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 黙ったままの私に久遠は短く言った。
「で?」
「で、って?」
 久遠が何を聞いているかわからずに、オウム返しに聞く。

「なんであいつのことはわかるんだよ。会いたかったんだろ? タカヤに。どうだったんだよ」
 言われて、ようやく今の出来事に頭が追いついてきた。
「私!? 会っちゃったんだ、タカヤに!! 嘘―!!」
「反応が遅い」
 久遠が苦笑する。

「だってだってだって、あんなの一瞬のことで脳の処理が追い付かなかったのよ! うわー! ステージで見たまんまの性格! あれ、地なんだ!」
「もう一度呼び戻そうか?」
 久遠のぼそりとしたつぶやきに首をかしげる。
「ううん。なんで?」
「好きなんだろ? せっかく俺っていうツテができたんだ。それを利用しようとは思わないのかよ。俺なら、あいつの連絡先とか知ってるし……教えようか?」
「まさか」
 即答した私を、久遠はじっと見ている。

「連絡先なんて人から聞くものじゃないでしょ。第一、連絡とってどうするのよ。相手は芸能人……っていっていいのかな。とにかく、超有名人じゃない! 私、対等に口きける自信ないわ」
「俺とはこんな風に話しているじゃん」
「久遠は別。えー、本当にクウヤなんだ。まだ信じられない」
 だって、全然ステージと素で性格が違うじゃない。目の前のこれが素だとすると、この性格で『みんなの弟、クウヤだよ♪』とかやってたってことでしょ? それはそれですごいな。

「悪かったな」
「悪かないわよ。むしろ、あれだけキャラを作ってるあんたのプロ根性を見直したわ。ホント別人」
「直人……タカヤのことはすぐわかったくせに」
「タカヤは、あんたと違ってそのままだもん。推しだし」
 あ、む、とした。

「バカなこと言ってないで、なんか食いに行こうぜ」
 久遠が立ち上がった。
「食いにって、まだ朝……え、もうこんな時間?」
 私も立ち上がりながら時計を見れば、もうすぐお昼になろうとしていた。ここでもまた長々と話し込んじゃったんだ。
「時間、いいの?」
「まだいい」
 あ、そうだ、MV返さなきゃ。
 そう思い出して、久遠の背中を追いながらバッグに入れた手を止めた。

 これ……返しちゃったら、もう会う機会なくなっちゃうのかな。やっぱりもうちょっと貸して、って言ったら……もう一度会う機会、作れるかな。
 そう考えて、嫌なことも思いつく。
 今そんなこと言ったら、『俺がラグバのメンバーだからだろ』、とか思われない?
 それは嫌。そんなの関係なく、私は、久遠に、会いたい。
 どう言ったら、ちゃんと伝わる?

 躊躇していると、スマホが点滅しているのに気付いた。なんとなく開けてみると、メールの着信。
 ……え?!
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