上 下
77 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

77にゃん

しおりを挟む
 ギュンター公爵は大神殿を包囲する自軍を見てほくそ笑んでいた。

 ――もうすぐ、この国は自分のものとなる。

 王に不満を持つ諸侯や貴族を抱き込んで味方につけ、神殿勢力を味方にする為に援助を惜しまない。
 その裏で帝国の政変で流れてきた闇の神官を保護し、禁忌の術を使わせ、ゾンビではあるがドラゴンという大きな戦力を得る。
 全ての流れは自分に味方しているとしか思えなかった。
 王は自分を信頼するふりをしつつ利用しようとしていたようだったが、自分の方が一枚上手だったという訳だ。
 自軍を一般の民や商隊に紛れ込ませ、王都に入れた甲斐があったというもの。

 自分とて、この有利な状況がいつまでも続く訳ではないとわかっている。
 諸侯が異変を察して大挙して軍を動かせば多勢に無勢になる。
 だからこそ、今禁術の成就を急がせているのだ。

 「――ロドリゲス神官。ドラゴンの復活儀式はどうなっている?」

 後ろを振り返って問いかける。
 そこには帝国からこの国に新天地を求めて来た、闇の神を奉ずる過激派の神官の一人がいた。
 神官としては勿論禁術の知識もあり、申し分のない実力を持っている男。
 先日リュネという街でヘマをして捕まっていた所を、秘密裏に助け出してやった。

 「あと数刻もしますれば、何時でも行えるよう全て整いまする」

 「投獄されていたのを折角救ったのだ、しっかりと働いてもらわねばな」

 この男を捕えるのに活躍した冒険者達、それに不思議な力を持つケット・シー。
 唯一計画の邪魔になりそうな者達は全て魔族の国へ向かってしまった。
 この点に関しては魔王様様だとギュンター公爵は思う。

 奴らが魔王討伐に成功したのは先日魔石が透明になって砕けた事から分かっていた。
 早すぎる、と思ったが、水の精霊使いが力を貸せば不可能ではない。
 王が魔王討伐成功の祝賀会を開くと浮かれている陰でこちらは計画を実行する。
 その場で王に忠誠を尽くす貴族はほとんど一網打尽にして投獄している。残すは目の前の大神殿を落とすだけだ。

 王の首を取り、ケット・シー達を人質に水の精霊使いに命じてヒュペルトを救出させる。
 あの者達が魔王を倒せば英雄として、魔王にやられたら生き残った唯一の同行者として――そう扱えば社交界にも戻せるだろう。
 まったく頭の痛いバカ息子であるが、バカなほどかわいいと思うのは親の欲目か。

 鈴に関してはそうそう期待してはいない。ただ、運が良ければ持って帰れればよいという程度だ。
 そうすれば光闇問わず神殿勢力を支配下に置ける。

 そう思いながらちらりとロドリゲス神官に目をやると、下げていた頭を上げた男と視線が合った。
 瞳の中には油断ならぬ光が宿っている。

 「御意に――しかし、その代り、」

 「分かっておる。わしが王となった後に闇の神殿を立ててやる約束は忘れておらぬ。その後は好きに教皇でもなんでも名乗るがよい」

 「は、ありがたき幸せ」

 去っていくロドリゲス神官。
 その背を見つめながら、ギュンター公爵はいずれ王としてロドリゲスとも争わねばならない予感を感じていた。
 目まぐるしく脳を働かせる。
 圧倒的な兵力で大神殿を包囲している自軍。

 ――このまま一気呵成に攻めてしまえば。

 「あるいはドラゴンの復活は必要ないかもしれん――神殿側も後々面倒にならぬように多少は手心を加えておくか。要は王の首さえあればよいわ」


***


 包囲しているという余裕からか、ギュンター公爵の軍はすぐに攻めてくるようなことはしなかった。
 神殿側に向かって王の首を差し出して投降しろ等と呼びかけ続けていた。

 しかし数日経っても神殿側から反応がなかったため、公爵は攻め落とす事を決定したようだった。
 最終通告を耳にして、神殿兵士は死を覚悟し、光の神官も武器を手に取った。

 水の精霊使いエアルベスもまた、数日の間に出来る限りの事をしていた。
 マニュエル伯爵が投降を呼びかけている間、物資や精鋭の兵士を精霊術で運び、諸侯への連絡を取っていたのだ。
 また、世界樹の畑へ使っていた力を殺傷の為に人に向ける事を覚悟した。

 ――少しでも、私が力を発揮出来て逃がしやすくするように。

 イシュラエア王族とケット・シー達を世界樹の畑の地下洞窟へと隔離する。
 大軍であっても入り組んだ建物では一気呵成には攻められない。
 自分達は世界樹の畑の近く、中庭にある地下洞窟へと通じる建物を固める。
 また、神殿の建物全体の、ドア付近等不意打ちをしやすい場所にピンポイントで人員を配した。

 近づいてくる鬨の声と何人もの足音。
 戦う剣劇の音、悲鳴。
 魔法によるものなのだろうか、爆音も聞こえる。

 「――ここは、死んでも通しません」

 近くにある溜池に意識をやりながら、エアルベスは殺意を帯びた兵士達が中庭を突っ切ってこちらへ近づいてくるのをじっと見つめていた。

 と。

 兵士達が奇妙な悲鳴を上げて沈んでいく。
 硬かった筈の地面が、いつの間にか大きな泥の池になっているのだ。

 「え?」

 エアルベスが疑問の声を上げた瞬間、その巨体が泥を突き破って天に上った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

アラヒフおばさんのゆるゆる異世界生活

ゼウママ
ファンタジー
50歳目前、突然異世界生活が始まる事に。原因は良く聞く神様のミス。私の身にこんな事が起こるなんて…。 「ごめんなさい!もう戻る事も出来ないから、この世界で楽しく過ごして下さい。」と、言われたのでゆっくり生活をする事にした。 現役看護婦の私のゆっくりとしたどたばた異世界生活が始まった。 ゆっくり更新です。はじめての投稿です。 誤字、脱字等有りましたらご指摘下さい。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...