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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

72にゃん

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 魔狼をじっと見つめていると、ある瞬間にこちらに向かって駆けだした。
 私が食中毒にした魔狼を中心に、群れは左右に分かれ展開する。

 ――囲むつもりなんだろうなぁ。

 一点の影がみるみる内に近くなっていく。
 その時、ティリオンが魔狼に気付いた。

 「まずい、魔狼だ! ――サミュエル、天に火球を投げてライオット達に知らせろ!」

 だが、そうしている間にも魔狼は疾駆してくる。
 サミュエルが打ち上げた火球にライオット達が気付いて戻って来た頃にはもう、私達はすっかり魔狼の群れに包囲されていた。

 魔狼の唸り声が周囲から響く。

 「チッ――人が腹ごなししようって時に!」

 剣を抜いて構えたライオットが舌打ちをした。
 スィルは樹上に居て魔狼のボスに弓の照準を合わせている。
 マリーシャと私はサミュエルとティリオンの背後に庇われていた。

 「――奇妙だな。囲んで唸っている割には殺気がない。あるとすればボスと思われるあいつぐらいだ」

 ティリオンが独り言ちる。
 確かに魔狼のボスはティリオン一人を睨んでいるようだった。
 サミュエルもダークエルフの疑問に同意する。

 「確かにおかしいですね。これだけ数で差があればすぐ襲ってきても良さそうなものなのに」

 "あの魔狼のボスはかつて愛し子に捕まって恨みを持ってますじゃー"

 ノームの言葉に私は合点がいった。
 恐らく魔狼のボスは恨んでいたティリオンを見つけて復讐せんと包囲したは良いけれど、私のかけた魔法効果のせいか、気が削がれて戸惑っているんだろう。
 それでもティリオンを睨んでいる辺り、魔法効果に必死で抵抗していると思われる。

 さて、どうするか。

 少し考えて――良い事を思いついた。
 そうだ、魔狼を私が従わせればいいんだ。幸い食中毒魔法は皆の公認である。

 私は魔狼のボスの前に進み出た。
 「ニャンコ、危ない、」と止めようとする冒険者達に「ここはわたちにまかせてちょーらいにゃっ!」と、肉球で制する。
 そしてかつて食中毒に遭わせた魔狼のボスと目を合わせた。
 ま…まさか、とティリオンの呟く声が聞こえるが、もう誰にも止められないんだ。

 心を鬼にしろ、私!


 「『半径100m以内の魔狼は食中毒になる』にゃ」


 キャンキャンキャン!!
 キューンキューン…ゴフッ―――ゴブフアアアアアアアッッ、グボエエエエエッッ!!!!!

 一瞬の後。

 魔狼達は一斉に嘔吐して苦しみだした!


***


 魔狼の背に乗って、びゅんびゅんと風を切りながら大地を疾駆する。
 私とティリオンがボスに乗って先頭を走り、冒険者達はそれぞれライオットとサミュエル、スィルとマリーシャ組に分かれていた。
 魔狼を手懐けてからというもの、格段に進むスピードが速くなっている。

 大雪山ア・クァギも魔狼が抜け道を知っており、比較的あっさりと大河トーネに出る事が出来た。
 トーネの岸に着いてから魔狼に礼を言って別れる。
 魔狼はやっと解放されたとばかりにあっという間に居なくなっていた。

 冒険者達は魔狼の消えた先を、生暖かい目で見送っている。
 ライオットが「ありがとう、魔狼…。お前とは戦ったこともあったけど、幸せに生きろよ…」と呟いた。
 かつて食われそうになった筈のマリーシャも、光の神イーラに魔狼の幸福を願って祈りを捧げている。



 魔狼に食中毒魔法をかけた後。

 「『魔狼の食中毒は治る』にゃ」

 と一旦治してあげる。
 ピタッと嘔吐が止まった魔狼のボスに、

 「わたちたちを乗せて大河トーネまで連れてってちょーらいにゃっ!」

 と言うと、ボスは私を睨み付けてきた。
 周囲の群れの視線も私一人に注がれる。
 毛がちょっとだけぶわってする。殺意混じってるよね、これ。

 「にゃっ、通じないのかにゃー?」

 "ボスは人間の言葉もある程度分かっておりますですじゃー。ただ、魔狼は自分より強い生き物でないと使役はされないから、怒ってるんですじゃー"

 ボスが歯を剥き出しにして、私に飛びかかろうと身を低くした。

 「『半径100m以内の魔狼は食中毒になる』にゃ」

 魔狼達は再び食中毒に罹り、阿鼻叫喚の様相となる。
 私は心をいよいよ鬼にして、反抗的な気配が無くなるまで何度か食中毒と治癒を繰り返してやった。

 その結果――全ての魔狼は私に対して怯えの色を目に浮かべ、寝転がってこちらに腹を見せるようにさえなったのである!

 「ニャ、ニャンコ…」

 後ろから恐る恐る声がかけられる。ヤバイ、やりすぎたかな?

 「――魔狼しゃん達が、大河トーネまでちゅれてってくれるっちゅってるにゃー!」

 当社比1.5倍くらいで目をキラキラさせ、両手を頬に当て小首を傾げ、かわいらしい表情を作って冒険者達を振り返ると、全員白目を剥いていた。

 「ニャンコ――恐ろしい子!」

 スィルが某演劇漫画のセリフを言う。えー。
 私は猫を被ってはいるが、千の仮面なんて持ってないぞ――うん、我ながら上手い事を言ったものだ。

 「それがどうなのにゃ? ――探ちても探ちてもウマがみちゅからなければ、ウマをちゅくればいいのにゃ!」

 人がただ一度の人生しか生きられないのに比べて、転生できた私はなんと贅沢でなんとすばらしいことか!


【おまけ】

 「くそ~、高貴な血筋で才色兼備の僕はこんな未開の地で朽ち果てる男なんかじゃない~」

 焦るヒュペルト様。
 そりゃそうである。
 時間が経てば経つほどニャンコ達との距離は開いていく。
 それに、ここ数日夜になるとレアズから思わせぶりな態度でプレッシャーをかけられ始めていた。

 「あんな女、僕はノーセンキュウだよ~。こうなったら一人でも追いかけてやるさ~!」

 とうとう逃げ出す事を決意した。
 意を決してレアズが狩りに出かけている間にそっとクスァーツ集落を抜け出す。
 辛うじて人の通る道だと分かる森の中の道を伝ってズンズン歩いて行くヒュペルト様。

 しかし数時間歩いて休んだところで食料を持たず出て来た事に今更ながら気付く。

 「お腹が空いたよぉ~」

 「プキー!」

 そこへ、可愛らしい子豚が現れた!
 人間が珍しいのか、ヒュペルト様を恐れず近づいてくる。
 グンマ―ルの生き物は総じて凶暴な筈なのだが、これは違うようだ。

 「僕にだって狩りは出来るさ~」

 少々? たくましくなったのか、ナイフを取り出し子豚に狙いを定めるヒュペルト様。
 プキ? とつぶらな瞳で首を傾げる子豚に容赦なく振り下ろそうとしたその瞬間、


 ブフゥー……


 後頭部に吹きかかる生暖かい風。
 子豚がプキー! と鳴きながらヒュペルト様の横をトコトコ過ぎて背後へ向かう。
 子豚の動きを追いながら恐る恐る振り向くやいなや、彼は全身総毛立った。

 そこにはグンマ―ルに生息する生き物でも上位ランクの強さの山ほどもある大牙猪が毛を逆立ててヒュペルト様に狙いを定めていたのだ!
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