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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

82にゃん

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 人間の制御の離れた巨大なゾンビドラゴン。

 呼び出されたのは王都の外だったが、その虚ろな目は王都――いや、正確には大神殿を見据えると、酸性の涎を歯の間からだらだらとこぼしていた。
 おぞましさに毛が逆立つ。何故こちらを見ているのだろう。

 "ニャンコ、愛し子から伝言だ! ――不完全な人間の術で呼び出されたからあの化け物は恐らく魔素が足りない!! だから真っ先に狙われるのは世界樹の畑、つまりここ大神殿になるぞ!!!!"

 焦ったサラマンダーの声。そういう事か、と思う。
 魔素、魔力の塊を狙って喰らい、存在を安定しようとしているのだ。

 ここには魔素の多く含んだ水や魔素の塊の世界樹がある。
 ゾンビドラゴンはそれを嗅ぎ取っているのだろう。

 仮に私たちがここを放棄すれば、まず世界樹の畑は壊滅は免れない。
 また、ゾンビドラゴンは満足していなければより多い魔素を求めてグンマ―ルや魔族領の方へ向かうだろう、確実に。

 そして被害が更に大きくなる。
 クマルやスカーレットさん達もただでは済まないだろう。

 不完全とはいえ、先程の咆哮からその力は相当大きなものだと分かる。
 与えられた力で、対応できるだろうか。不安にかられて、目を閉じる。

 ――私、大丈夫だろうか。

 それでもここで何とか出来る限りの事をして食い止めないと、街の人も兵士も、大神殿の人達やケット・シー達、冒険者達も――全てが失われる。

 死ぬかもしれない。でも、私はどうせ一度死んでるんだった。
 死ぬのは、怖くない。
 怖いのは、前にも彼らに言った様に、皆を失う事が一番怖い。

 目を開けて、不安や恐れを全て吹っ切った。

 「『世界樹の畑の結界はゾンビドラゴンの攻撃に対する防御機能を備える』にゃ!」

 そう唱えて私は叫ぶ。

 「シルフィード、みんなに伝えてちょーらいにゃっ! さっきのは凶悪なゾンビドラゴンの咆哮で、ジュゲムより二倍は大きいにゃっ! ヤツは大神殿の世界樹の畑を狙っているにゃ! さっき世界樹の畑の結界を強化したから、その中なら安全にゃっ!! みんなは結界の中に逃げるにゃっ、王しゃまもライオットしゃんたちも、今すぐにゃっ!!!」

 「――ニャンコ、どういうことだっ……!!!?」

 シルフィードが気を利かせて王様やライオット達にも視界共有してくれたようだ。
 私に問いただそうとしたライオットは途中で言葉を失う。

 一瞬の後――皆パニックに陥った。
 ケット・シーに至っては、すっかり怯えてしまって縮こまっている。

 「落ち着いてください――まず、戦えない人は地下洞窟へ。戦える人は世界樹の畑の中へ行ってください」

 エアルベスさんが我に返って皆を落ち着かせて誘導する。
 皆青くなりながらも世界樹の畑や地下洞窟へと分かれて走った。

 その時。
 風の精霊の視界を通じて、ジュゲムが真直ぐにゾンビドラゴンに飛んでいくのが見えた。

 "間違いない――祖竜おばあさま!!"

 ゾンビドラゴンにある程度近づいたジュゲムが驚愕に叫ぶ。

 えっ、あれジュゲムのおばあさんだったの!?

 誇り高いドラゴンにとって、家族の骨を利用され、ゾンビとして戦わせられる程屈辱的な事はないだろう。
 事実、ジュゲムはゾンビドラゴンの近くまで到達するなり、怒りに目を滾らせると、渾身の炎のブレスを――

 "おのれええええっ――ここで会ったが千年目! 名前の恨みいいいいいいっ!!!"

 ゾンビドラゴンにぶつけた……あれ?


***


 ジュゲムが渾身の力でぶつけた炎のブレス。
 それにサラマンダーも協力していたようで、かなりの熱量がゾンビドラゴンを直撃した。

 炎がその赤黒いいびつな皮膚を焼いていく。
 ゾンビドラゴンは苦しいのか地面にのたうってもがいていたが、炎が消えるとジュゲムを無視して醜い翼をはためかせ飛び立った。

 そのまま真直ぐ大神殿へと飛んでくる。
 その頃にはもう、皆移動し終わっていた。

 大神殿までの距離はあっという間に埋められる。
 その後をジュゲムが追いかけてきているが、二倍の図体差は埋められない。

 「――来るにゃっ!!!」

 ドォン!!!

 皆伏せる。地面が巨体を受け止めて悲鳴を上げた。
 続けて風圧が私達を襲う。
 何とも言えない、ナマモノが腐ったような臭いが鼻を突く。

 死と恐怖を引連れた、悪魔の竜がそこにあった。
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