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【1】ちーとにゃんこと世界樹の茶畑ドタバタドラゴン大戦争!
9にゃん
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次の日は朝早く出発することになった。
夕べの残りのスープと芋をたいらげ、顔を絞った布でぬぐってもらうと眠たい目をこすりこすり、明るいミルクを溶かしたような朝もやの中をマリーシャの懐にだっこされた状態で馬車に揺られる。
しばらく馬車の端に寄って、流れる風景に目を走らせていたが、だんだんと飽きてきた。
何もしないのも手持ち無沙汰だし、この世界について色々話を聞いてみることにしようと振り返ると、御者をしているライオット以外の皆が私を注視していた。
何!? と思う間もなく、何事も無かったかのようにまた談笑を始める。
しばらく彼らを見ていると、また話が途切れた瞬間に私を見つめた。
あ、これ。あれだわ。
おばちゃんの井戸端会議とかで話すことが無くなった時に、何となく傍に子供とか動物が居ればそれを見つめる、あれだ。
大人になってからはする側だったから、いざされる側に戻るとなんとも居た堪れない。てか、地球でも異世界でも大人のすることは変わらないんだなぁ。
妙な共通点に感心しながらも、沈黙の場を持たせる役目を返上するために私は話を振る事にした。
「にゃー…こうしてお外の世界に出るのは生まれて初めてにゃ。ずっと檻の中にいたから知らないことが沢山なのにゃ」
全員の顔を順繰りに眺めながら言うと、
「ニャンコは生まれたばかりの子供みたいですね」
とマリーシャが微笑む。
「ニャンコは何も知らないのであれば、常識を教えないといけませんね。知識は身を守るためにも必要ですから」
「でも、何から教えたらいいのかしら?」
魔術師の提案に首を傾げるエルフ。
女神官はでは、と私を抱き寄せて膝に置いた。
「そうですね…まずは、私が神話をお話しましょうか。昔々、暗黒の海の中に光の神イーラしかいらっしゃらなかった時。イーラは世界を産もうとご自身の光と暗黒の海から一つの世界卵を創造しました…」
昔々、光の神イーラは一つの世界卵を創造されました。
世界は卵そのものでした。
卵は世界を内側に秘めていました。
世界卵は、気が遠くなるほどの時間をじっと過ごしていました。
しかしある時、ついに卵は割れて世界が生み出されたのです。
卵は昼を司る太陽神と夜を司る月神、その妻の暁の女神と宵闇の女神をはじめとする神々も同時に生み出しました。
神々は生み出された世界に星や空や山や川等の大自然、そして色んな生き物を創造しました。
光の神イーラはこれを見て良しとされました。世界がとても素晴らしいものだったからです。
イーラはその世界でお過ごしになりたいと思われましたが、そうなさると世界は壊れてしまうほど、あまりに脆い存在でした。
光の神イーラは残念に思われましたが、自らの魂をお分けになり、御自身の分身として最初の人を創造され、世界に遊ばせる事にしました。
「最初の人から人間、エルフ、ドワーフ、獣人等の種族が生まれたのです。皆、光の神イーラの子なのですよ」
「それはわたちもなのかにゃ?」
「ええ」
「ねぇマリーシャ、世界の成り立ちも大事だけど、教えるんならもっと実用的な話の方が良いんじゃない?たとえばお金の価値とか買い物の仕方とか」
スィルの呆れた様子に、あ!と口に手を当てて顔を赤らめるマリーシャさん。
「それもそうですね、ニャンコ、神話の続きはまた今度ですね。スィルに交代です」
エルフはじゃあ私がお金の事を教えてあげる、と手を伸ばしてきた。
私の身柄はマリーシャによってスィルの手に渡る。
今度はスィルの膝の上だ。
隠しているつもりだろうが、彼女の手が私のお腹をもふもふ堪能している。
案外可愛いものに弱いのだろうな。
サミュエルが手のひらに納まるぐらいの皮袋を取り出して中から大小様々、色の違ったコインを取り出して並べ始めた。
***
並べられたコインをじっとみる。
それらは大小様々、金や銀、鉄、銅の色をしていて、中でも金のコインはピカピカ光っていて目を引いた。
銀貨は黒ずんでおり、鉄や銅も酸化が進んで光ってはいないから尚更だ。
「ニャンコ、これはお金というものなの。えっと…これと交換で、食べ物や洋服を貰うのよ。食べ物とか洋服とかをお金と交換することを、『買う』っていうの」
スィルが猫でも分かるように物凄く優しく説明してくれたのは分かった。
ケットシーだし物々交換ぐらいしか知らないだろう的な…。
「お金には、強さがあるの。強いお金ほど沢山買えるのよ」
これが一番強いお金ね、と金貨を差す。次に強いのは、と大銀貨を差し、順繰りにそこから小銀貨、鉄貨、銅貨と続いた。
「銅貨で蜜芋が一つ。鉄貨だと5つ、小銀貨だと10個。大銀貨だと100個、金貨になると1000個買えるのよ」
猫でも以下略、昨日食べたばかりの蜜芋計算である。
おならの黒歴史の記憶に苛まれながらも銅貨が百円、鉄貨は五百円、小銀貨は千円、大銀貨一万円、金貨が…十万円だということなんだろうなと思う。
街に着いたらお買い物をしてみましょうね、と言われ、私に楽しみなことが出来た。
早く街に着かないかな、とスィルの膝を降りて幌の隙間から外を覗く。
と、お腹の虫がぐうりゃりゃりゃ…と盛大に鳴いた。
「もう昼時ですか。思ったより早かったですね」
サミュエルが笑いを堪えながら幌布を押しのけて外を眺める。
馬車一行は、件の崖下の道の入り口に差し掛かっていた。
夕べの残りのスープと芋をたいらげ、顔を絞った布でぬぐってもらうと眠たい目をこすりこすり、明るいミルクを溶かしたような朝もやの中をマリーシャの懐にだっこされた状態で馬車に揺られる。
しばらく馬車の端に寄って、流れる風景に目を走らせていたが、だんだんと飽きてきた。
何もしないのも手持ち無沙汰だし、この世界について色々話を聞いてみることにしようと振り返ると、御者をしているライオット以外の皆が私を注視していた。
何!? と思う間もなく、何事も無かったかのようにまた談笑を始める。
しばらく彼らを見ていると、また話が途切れた瞬間に私を見つめた。
あ、これ。あれだわ。
おばちゃんの井戸端会議とかで話すことが無くなった時に、何となく傍に子供とか動物が居ればそれを見つめる、あれだ。
大人になってからはする側だったから、いざされる側に戻るとなんとも居た堪れない。てか、地球でも異世界でも大人のすることは変わらないんだなぁ。
妙な共通点に感心しながらも、沈黙の場を持たせる役目を返上するために私は話を振る事にした。
「にゃー…こうしてお外の世界に出るのは生まれて初めてにゃ。ずっと檻の中にいたから知らないことが沢山なのにゃ」
全員の顔を順繰りに眺めながら言うと、
「ニャンコは生まれたばかりの子供みたいですね」
とマリーシャが微笑む。
「ニャンコは何も知らないのであれば、常識を教えないといけませんね。知識は身を守るためにも必要ですから」
「でも、何から教えたらいいのかしら?」
魔術師の提案に首を傾げるエルフ。
女神官はでは、と私を抱き寄せて膝に置いた。
「そうですね…まずは、私が神話をお話しましょうか。昔々、暗黒の海の中に光の神イーラしかいらっしゃらなかった時。イーラは世界を産もうとご自身の光と暗黒の海から一つの世界卵を創造しました…」
昔々、光の神イーラは一つの世界卵を創造されました。
世界は卵そのものでした。
卵は世界を内側に秘めていました。
世界卵は、気が遠くなるほどの時間をじっと過ごしていました。
しかしある時、ついに卵は割れて世界が生み出されたのです。
卵は昼を司る太陽神と夜を司る月神、その妻の暁の女神と宵闇の女神をはじめとする神々も同時に生み出しました。
神々は生み出された世界に星や空や山や川等の大自然、そして色んな生き物を創造しました。
光の神イーラはこれを見て良しとされました。世界がとても素晴らしいものだったからです。
イーラはその世界でお過ごしになりたいと思われましたが、そうなさると世界は壊れてしまうほど、あまりに脆い存在でした。
光の神イーラは残念に思われましたが、自らの魂をお分けになり、御自身の分身として最初の人を創造され、世界に遊ばせる事にしました。
「最初の人から人間、エルフ、ドワーフ、獣人等の種族が生まれたのです。皆、光の神イーラの子なのですよ」
「それはわたちもなのかにゃ?」
「ええ」
「ねぇマリーシャ、世界の成り立ちも大事だけど、教えるんならもっと実用的な話の方が良いんじゃない?たとえばお金の価値とか買い物の仕方とか」
スィルの呆れた様子に、あ!と口に手を当てて顔を赤らめるマリーシャさん。
「それもそうですね、ニャンコ、神話の続きはまた今度ですね。スィルに交代です」
エルフはじゃあ私がお金の事を教えてあげる、と手を伸ばしてきた。
私の身柄はマリーシャによってスィルの手に渡る。
今度はスィルの膝の上だ。
隠しているつもりだろうが、彼女の手が私のお腹をもふもふ堪能している。
案外可愛いものに弱いのだろうな。
サミュエルが手のひらに納まるぐらいの皮袋を取り出して中から大小様々、色の違ったコインを取り出して並べ始めた。
***
並べられたコインをじっとみる。
それらは大小様々、金や銀、鉄、銅の色をしていて、中でも金のコインはピカピカ光っていて目を引いた。
銀貨は黒ずんでおり、鉄や銅も酸化が進んで光ってはいないから尚更だ。
「ニャンコ、これはお金というものなの。えっと…これと交換で、食べ物や洋服を貰うのよ。食べ物とか洋服とかをお金と交換することを、『買う』っていうの」
スィルが猫でも分かるように物凄く優しく説明してくれたのは分かった。
ケットシーだし物々交換ぐらいしか知らないだろう的な…。
「お金には、強さがあるの。強いお金ほど沢山買えるのよ」
これが一番強いお金ね、と金貨を差す。次に強いのは、と大銀貨を差し、順繰りにそこから小銀貨、鉄貨、銅貨と続いた。
「銅貨で蜜芋が一つ。鉄貨だと5つ、小銀貨だと10個。大銀貨だと100個、金貨になると1000個買えるのよ」
猫でも以下略、昨日食べたばかりの蜜芋計算である。
おならの黒歴史の記憶に苛まれながらも銅貨が百円、鉄貨は五百円、小銀貨は千円、大銀貨一万円、金貨が…十万円だということなんだろうなと思う。
街に着いたらお買い物をしてみましょうね、と言われ、私に楽しみなことが出来た。
早く街に着かないかな、とスィルの膝を降りて幌の隙間から外を覗く。
と、お腹の虫がぐうりゃりゃりゃ…と盛大に鳴いた。
「もう昼時ですか。思ったより早かったですね」
サミュエルが笑いを堪えながら幌布を押しのけて外を眺める。
馬車一行は、件の崖下の道の入り口に差し掛かっていた。
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