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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!

37にゃん

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 ふわふわと、目の前を羽のついた赤い半透明の小さな精霊が飛んでいた。
 周囲には同じような一回り小さいのがちらほらと。
 シルフィードがそれに近づいていく。

 "あれー、サラマンダーじゃないのー! 何でここに居るのー?"

 "久しぶりじゃねーかシルフィード。愛し子の激しい怒りに引き寄せられて来ちまった"

 "えー? 火の精霊あんたたちの愛し子って、確かー…"

 空中を飛び交う精霊たちを目で追っていると、ふわりと身体が浮き上がった。
 驚いて後ろを振り返ると、あの赤い髪の女性である。

 「お嬢ちゃん、のね?」

 微かな囁き。私はうんと頷いた。

 "ん? 俺達の事見えてるのか――って……そ、それは何だお前! 光に闇の祝福、風と地の石――とんでもねぇモン持ってやがる!"

 火の精霊――サラマンダーは私の鈴を見て驚愕している。

 "へへー、いいでしょー? ニャンコは特別なのー! 言っとくけど、ニャンコは精霊あたしたちの言葉分かってるからねー?"

 "えっ、本当か!?"

 こちらを驚いて振り向くサラマンダー。

 「本当にゃ、こんばんにゃ!」

 手を小さく振って小声で会釈すると、火の精霊王は目をまんまるにした。

 「――もしかして、言葉も分かっているのかしら?」

 「にゃっ!? お姉さんも分かるのかにゃ?」

 "てことはニャンコ、だっけ? あんた、その幼いなりでスカーレット以上の魔力は持ってんだな!"

 ん? すると、精霊の声が聞こえる聞こえないは魔力量の関係なのかな?
 どちらにせよ、精霊の声が聞こえる人に初めて会ったよ。

 その時である。

 「あら、ニャンコ……?」

 ライオット達がヒュペルト様をげんなりしながらあしらっている最中、マリーシャがこちらに気付くと心配そうに声を掛けてきた。
 まあスカーレットさんはヒュペルト様の一味に見られてるからなぁ。
 大丈夫だというように明るく手を振ると、ヒュペルト様がこちらに近づいて来た。

 「お前~、獣人奴隷の癖に僕のスカーレットに抱っこされていいご身分だね~。しかも、身分不相応な綺麗な鈴を付けているじゃないか~。僕が貰ってあげるよ~」

 取り巻きのお姉さん、スカーレットさんに抱っこされているから気に入らなかったらしい。
 丁度良い、こいつでアンシェラ様の仕掛けとやらを実験してみる事にする。

 「シルフィード、声を届けてお願いにゃ。大丈夫にゃ、何もしないで見ててちょーらいにゃっ」

 腕を強張らせるスカーレットさんに囁くと同時に冒険者達にも声を届けてもらう。
 冒険者達もハラハラしつつもヒュペルト様を囲むように動いた。
 主催者であるマニュエル様は厳しい目つきでこちらを見ているが、決定的にでもならなければ動けないだろう。
 貴族特有の関係もあるだろうから。

 ヒュペルト様が私に手を伸ばした――緊張の、瞬間。

 彼は首輪に手を掛け――るなり、何かに弾かれたように後ろに盛大に倒れた。
 突然の惨事に周囲から悲鳴が上がる。

 「痛いな、なんだ~、触ったら衝撃が走った~、僕の股間の聖剣を●●●●自主規制してよ~!!?」

ヒュペルト様は己が身に起きた異常を感じて口元を押さえた。

「な、な、な…今、僕の口が勝手に~!? 僕の股間の聖剣を●●●●自主規制してよ~!」

 お、おお…これが……偉大なる闇の神アンシェラ様の御力か……!

 私はあまりの事に戦慄を覚えた。体中に震えが走る。
 その変態発言が、私のような幼女に向かって発せられているのは…社会的な死を意味している。
 しかもヒュペルト様は身分の高い貴族…こんな公衆の面前で、だと……!?

 「もしかしてその鈴の所為かい~、僕の股間の聖剣を●●●●自主規制してよ~」

 ヒュペルト様は真っ青になっている。
 その時にはもう、周囲の耳目はほとんどこちらに集まっていた。


 (ねえ、あれ…)

 (ああ、ギュンター公爵家の馬鹿息子じゃない…?)

 (馬鹿だけじゃなくロリペドの変態だったか。どちらにも超が付くが)

 (いやあああ、あんな小さな子に! 気持ち悪い!)

 (あの剣帯のやり方ってあいつが最初にやり始めたんじゃなかったっけ? そういう意味だったんだな)


 ざわ…ざわ…。ひそひそひそ。

 「こ、これは違うんだ~、その猫獣人の所為に決まってる! 僕の股間の聖剣を●……」

  私はこれ以上ヒュペルト様の傷口を広げてはいけないと焦り、奥の手を使った。

 「『ヒュペルトはぎっくり腰になる』にゃ!」

 「ぐふぇっ…」

 ヒュペルト様は再び崩れ落ちて股間をレイピアの鞘で強打し、白目をむいて気絶した。

 仕方なかったんだ…再びぎっくり腰になったのは、時間の問題だったのだから…。

 スカーレットさんが他の取り巻きの女性達に近づいて、私がこの子を見てるから後はよろしくねと囁く。
 彼女らは頷くと、全員羨ましそうな顔で私の頭を次々と撫でてから動き出した。
 マニュエル様が手配した担架を持ってきた伯爵家の使用人達と共に会場を後にする。

 "ぎゃーっはっはっはっ、すんげー面白おもしれー!!!"

 "ねー? ニャンコは最高でしょー?"

 火の精霊が笑い転げている。さっきの不機嫌さもどこへやら。
 シルフィードが、"ちなみに、本・日・二・度・目、なのー♪"ときゃらきゃら言うと、それはいよいよ激しくなった。
 フロア中の蝋燭の火も、楽しそうにパチパチと音を立てている。
 スカーレットさんを振り返ると、百花の王が咲いたような満面の笑み。

 やっぱり美人なお姉さんは笑顔が良く似合うと思う。
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