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公爵令息と一般人
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「シャルロット! 大丈夫か!?」
騎士団長息子が消えて暫くした後、ジェラールが急いで走って来た。
私は微笑んで彼を迎える。
「友達が、君がナサイユ様に絡まれているのを見たって知らせに来て――急いで来たんだけど」
「私は大丈夫よ、ジェラール。でも、この場所で待ち合わせをするのはもう止めた方が良いかも知れないわね」
殿下を始め、攻略対象者達がこれからもやって来そうな気がする。
高貴なお方が興味を示している、という噂一つ。それが波及し行けばどうなる事か。
ああいう高貴なお方は口にすれば回りが自然とそれを叶えるように動く。下々である私の意志などあって無きものにされるだろう。
まず、ジェラールは遠ざけられる。そして私はなりたくもない攻略対象者いずれかの側室か妾候補になり上がり、陰湿な悪口、針の筵に堪えながらそれをありがたがらなければならない未来が待っている事だろう。
私はそれを望んでない、と言えば、「何と無礼な」と切り捨てられる。貴族社会に生きる者にとって、「高貴な身分のお方から興味を示して頂けるだけで光栄」であり、その「ご好意を拒否する事自体がありえない」事である。
高貴な身分のお方の意志に沿うように、状況がお膳立てされていく。
表向き平等を謳っている学校でさえ、そうなるだろう。
身分制度の醜悪さに吐き気がする。そんなのは死んでもごめんだ。
その後、クタヴィレ・ナサイユが女子生徒を土下座させて虐めていたという噂が学校中に広がった。
***
「君かい? クタヴィレを嵌めたのは。何が目的なのかな?」
「サンレード様に置かれましてはご機嫌麗しゅう」
顔を俯け礼を取りながら私は唇を噛んだ。
いつもの場所を変えたのに、攻略対象者達はどうしてこうも嗅ぎつけて構って来るのだろうか。
目の前にいる男はテオドリック・サンレード。サンレード公爵令息であり、悪役令嬢のクラリーヌ・サンレード公爵令嬢の兄に当たる人物だ。
騎士団長息子と立った噂に何ら関係無い筈なのに何故か首を突っ込んで来ている。
「ナサイユ様を嵌めた……? どういう事でございましょうか」
「クタヴィレが君を虐めているって噂になって、肩身の狭い思いをしている。その事でカイザール殿下が心を痛められていてね」
しくじった、と思った。
たとえ相手が悪くても、身分が上な方が常に正しいのだ。
私は覚悟を決めた。
「……かしこまりました。私に出来る事と言えば責任を取って学園を辞める事ぐらいでございます。今すぐにでも――」
「はぁ!? 何故そう言う話になる!」
失礼致します…とその場を去ろうとすると、テオドリックはぎょっとしたように引き留めて来た。
「……お言葉ですが、噂でナサイユ様の評判が悪くなってしまった事で殿下の瑕疵にも繋がり兼ねません。私のような男爵の庶子如きの為にそのような事になってはいけない、そう仰せになっていらっしゃると判断致しましたので……」
「違うんだよ、人目のある所で君がクタヴィレと気安く平等に接してくれたらと思ったんだ」
溜息を吐く公爵令息に、私は「無理でございます」と即答した。
騎士団長息子が消えて暫くした後、ジェラールが急いで走って来た。
私は微笑んで彼を迎える。
「友達が、君がナサイユ様に絡まれているのを見たって知らせに来て――急いで来たんだけど」
「私は大丈夫よ、ジェラール。でも、この場所で待ち合わせをするのはもう止めた方が良いかも知れないわね」
殿下を始め、攻略対象者達がこれからもやって来そうな気がする。
高貴なお方が興味を示している、という噂一つ。それが波及し行けばどうなる事か。
ああいう高貴なお方は口にすれば回りが自然とそれを叶えるように動く。下々である私の意志などあって無きものにされるだろう。
まず、ジェラールは遠ざけられる。そして私はなりたくもない攻略対象者いずれかの側室か妾候補になり上がり、陰湿な悪口、針の筵に堪えながらそれをありがたがらなければならない未来が待っている事だろう。
私はそれを望んでない、と言えば、「何と無礼な」と切り捨てられる。貴族社会に生きる者にとって、「高貴な身分のお方から興味を示して頂けるだけで光栄」であり、その「ご好意を拒否する事自体がありえない」事である。
高貴な身分のお方の意志に沿うように、状況がお膳立てされていく。
表向き平等を謳っている学校でさえ、そうなるだろう。
身分制度の醜悪さに吐き気がする。そんなのは死んでもごめんだ。
その後、クタヴィレ・ナサイユが女子生徒を土下座させて虐めていたという噂が学校中に広がった。
***
「君かい? クタヴィレを嵌めたのは。何が目的なのかな?」
「サンレード様に置かれましてはご機嫌麗しゅう」
顔を俯け礼を取りながら私は唇を噛んだ。
いつもの場所を変えたのに、攻略対象者達はどうしてこうも嗅ぎつけて構って来るのだろうか。
目の前にいる男はテオドリック・サンレード。サンレード公爵令息であり、悪役令嬢のクラリーヌ・サンレード公爵令嬢の兄に当たる人物だ。
騎士団長息子と立った噂に何ら関係無い筈なのに何故か首を突っ込んで来ている。
「ナサイユ様を嵌めた……? どういう事でございましょうか」
「クタヴィレが君を虐めているって噂になって、肩身の狭い思いをしている。その事でカイザール殿下が心を痛められていてね」
しくじった、と思った。
たとえ相手が悪くても、身分が上な方が常に正しいのだ。
私は覚悟を決めた。
「……かしこまりました。私に出来る事と言えば責任を取って学園を辞める事ぐらいでございます。今すぐにでも――」
「はぁ!? 何故そう言う話になる!」
失礼致します…とその場を去ろうとすると、テオドリックはぎょっとしたように引き留めて来た。
「……お言葉ですが、噂でナサイユ様の評判が悪くなってしまった事で殿下の瑕疵にも繋がり兼ねません。私のような男爵の庶子如きの為にそのような事になってはいけない、そう仰せになっていらっしゃると判断致しましたので……」
「違うんだよ、人目のある所で君がクタヴィレと気安く平等に接してくれたらと思ったんだ」
溜息を吐く公爵令息に、私は「無理でございます」と即答した。
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