上 下
97 / 105
【2】ちーとにゃんことカミを巡る奇しき不可思議大冒険!

4にゃー

しおりを挟む
 「けどそれ、本当に粗悪品なのか? 偽物にしては、物凄く精巧に作られているように見えるけど」

 いつの間にか近くに来ていたライオットがひょいっと覗き込んで来た。
 スカーレットさんはそこなのよね、と思案顔。

 「……一先ず献上品と見比べて見ましょうか」

 直ちに宝物庫管理官の人が呼ばれ、献上品の櫛が持ってこられた。
 彼は魔王国の宝物や献上品等について一通り暗記しているとの事で、説明を受ける。

 「……『チュゲの櫛』についての文献は少ないのですが、クースゥー南部辺境サッチュマ、霊木の一つであるチュゲの木の生産地で作られているそうです。
 製造過程は秘されておりますが、チュヤバキの油と共に献上された事から考えればこの油が何か関係があるものと思われます。
 チュヤバキ、というのは世界樹の亜種の木でございまして、クースゥー北部ゴトゥ島で生産され、寒い時期に赤い花が咲きます。この木の実を絞り出したものがチュヤバキの油、櫛のみならずこちらも大変貴重で高価なものでございます」

 ふんふんと頷きながら、献上品の櫛と件の櫛を見比べてみる。
 大臣の櫛には無かったが、献上品の櫛の裏には製作者のものと思われる銘の焼き印がされていた。

 「うーん……美術品の鑑定にはそこそこ自信があるけれど、同じ職人が作ったとしか思えないのよね。同じレベルの贋作者が居ないとするならば、だけれど。もっとも、そんな人が居ても態々このレベルで贋作を作るものかしら?」

 言われてみればそうだ、と私は不自然さを感じて首を傾げた。
 わたくしも陛下と同じ意見でございます、と宝物庫管理官の人も同意する。
 近衛のお姉さん達やライオット達にも意見を求めたが、同じ意見だった。

 結局、このままでは何も進展はない、という事で。

 「何か引っかかるわ。クースゥーに使者をやって、この櫛を作った職人について問い合わせましょう。情報の隠匿をされる可能性も考えて、内密に調査もした方が良いわね」

 「しょれ、わたちが行きたいにゃっ!」

 獣人の国には行ったことがない!

 私は勢い良くはいっと手を挙げて立候補した。


***


 「俺達も獣人の国には行った事がないな。皆はどうだ?」

 ライオットが後ろを振り返る。
 「面白そうだな。」とティリオン。
 「構いませんよ、スカーレットさんにはお世話になっていますし」とマリーシャが微笑めば、「そう言えば、お借りした本にあったのですが、クースゥーには火山があって温泉が湧いているとか」とサミュエル。
 それを聞いて、「温泉!? 行きたいわ、ライオット!」と、スィルが目を輝かせた。

 「決まりだな。スカーレットさん、任せてくれ」

 ライオットがニッと笑った。
 近衛のお姉さん達がざっと整列し、感謝の礼を取る。
 スカーレットさんもほっとしたような表情になり、私の頭を撫でてくれた。

 「ニャンコと皆さんだったら間違いないわね……ありがとう。では、調査の方をお願いします」

 「にゃっ、じゃあ早速――ぎにゃっ!!?」

 出掛けるにゃ、と言おうとした時。
 私の下半身ががしぃっと掴まれた。

 「そ、その前にニャンコ様! その奇跡のお力で私共の毛を何とかしていただけないでしょうか!!」

 アントム財務大臣が凄い形相で縋りついてきていた。
 あまりの迫力に手足の肉球にじっとりと汗が滲み出てくるのを感じる。

 「――おい、そいつに頼むのは止めておいた方がいいぞ」

 ティリオンが助け船を出してくれた――と思ったのも一瞬。
 どうも私が危険人物か何かのような感じで言われたので若干むっとする。

 「髪ふさふさのダークエルフ殿は黙っていて下さい、私達はもはやニャンコ様の起こす奇跡の力におすがりするしかないのです!」

 「……その奇跡の力とやらが問題なんだが」

 尚も大臣を引き留めるティリオンに、ここは私の実力をちゃんと見せつけておかないとという使命が働く。

 「わかったにゃっ!!」

 私だってやる時はやるのだ!
 快く承諾する。

 魔力量が豊富で魔術言語日本語もべらべらな私にとってはそんな事朝飯前なんだから!

 「ま、待て……!!!」

 ティリオンが制止をかけようとしたが――時すでに遅し。
 見るが良い、ティリオン!
 私の真の力を!

 「『ここに居るハゲの男達の毛が太く強くふっさふさになる』にゃ!!」

 ぼふん!

 「は?」

 「えっ?」

 「ん?」

 「……ああっ、お前!!?」

 「な、な……」

 呪文が効力を奏した一瞬の後。
 呆然としたのも束の間、お互いを見て驚愕し。

 「「「「ぎゃあああああああ――――――っっ!!!」」」」

 「にゃああああああ――――っ!?」

 私の魔術によって変貌を遂げた男達は最初とはまた逆のベクトルで悲鳴を上げた。
 ついでに彼らの変貌後の姿と思わぬ結果に仰天した私自身も。

 「だから言ったんだ……」

 ティリオンの疲れたような声。
 私はあまりの事態にプルプルと震えていた。
 サミュエルが優しく問いかける。

 「……ニャンコ、先程の魔術言語はどんな意味だったのです?」

 「しょんな、しょんな……毛が、毛が太く強くふっさふさになるようにって言ったのにゃ」

 「ニャンコ……人の肌というものは、一見毛が生えていないように見えますが、よく見ると産毛が生えているのですよ」

 マリーシャさんの言葉にハッとする。

 そうだった。

 化粧する時、顔の産毛とか剃るし、腕や足にもムダ毛が生えていた。
 『ここに居るハゲの男達の毛が太く強くふっさふさになる』、それが何を意味するか。

 そう。

 目の前に居るハゲの男達は、服を着た全身毛むくじゃらのヒバゴ……いや、何かに変貌していた。
 というか、髪の毛と同じような毛で肌という肌が覆い尽くされていた。
 魔族の特徴である角は兎も角、尖った耳まで全て。脇毛も鼻毛もボーボーのふっさふさである。

 ”やばいやばいやばい、ウケるんだけどー!!”

 ”あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!! こんな魔族初めて見たぞ、新種か? 新種なのか?”

 ”気の毒ですじゃー、ぷっ……! これはヒドイですじゃ、ぷぷっ……!”

 ”ほほほほほ、面白い見世物ですわ♪”

 いつの間にか四大精霊達が揃って笑い転げている。

 「あなた達……魔族じゃなくてもはや何か別の生き物のようね」

 スカーレットさんが顔を引き攣らせながら残酷な感想を述べた。
 近衛のお姉さん達は必死に笑いを堪えている。

 その後。
 ニャンコ、落ち着いて! との励ましを皆から受けながら私は再び魔法をかける。

 「『髪の毛以外の毛が抜ける』にゃっ!」

 「「「「ぎゃー、髪以外全身ツルツルテンだー!!!」」」」

 再び失敗。

 「男として、毛が必要な場所は髪以外にもあるだろう……眉とか睫毛とか股間とか髭とか……」

 ライオット黙れ。


***


 結局。

 サミュエルが一度元の状態に戻しては、と提案。
 そこから髪の毛だけふさふさにするように魔法をかけて事無きを得た。
 大臣達は泣いてサミュエルに握手をして帰って行った。

 魔法をかけたのは私なのに納得いかない。
 むーっとしていると、スカーレットさんがしゃがんで視線を合わせ、よしよししてくれた。

 「ニャンコ、ありがとうね。落ち込まなくて良いのよ、失敗は成功の元。彼らは他の被害者の人を治すのに尊い犠牲となったの。街の人を治す時は、失敗しないでしょう?」

 「モチロンにゃ!」

 私は頷く。
 彼女の言葉に少し気が晴れた。
 馬鹿共には良い薬だったわ、と一瞬見せた氷のまなざしと黒い呟きにちょっとプルプルしたのはたぶん気のせい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

引きこもり転生エルフ、仕方なく旅に出る

Greis
ファンタジー
旧題:引きこもり転生エルフ、強制的に旅に出される ・2021/10/29 第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞 こちらの賞をアルファポリス様から頂く事が出来ました。 実家暮らし、25歳のぽっちゃり会社員の俺は、日ごろの不摂生がたたり、読書中に死亡。転生先は、剣と魔法の世界の一種族、エルフだ。一分一秒も無駄にできない前世に比べると、だいぶのんびりしている今世の生活の方が、自分に合っていた。次第に、兄や姉、友人などが、見分のために外に出ていくのを見送る俺を、心配しだす両親や師匠たち。そしてついに、(強制的に)旅に出ることになりました。 ※のんびり進むので、戦闘に関しては、話数が進んでからになりますので、ご注意ください。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

転生王子の異世界無双

海凪
ファンタジー
 幼い頃から病弱だった俺、柊 悠馬は、ある日神様のミスで死んでしまう。  特別に転生させてもらえることになったんだけど、神様に全部お任せしたら……  魔族とエルフのハーフっていう超ハイスペック王子、エミルとして生まれていた!  それに神様の祝福が凄すぎて俺、強すぎじゃない?どうやら世界に危機が訪れるらしいけど、チートを駆使して俺が救ってみせる!

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

前世は最悪だったのに神の世界に行ったら神々全員&転生先の家族から溺愛されて幸せ!?しかも最強➕契約した者、創られた者は過保護すぎ!他者も!?

a.m.
ファンタジー
主人公柳沢 尊(やなぎさわ たける)は最悪な人生だった・・耐えられず心が壊れ自殺してしまう。 気が付くと神の世界にいた。 そして目の前には、多数の神々いて「柳沢尊よ、幸せに出来なくてすまなかった転生の前に前の人生で壊れてしまった心を一緒に治そう」 そうして神々たちとの生活が始まるのだった... もちろん転生もします 神の逆鱗は、尊を傷つけること。 神「我々の子、愛し子を傷つける者は何であろうと容赦しない!」 神々&転生先の家族から溺愛! 成長速度は遅いです。 じっくり成長させようと思います。 一年一年丁寧に書いていきます。 二年後等とはしません。 今のところ。 前世で味わえなかった幸せを! 家族との思い出を大切に。 現在転生後···· 0歳  1章物語の要点······神々との出会い  1章②物語の要点······家族&神々の愛情 現在1章③物語の要点······? 想像力が9/25日から爆発しまして増えたための変えました。 学校編&冒険編はもう少し進んでから ―――編、―――編―――編まだまだ色んなのを書く予定―――は秘密    処女作なのでお手柔らかにお願いします。文章を書くのが下手なので誤字脱字や比例していたらコメントに書いていただけたらすぐに直しますのでお願いします。(背景などの細かいところはまだ全く書けないのですいません。)主人公以外の目線は、お気に入り100になり次第別に書きますのでそちらの方もよろしくお願いします。(詳細は200) 感想お願いいたします。 ❕只今話を繋げ中なためしおりの方は注意❕ 目線、詳細は本編の間に入れました 2020年9月毎日投稿予定(何もなければ)  頑張ります (心の中で読んでくださる皆さんに物語の何か案があれば教えてほしい~~🙏)と思ってしまいました。人物、魔物、物語の流れなど何でも、皆さんの理想に追いつくために! 旧 転生したら最強だったし幸せだった

私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください。

アーエル
ファンタジー
旧題:私は『聖女ではない』ですか。そうですか。帰ることも出来ませんか。じゃあ『勝手にする』ので放っといて下さい。 【 聖女?そんなもん知るか。報復?復讐?しますよ。当たり前でしょう?当然の権利です! 】 地震を知らせるアラームがなると同時に知らない世界の床に座り込んでいた。 同じ状況の少女と共に。 そして現れた『オレ様』な青年が、この国の第二王子!? 怯える少女と睨みつける私。 オレ様王子は少女を『聖女』として選び、私の存在を拒否して城から追い出した。 だったら『勝手にする』から放っておいて! 同時公開 ☆カクヨム さん ✻アルファポリスさんにて書籍化されました🎉 タイトルは【 私は聖女ではないですか。じゃあ勝手にするので放っといてください 】です。 そして番外編もはじめました。 相変わらず不定期です。 皆さんのおかげです。 本当にありがとうございます🙇💕 これからもよろしくお願いします。

処理中です...