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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!
77にゃん
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ギュンター公爵は大神殿を包囲する自軍を見てほくそ笑んでいた。
――もうすぐ、この国は自分のものとなる。
王に不満を持つ諸侯や貴族を抱き込んで味方につけ、神殿勢力を味方にする為に援助を惜しまない。
その裏で帝国の政変で流れてきた闇の神官を保護し、禁忌の術を使わせ、ゾンビではあるがドラゴンという大きな戦力を得る。
全ての流れは自分に味方しているとしか思えなかった。
王は自分を信頼するふりをしつつ利用しようとしていたようだったが、自分の方が一枚上手だったという訳だ。
自軍を一般の民や商隊に紛れ込ませ、王都に入れた甲斐があったというもの。
自分とて、この有利な状況がいつまでも続く訳ではないとわかっている。
諸侯が異変を察して大挙して軍を動かせば多勢に無勢になる。
だからこそ、今禁術の成就を急がせているのだ。
「――ロドリゲス神官。ドラゴンの復活儀式はどうなっている?」
後ろを振り返って問いかける。
そこには帝国からこの国に新天地を求めて来た、闇の神を奉ずる過激派の神官の一人がいた。
神官としては勿論禁術の知識もあり、申し分のない実力を持っている男。
先日リュネという街でヘマをして捕まっていた所を、秘密裏に助け出してやった。
「あと数刻もしますれば、何時でも行えるよう全て整いまする」
「投獄されていたのを折角救ったのだ、しっかりと働いてもらわねばな」
この男を捕えるのに活躍した冒険者達、それに不思議な力を持つケット・シー。
唯一計画の邪魔になりそうな者達は全て魔族の国へ向かってしまった。
この点に関しては魔王様様だとギュンター公爵は思う。
奴らが魔王討伐に成功したのは先日魔石が透明になって砕けた事から分かっていた。
早すぎる、と思ったが、水の精霊使いが力を貸せば不可能ではない。
王が魔王討伐成功の祝賀会を開くと浮かれている陰でこちらは計画を実行する。
その場で王に忠誠を尽くす貴族はほとんど一網打尽にして投獄している。残すは目の前の大神殿を落とすだけだ。
王の首を取り、ケット・シー達を人質に水の精霊使いに命じてヒュペルトを救出させる。
あの者達が魔王を倒せば英雄として、魔王にやられたら生き残った唯一の同行者として――そう扱えば社交界にも戻せるだろう。
まったく頭の痛いバカ息子であるが、バカなほどかわいいと思うのは親の欲目か。
鈴に関してはそうそう期待してはいない。ただ、運が良ければ持って帰れればよいという程度だ。
そうすれば光闇問わず神殿勢力を支配下に置ける。
そう思いながらちらりとロドリゲス神官に目をやると、下げていた頭を上げた男と視線が合った。
瞳の中には油断ならぬ光が宿っている。
「御意に――しかし、その代り、」
「分かっておる。わしが王となった後に闇の神殿を立ててやる約束は忘れておらぬ。その後は好きに教皇でもなんでも名乗るがよい」
「は、ありがたき幸せ」
去っていくロドリゲス神官。
その背を見つめながら、ギュンター公爵はいずれ王としてロドリゲスとも争わねばならない予感を感じていた。
目まぐるしく脳を働かせる。
圧倒的な兵力で大神殿を包囲している自軍。
――このまま一気呵成に攻めてしまえば。
「あるいはドラゴンの復活は必要ないかもしれん――神殿側も後々面倒にならぬように多少は手心を加えておくか。要は王の首さえあればよいわ」
***
包囲しているという余裕からか、ギュンター公爵の軍はすぐに攻めてくるようなことはしなかった。
神殿側に向かって王の首を差し出して投降しろ等と呼びかけ続けていた。
しかし数日経っても神殿側から反応がなかったため、公爵は攻め落とす事を決定したようだった。
最終通告を耳にして、神殿兵士は死を覚悟し、光の神官も武器を手に取った。
水の精霊使いエアルベスもまた、数日の間に出来る限りの事をしていた。
マニュエル伯爵が投降を呼びかけている間、物資や精鋭の兵士を精霊術で運び、諸侯への連絡を取っていたのだ。
また、世界樹の畑へ使っていた力を殺傷の為に人に向ける事を覚悟した。
――少しでも、私が力を発揮出来て逃がしやすくするように。
イシュラエア王族とケット・シー達を世界樹の畑の地下洞窟へと隔離する。
大軍であっても入り組んだ建物では一気呵成には攻められない。
自分達は世界樹の畑の近く、中庭にある地下洞窟へと通じる建物を固める。
また、神殿の建物全体の、ドア付近等不意打ちをしやすい場所にピンポイントで人員を配した。
近づいてくる鬨の声と何人もの足音。
戦う剣劇の音、悲鳴。
魔法によるものなのだろうか、爆音も聞こえる。
「――ここは、死んでも通しません」
近くにある溜池に意識をやりながら、エアルベスは殺意を帯びた兵士達が中庭を突っ切ってこちらへ近づいてくるのをじっと見つめていた。
と。
兵士達が奇妙な悲鳴を上げて沈んでいく。
硬かった筈の地面が、いつの間にか大きな泥の池になっているのだ。
「え?」
エアルベスが疑問の声を上げた瞬間、その巨体が泥を突き破って天に上った。
――もうすぐ、この国は自分のものとなる。
王に不満を持つ諸侯や貴族を抱き込んで味方につけ、神殿勢力を味方にする為に援助を惜しまない。
その裏で帝国の政変で流れてきた闇の神官を保護し、禁忌の術を使わせ、ゾンビではあるがドラゴンという大きな戦力を得る。
全ての流れは自分に味方しているとしか思えなかった。
王は自分を信頼するふりをしつつ利用しようとしていたようだったが、自分の方が一枚上手だったという訳だ。
自軍を一般の民や商隊に紛れ込ませ、王都に入れた甲斐があったというもの。
自分とて、この有利な状況がいつまでも続く訳ではないとわかっている。
諸侯が異変を察して大挙して軍を動かせば多勢に無勢になる。
だからこそ、今禁術の成就を急がせているのだ。
「――ロドリゲス神官。ドラゴンの復活儀式はどうなっている?」
後ろを振り返って問いかける。
そこには帝国からこの国に新天地を求めて来た、闇の神を奉ずる過激派の神官の一人がいた。
神官としては勿論禁術の知識もあり、申し分のない実力を持っている男。
先日リュネという街でヘマをして捕まっていた所を、秘密裏に助け出してやった。
「あと数刻もしますれば、何時でも行えるよう全て整いまする」
「投獄されていたのを折角救ったのだ、しっかりと働いてもらわねばな」
この男を捕えるのに活躍した冒険者達、それに不思議な力を持つケット・シー。
唯一計画の邪魔になりそうな者達は全て魔族の国へ向かってしまった。
この点に関しては魔王様様だとギュンター公爵は思う。
奴らが魔王討伐に成功したのは先日魔石が透明になって砕けた事から分かっていた。
早すぎる、と思ったが、水の精霊使いが力を貸せば不可能ではない。
王が魔王討伐成功の祝賀会を開くと浮かれている陰でこちらは計画を実行する。
その場で王に忠誠を尽くす貴族はほとんど一網打尽にして投獄している。残すは目の前の大神殿を落とすだけだ。
王の首を取り、ケット・シー達を人質に水の精霊使いに命じてヒュペルトを救出させる。
あの者達が魔王を倒せば英雄として、魔王にやられたら生き残った唯一の同行者として――そう扱えば社交界にも戻せるだろう。
まったく頭の痛いバカ息子であるが、バカなほどかわいいと思うのは親の欲目か。
鈴に関してはそうそう期待してはいない。ただ、運が良ければ持って帰れればよいという程度だ。
そうすれば光闇問わず神殿勢力を支配下に置ける。
そう思いながらちらりとロドリゲス神官に目をやると、下げていた頭を上げた男と視線が合った。
瞳の中には油断ならぬ光が宿っている。
「御意に――しかし、その代り、」
「分かっておる。わしが王となった後に闇の神殿を立ててやる約束は忘れておらぬ。その後は好きに教皇でもなんでも名乗るがよい」
「は、ありがたき幸せ」
去っていくロドリゲス神官。
その背を見つめながら、ギュンター公爵はいずれ王としてロドリゲスとも争わねばならない予感を感じていた。
目まぐるしく脳を働かせる。
圧倒的な兵力で大神殿を包囲している自軍。
――このまま一気呵成に攻めてしまえば。
「あるいはドラゴンの復活は必要ないかもしれん――神殿側も後々面倒にならぬように多少は手心を加えておくか。要は王の首さえあればよいわ」
***
包囲しているという余裕からか、ギュンター公爵の軍はすぐに攻めてくるようなことはしなかった。
神殿側に向かって王の首を差し出して投降しろ等と呼びかけ続けていた。
しかし数日経っても神殿側から反応がなかったため、公爵は攻め落とす事を決定したようだった。
最終通告を耳にして、神殿兵士は死を覚悟し、光の神官も武器を手に取った。
水の精霊使いエアルベスもまた、数日の間に出来る限りの事をしていた。
マニュエル伯爵が投降を呼びかけている間、物資や精鋭の兵士を精霊術で運び、諸侯への連絡を取っていたのだ。
また、世界樹の畑へ使っていた力を殺傷の為に人に向ける事を覚悟した。
――少しでも、私が力を発揮出来て逃がしやすくするように。
イシュラエア王族とケット・シー達を世界樹の畑の地下洞窟へと隔離する。
大軍であっても入り組んだ建物では一気呵成には攻められない。
自分達は世界樹の畑の近く、中庭にある地下洞窟へと通じる建物を固める。
また、神殿の建物全体の、ドア付近等不意打ちをしやすい場所にピンポイントで人員を配した。
近づいてくる鬨の声と何人もの足音。
戦う剣劇の音、悲鳴。
魔法によるものなのだろうか、爆音も聞こえる。
「――ここは、死んでも通しません」
近くにある溜池に意識をやりながら、エアルベスは殺意を帯びた兵士達が中庭を突っ切ってこちらへ近づいてくるのをじっと見つめていた。
と。
兵士達が奇妙な悲鳴を上げて沈んでいく。
硬かった筈の地面が、いつの間にか大きな泥の池になっているのだ。
「え?」
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