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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!
28にゃん
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ティリオンは戦線を離脱した後――限界間近だった生理現象をひとまず解決する。
後数秒遅ければ――いや今は何も言うまい。
彼はあえて戻らず地の精霊を使って冒険者達を観察していた。
ロドリゲスの罵倒を彼はぐっと我慢する。
あのような小物、自分が居なければ遅かれ早かれ憐れな末路を辿るのだ。
それよりも――あのニャンコという猫獣人の子供だ。あの子供が全てを引っ繰り返した。
闇の神が目の前に現れたという。
ロドリゲスの攻撃が無効化された事から闇の神の祝福を持っているのは確実であるようだ。
本当に神光臨の奇跡が起こったのだろう。
ならば、おいそれと手出しをする訳にはいかなくなった。
まして、相手を食中毒にするおまじないとやらを知っているのだ。
聞くだけならアホな内容だが、魔狼があっさりと無効化されたのも事実である。
自分があれを受けたとしたら――想像すらしたくない、恐ろしい力だ。
ダークエルフはぶるりと震えた。
案の定、ニャンコの言葉に怖気づいたロドリゲス達が一目散に逃げていくのが見える。
どうするか。
己の身の振り方を考える。
地の精霊を通じて現場を観察していると、エルフによって眠らせられたままの山賊達を見つけた。
幸い、ニャンコは魔術師が連れて別行動になっている。
ティリオンは彼らを使う事にした。
***
「『我火球を欲す』」
少し開けたところまでやってくると、サミュエルは天に向かって何発も火の玉を打ち上げた。
「これで自警団達はここが分かるはずです。私達は今から下山しましょう」
それに頷こうとした時。
「そういう訳にはいかねぇなぁ、色男さんよ」
闇夜の山中に、下卑た声が響いた。
頭上の赤い『児童誘拐犯』――山賊の男だ。
「その猫獣人の餓鬼をこちらに寄越せ。そうしたら見逃してやらん事もない」
「――ニャンコを? 何の為に?」
「さあな。雇い主がそいつと引換えに金貨100枚くれるっていうからよ」
「もうすぐ自警団が到着します。それまで逃げ切れば不利になるのはあなた達です」
「余裕だな、魔術師。ならばその前にお前を殺して餓鬼を奪って逃げれば済むって訳だ。魔術師とはいっても餓鬼を抱えたままで――これだけの人数相手に、どこまで逃げ切れるかな?」
山賊の言葉に、周囲ぐるりと赤い点が見える。
ひいふうみ…かなりの人数に驚いた。山賊ってまだこんなに居たっけ?
「サミュエルしゃん、囲まれてるにゃっ! 数十人はいるにゃっ!!!」
「くっ――ニャンコ、しっかり捕まっていなさい!」
「あっちにゃっ!」
猫だからなのか夜目が利く私は人数が少ない場所を指し示す。
サミュエルは火の攻撃魔法を放って駆け出した。
「逃げたぞ、追えっ!!」
山中を駆け続ける。
大人数に追い回されて、サミュエルは魔術を使う暇も無い。
どうしてか、山賊達はこちらの逃げる方向などが分かっているようで、行く先々に現れる。
もしかしたら、ライオット達と私達を引き離す作戦だったのだろうか?
あのダークエルフ、ティリオンなら頭良さそうだったし有り得るかも知れない。
次第に、逃げ続けるサミュエルの息が上がってきた。
「ガキだ! ――ガキを狙え! 男は殺しても構わん!」
とうとう彼の体力の限界が近い。
山道を逸れ、私達は木々の中に飛び込んで幹の影に隠れた。
私の食中毒魔法で――!
魔法を使おうとした瞬間、サミュエルにぎゅっと抱きしめられた。
「――ニャンコ。ここに旅のお守りがあります。これを持って、一人で下山出来ますね?」
かすかに囁かれた声。
えっと思って顔を上げると、サミュエルはそれを私の服のポケットに有無を言わさず押し込んだ。
何をする気?
「でも、サミュエルしゃんは」
言いかけると、口に人差し指を当てられた。ゆっくりと地面に下ろされる。
「『我が姿をニャンコを持つが如く見えん事を欲す』」
サミュエルの腕に、私が抱っこされているような幻が現れる。
え、そんな、いや…!
「待っ…」
制止する間も無く、サミュエルは一人で山道に飛び出していった。
――ダメだ、今すぐ食中毒魔法を!
「『私達を追いかけている山賊達は』――に゛ゃっ!!?」
全てを言い切る前に、突然後ろからドン、と衝撃が走る。
思わず前のめりに倒れた私の耳に、静かな声が降ってきた。
「――見つけたぞ、猫獣人の子供。ニャンコと言ったか」
その声は――ティリオン!?
後数秒遅ければ――いや今は何も言うまい。
彼はあえて戻らず地の精霊を使って冒険者達を観察していた。
ロドリゲスの罵倒を彼はぐっと我慢する。
あのような小物、自分が居なければ遅かれ早かれ憐れな末路を辿るのだ。
それよりも――あのニャンコという猫獣人の子供だ。あの子供が全てを引っ繰り返した。
闇の神が目の前に現れたという。
ロドリゲスの攻撃が無効化された事から闇の神の祝福を持っているのは確実であるようだ。
本当に神光臨の奇跡が起こったのだろう。
ならば、おいそれと手出しをする訳にはいかなくなった。
まして、相手を食中毒にするおまじないとやらを知っているのだ。
聞くだけならアホな内容だが、魔狼があっさりと無効化されたのも事実である。
自分があれを受けたとしたら――想像すらしたくない、恐ろしい力だ。
ダークエルフはぶるりと震えた。
案の定、ニャンコの言葉に怖気づいたロドリゲス達が一目散に逃げていくのが見える。
どうするか。
己の身の振り方を考える。
地の精霊を通じて現場を観察していると、エルフによって眠らせられたままの山賊達を見つけた。
幸い、ニャンコは魔術師が連れて別行動になっている。
ティリオンは彼らを使う事にした。
***
「『我火球を欲す』」
少し開けたところまでやってくると、サミュエルは天に向かって何発も火の玉を打ち上げた。
「これで自警団達はここが分かるはずです。私達は今から下山しましょう」
それに頷こうとした時。
「そういう訳にはいかねぇなぁ、色男さんよ」
闇夜の山中に、下卑た声が響いた。
頭上の赤い『児童誘拐犯』――山賊の男だ。
「その猫獣人の餓鬼をこちらに寄越せ。そうしたら見逃してやらん事もない」
「――ニャンコを? 何の為に?」
「さあな。雇い主がそいつと引換えに金貨100枚くれるっていうからよ」
「もうすぐ自警団が到着します。それまで逃げ切れば不利になるのはあなた達です」
「余裕だな、魔術師。ならばその前にお前を殺して餓鬼を奪って逃げれば済むって訳だ。魔術師とはいっても餓鬼を抱えたままで――これだけの人数相手に、どこまで逃げ切れるかな?」
山賊の言葉に、周囲ぐるりと赤い点が見える。
ひいふうみ…かなりの人数に驚いた。山賊ってまだこんなに居たっけ?
「サミュエルしゃん、囲まれてるにゃっ! 数十人はいるにゃっ!!!」
「くっ――ニャンコ、しっかり捕まっていなさい!」
「あっちにゃっ!」
猫だからなのか夜目が利く私は人数が少ない場所を指し示す。
サミュエルは火の攻撃魔法を放って駆け出した。
「逃げたぞ、追えっ!!」
山中を駆け続ける。
大人数に追い回されて、サミュエルは魔術を使う暇も無い。
どうしてか、山賊達はこちらの逃げる方向などが分かっているようで、行く先々に現れる。
もしかしたら、ライオット達と私達を引き離す作戦だったのだろうか?
あのダークエルフ、ティリオンなら頭良さそうだったし有り得るかも知れない。
次第に、逃げ続けるサミュエルの息が上がってきた。
「ガキだ! ――ガキを狙え! 男は殺しても構わん!」
とうとう彼の体力の限界が近い。
山道を逸れ、私達は木々の中に飛び込んで幹の影に隠れた。
私の食中毒魔法で――!
魔法を使おうとした瞬間、サミュエルにぎゅっと抱きしめられた。
「――ニャンコ。ここに旅のお守りがあります。これを持って、一人で下山出来ますね?」
かすかに囁かれた声。
えっと思って顔を上げると、サミュエルはそれを私の服のポケットに有無を言わさず押し込んだ。
何をする気?
「でも、サミュエルしゃんは」
言いかけると、口に人差し指を当てられた。ゆっくりと地面に下ろされる。
「『我が姿をニャンコを持つが如く見えん事を欲す』」
サミュエルの腕に、私が抱っこされているような幻が現れる。
え、そんな、いや…!
「待っ…」
制止する間も無く、サミュエルは一人で山道に飛び出していった。
――ダメだ、今すぐ食中毒魔法を!
「『私達を追いかけている山賊達は』――に゛ゃっ!!?」
全てを言い切る前に、突然後ろからドン、と衝撃が走る。
思わず前のめりに倒れた私の耳に、静かな声が降ってきた。
「――見つけたぞ、猫獣人の子供。ニャンコと言ったか」
その声は――ティリオン!?
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