す。
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