上 下
58 / 105
【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

58にゃん

しおりを挟む
 「ウンディーネ!ニャンコをここへ連れてきてください!」

 世界樹の畑の近くの大きな溜池のところまで来ると、エアルベスは叫んだ。
 続いて到着したライオットは水面の変化を見つめる。

 水がさざ波を立てていた。
 数分すると、やがて大きな渦を描き出す。
 その渦は速度を増してゆき、とてつもなく大きな影を吐き出した。
 それは天に向かい咆哮し、その音は地面をビリビリと揺るがす程であった。

 「――な、何故ドラゴンも出て来るのですか!?」

 ここに移動させて来るのはニャンコだけの筈。なのに何故ドラゴンまで!

 叫びながらも咆哮の衝撃に中てられたエアルベスはパニックに陥る。
 本能的な咄嗟の判断で、ライオットがそんな彼女の手を引いてその場を離れるべく駆け出した。

 ケット・シー達も職員も、悲鳴を上げて逃げ惑う。
 ドラゴンは大きな翼を動かして水から這い上がり、周囲を睥睨する。
 後から着いてきた最高司祭らはその迫力に立ち竦んでいた。



***



 宝石…もとい、ドラゴンのうんこを手放した私はとりあえずその手を洗う。

 "――確かに我の糞ではあるが宝石なのは間違いないぞ。炎を吸収した後の水の魔石だ。魔族や人間共は盗みに来る程欲しがるのだが"

 「そんなモンダイじゃないにゃっ! うんこは綺麗でもうんこなのにゃ! ……それより、ジュゲムも一緒に行くにゃ!」

 "ニャンコ、それは…"

 「このままジュゲムをここにずーっと置いておくつもりかにゃ?オソカレハヤカレというやつなのにゃ」

 "……確かに…仕方ないですわ。いざとなったら愛し子はわたくしが守ることにいたします"

 「わたちも猫の手だけど力を貸すにゃ。ジュゲム、先に飛び込むにゃ!」

 ドラゴンは渦に飛び込む。転移の水は、その巨躯をゆっくりと水底へと沈めていった。
 それを見届けてから、私も続いて飛び込む。
 一瞬の後――水から出ると、丁度ドラゴンが咆哮を上げたところだった。

 "貴様ら、我の名を言ってみろおおおおおおっ!!!"

 いきなり何を言ってるんだジュゲムは。
 きっと娑婆に出られた解放感から叫んだに違いない。

 私はジュゲムに構わずライオット達の姿を認めて走っていく。
 近くまで来たが、彼らはドラゴンに気を取られて気付いてくれなかった。
 ライオットの服を引っ張る。
 彼はこちらをちらりと見たもののまたドラゴンに視線を戻す。
 あっ、そうだった!
 今、私、人間に見えてなかったんだ。

 "――ニャンコ、ラッキーな事に俺の愛し子もここに来てた! 丁度良いからこのままドラゴンを連れて帰ろうと思う。これから一芝居打つから驚くなよ?"

 サラマンダーの声がしたかと思うと、誰かの気配を隣に感じる。
 見ると、スカーレットさんだった。

 「ありがとう、ニャンコ――後で魔族領へ来てね、お礼をしたいから」

 耳元で囁いて、スカーレットさんはジュゲムの元へ走る。彼女の姿がゆらりと崩れた。
 瞳と髪はそのままに、頭の両サイドに角が生え、耳が鋭く長く伸びる。

 「ま、魔族!?」

 誰かの驚愕の声。
 魔族、という言葉に皆スカーレットさんに注目していた。
 彼女は凄い跳躍力でひらりとジュゲムの上、顔に近い首の大きな棘の間に飛び乗った。
 私はひとまず姿を消す魔法を解いて成り行きを見守る。
 ジュゲムは故郷に帰るべく羽ばたき始めた。

 「くっくっくっ……はーっはっはっはっ!!」

 ジュゲムに跨ったスカーレットさんは悪役っぽく高笑いした。
 一芝居――ちょっとノリノリだねぇ、お姉さん。

 「聞け――我は魔王スカーレット=エクトマ=レトナーク! 愚かな人間どもよ、よくも我ら魔族が保護せしドラゴンを攫ってくれたな。その償いとして神々の祝福を受けしケット・シー、ニャンコ=コネコを魔王城まで連れて来い! さもなくば魔族はこの国を無慈悲な軍隊で無慈悲に責め滅ぼすであろう!」

 "まぁ、ダイコン役者ですわね"

 "ドラゴンの迫力でごまかされてますじゃー"

 "無慈悲言いすぎよねー"

 "お前ら…言いたい放題だな…"

 精霊達の言葉にスカーレットさんの頬が少し赤くなったように見えた。
 その言葉と共にジュゲムもノリノリで吼え、炎のブレスを吐く。

 "刮目して見よ、我が無慈悲な炎ォォォ―――!!!!"

 スカーレットさんにドラゴンの言葉が分からないようで良かったと思う。
 ジュゲムのブレスは世界樹の結界に当たって広がり、ピキピキ…と嫌な音を立てた。
 ジュゲムの巨体が宙に浮く。

 その姿はぐんぐんと上昇し、やがて結界を越え――空の彼方へと消えていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】おねがい…はやくイって【R18】

NichePorn
BL
街中で具合が悪くなって・・・。 街で噂の絶倫と噂されるイケメンに声をかけられた。 ちゃんと警戒していたのに、いつの間にかえっちな流れになって…。 彼が満足する(イク)までカラダをあずけつづけることに。 性感なんか信じていなかったノンケ × 優しくて真剣(に変態)な医師

醜い孤児で奴隷の男娼だったけど、引き取られた先で蝶よ花よと愛されまくる話

うらひと
BL
この国での綺麗の基準は艶やかな黒髪に大きな黒い瞳の人をいう。 その中で1人だけ明るい茶色の髪の翡翠の色のような瞳の孤児がいた。それがタダだ。皆から嫌な顔をされながらも生きている。 そんな孤児として生きてきたタダは束の間の平和な生活も出来なくなり奴隷にされて、人気のない男娼になってしまう。 しかしある日、身請けの話がいつの間にか進み、引き取られてからのタダは誰からも美しいと愛されまくられて、戸惑いつつも少しずつ愛される事を受け入れる話です。 18Rには※を付けてあります。ムーン様にも投稿してます。

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

世界で一番大嫌いなやつの〇〇しか美味しくない

橘 咲帆
BL
「みかん」が主食の世界で、「みかん」の中身が全て種になってしまう呪いにかかった俺が再び「みかん」を食べられるようになるには、男に種付けしてもらうしか方法がない。その相手って大嫌いなあいつかよ・・・。 チョメチョメぴゅーぴゅーしてちょうどタイミングが合えば、はいはーい。ぽんぽーん。ごかいにーん。そんなに簡単に妊娠するんかい。 ※アホエロです。 ※ムーンライトノベルズ様にも掲載しております。

BL短編まとめ ②

よしゆき
BL
短編のBLをまとめました。 冒頭にあらすじがあります。

ポンコツ女子は異世界で甘やかされる(R18ルート)

三ツ矢美咲
ファンタジー
投稿済み同タイトル小説の、ifルート・アナザーエンド・R18エピソード集。 各話タイトルの章を本編で読むと、より楽しめるかも。 第?章は前知識不要。 基本的にエロエロ。 本編がちょいちょい小難しい分、こっちはアホな話も書く予定。 一旦中断!詳細は近況を!

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

処理中です...