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大商人と一般人
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アダマンタイトの如く頑なに俯いて黙っていると、殿下は「……仕方ないね」と溜息を吐いて去って行った。
カイザール殿下の気配が消えて安堵した私はそっと顔を上げる。そこへ待ち人が現れた。
「シャルロット」
「ジェラール。待ってたわ」
私は心からの微笑みを浮かべた。ジェラール・ルネル――第一希望の商人の息子は、乙女ゲームに出て来た王都一の大商会の息子では勿論無い。
何故かと言えば、王都一の商会ともなれば庶民とは言え伯爵令嬢とも釣り合う程の財を持っているからだ。ちらりと確認した限り外見も良くて、ただの男爵令嬢には過ぎた相手である。
私の相手の彼はそこそこの大きさの、堅実な商売を重ねている中堅ルネル商会の息子さんである。目の覚めるような美形ではないけれど、少なくとも浮気の心配は無さそうであり、親御さんの夫婦仲も良く、結婚後私を大事にしてくれそうなヴィジョンが浮かんで安心できる人だ。
前世でも某ウサギのキャラクターの母も言っていたではないか。「男を口と顔で選ぶとハズレを引く」のだと。
その意味で結婚後も浮気を疑い心が休まる暇も無さそうな乙女ゲームの攻略対象者は全員ハズレである。
「ジェラール、クッキーを焼いたの。良かったら食べて」
「ああ、丁度腹が減っていたんだ」
ジェラールはクッキーを摘まんで口に入れ、「うん、美味しい」と顔を綻ばせている。ああ、私、幸せかも。
そんな時間程過ぎるのは早い。授業の時間になって、私達は別れた。
***
「ふうん、君がそうなのか。凄く美人だね」
「……何か御用でしょうか?」
何時もの様に焼き菓子を携えてジェラールを待っていると、ハズレの男の一人、王都一のエモン商会の跡取り息子のダヴィド・エモンに声を掛けられた。栗色の髪と瞳の優し気な甘い顔立ち、相変わらず結婚詐欺を働けそうな程の美形である。
私とて乙女ゲームのヒロインである以上は、そこそこの美人であることを自負している。それにこれはある意味借り物めいた容姿である。それを褒められたところで何の感慨も湧かない。
冷めた私の反応に、ダヴィドは首を傾げた。
「あれ、私を見ると女性は大抵嬉しそうにするんだけど、君は違うんだね。殿下の仰っていた通りだ」
「……ご用件は」
ああ、何だ。毛色の違う女を見に来ただけか、と拍子抜けする。大方、私に塩対応されたと殿下が話したので興味が湧いて来たのだろう。
どうやって追っ払おうか考えていると、足音がする。そちらを見るとジェラールがやってきていた所だった。
「あれ、ダヴィド。僕の彼女に何か用?」
「やあジェラール。君の恋人だったのか? 丁度此処を通りかかってね」
私はすっと立ち上がると、ジェラールの腕を引っ張った。
「ジェラール、会いたかったわ。今日は場所を移動しましょう?」
にこりと微笑む。「今日は小さなカップケーキを焼いてきたの。お茶も用意してあるわ」
「あ、いや……邪魔者はもう退散するよ」
あっさりと去って行くダヴィド。しかしこれは始まりに過ぎなかった。
カイザール殿下の気配が消えて安堵した私はそっと顔を上げる。そこへ待ち人が現れた。
「シャルロット」
「ジェラール。待ってたわ」
私は心からの微笑みを浮かべた。ジェラール・ルネル――第一希望の商人の息子は、乙女ゲームに出て来た王都一の大商会の息子では勿論無い。
何故かと言えば、王都一の商会ともなれば庶民とは言え伯爵令嬢とも釣り合う程の財を持っているからだ。ちらりと確認した限り外見も良くて、ただの男爵令嬢には過ぎた相手である。
私の相手の彼はそこそこの大きさの、堅実な商売を重ねている中堅ルネル商会の息子さんである。目の覚めるような美形ではないけれど、少なくとも浮気の心配は無さそうであり、親御さんの夫婦仲も良く、結婚後私を大事にしてくれそうなヴィジョンが浮かんで安心できる人だ。
前世でも某ウサギのキャラクターの母も言っていたではないか。「男を口と顔で選ぶとハズレを引く」のだと。
その意味で結婚後も浮気を疑い心が休まる暇も無さそうな乙女ゲームの攻略対象者は全員ハズレである。
「ジェラール、クッキーを焼いたの。良かったら食べて」
「ああ、丁度腹が減っていたんだ」
ジェラールはクッキーを摘まんで口に入れ、「うん、美味しい」と顔を綻ばせている。ああ、私、幸せかも。
そんな時間程過ぎるのは早い。授業の時間になって、私達は別れた。
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「ふうん、君がそうなのか。凄く美人だね」
「……何か御用でしょうか?」
何時もの様に焼き菓子を携えてジェラールを待っていると、ハズレの男の一人、王都一のエモン商会の跡取り息子のダヴィド・エモンに声を掛けられた。栗色の髪と瞳の優し気な甘い顔立ち、相変わらず結婚詐欺を働けそうな程の美形である。
私とて乙女ゲームのヒロインである以上は、そこそこの美人であることを自負している。それにこれはある意味借り物めいた容姿である。それを褒められたところで何の感慨も湧かない。
冷めた私の反応に、ダヴィドは首を傾げた。
「あれ、私を見ると女性は大抵嬉しそうにするんだけど、君は違うんだね。殿下の仰っていた通りだ」
「……ご用件は」
ああ、何だ。毛色の違う女を見に来ただけか、と拍子抜けする。大方、私に塩対応されたと殿下が話したので興味が湧いて来たのだろう。
どうやって追っ払おうか考えていると、足音がする。そちらを見るとジェラールがやってきていた所だった。
「あれ、ダヴィド。僕の彼女に何か用?」
「やあジェラール。君の恋人だったのか? 丁度此処を通りかかってね」
私はすっと立ち上がると、ジェラールの腕を引っ張った。
「ジェラール、会いたかったわ。今日は場所を移動しましょう?」
にこりと微笑む。「今日は小さなカップケーキを焼いてきたの。お茶も用意してあるわ」
「あ、いや……邪魔者はもう退散するよ」
あっさりと去って行くダヴィド。しかしこれは始まりに過ぎなかった。
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