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騎士と一般人

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 「お前か、殿下が興味を持たれているという女は」

 開口一番、そんな不躾な言葉を浴びせられた。

 「……」

 「無視か。返事ぐらいしたらどうだ?」

 中庭でジェラールを待っているというのに妙なのに絡まれた。いや、内心では分かっている。
 目の前のこいつは騎士団長の息子、クタヴィレ・ナサイユ。勿論乙女ゲームの攻略対象の一人だ。

 殿下の遊び相手、御学友という名の側近候補であり、お目付け役でもある。
 私の話を聞いて、あの大商人の息子ダヴィド・エモンと同じような理由でやってきたのだろう。

 ――ああ、果てしなく不快だ。

 その態度が当たり前だと思っている、男の傲慢さが。

 「失礼ですが……どちら様でしょうか」

 私の問いかけに、男は片方の眉を器用に上げた。

 「俺の事を知らないのか?」

 「さて……少なくともあなた様が礼を取るに足らぬような身分の女であり、住む世界が違います故、生憎と存じ上げておりません」

 礼儀知らずを相手するつもりはない。
 卑屈に見せかけて皮肉を言うと、騎士団長の息子は「何だと……!?」と怒りを見せた。

 「それに、私も名乗る程の身分でもないつまらぬ者ですので何卒なにとぞご容赦を」

 名乗りたくないので名乗らないで欲しい。
 厄介事は敬して遠ざけるのが一番だ。

 カイザール殿下の時と同様、ただ頭を下げて立ち去るのを待つ。
 しかし何時まで経っても奴は立ち去る気配がない。

 「……俺はクタヴィレ・ナサイユ。ナサイユ伯爵家は流石に知っているだろう、騎士団長の息子だ」

 さあ、俺は名乗ったぞ。お前も名乗れ――そう言外に圧力を掛けられ、しぶしぶ名乗る。

 「……シャルロット・メイユと申します。メイユ男爵の庶子で辛うじて貴族の末席を汚しているような庶民同然の者でございます。
 ナサイユ様におかれましてはどうぞお捨て置き下さいますように」

 言って、私は平伏した。
 ここまでやらなくとも良いが、しつこそうな男だ。傲慢には同じだけの卑屈をぶつけてやる。
 金輪際関わって来て欲しくない上に顔を合わせたくない。
 文字通り土下座である。

 「おい……自己謙遜も行き過ぎれば卑屈になるぞ。何故そう自分を卑下している?」

 「身分違いであるのに『学園では皆平等』という言葉をはき違えて行き過ぎれば災いを招くからでございます」

 動揺の色を帯びた騎士団長息子の声に淀みなく答える私。

 「ふん、殿下に群がる他の女達に聞かせてやりたい言葉だな」

 辛うじてそれだけを言ったクタヴィレ・ナサイユ。
 私が平伏を崩さず、「他にご用件が無ければどうかお引き取りを」と言うと、「……面白くないな」と言い捨てて去って行った。
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