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「灯ちゃんを殺す。私にはそれしかない」

 突然の告白。それにピヨは驚きを隠せなかった。
 だがそんなこと気にも留めずに日和は続ける。

「止めないでね、ピヨ。私は灯ちゃんを殺さなきゃいけないから」

 日和はさっきとは打って変わって、急ぎ足で帰っていこうとした。
 すると急に足を止め、ピヨを見た。

「今日は来ないでね。来たら──」

 ピヨは動けなかった。今までに無く、動けなかった。

「私、死ぬから」

 日和はピヨを睨んだ──と思った。
 その目は、何もかも諦めた目だった。


 その次の日、日和は消えた。


 ◆


 翌日、日和は学校には来なかった。灯も。
 虐めていた方と、虐められていた方。二人が来なかったお陰で、その日、学校でいじめは無かった。


 その日の夜。前日と同じような月夜。
 学校の校舎裏──そこに、二つの人影があった。

「──やっぱり来た。灯ちゃん……」

 一つの人影の主は、日和だった。
 日和からは、
 瞳も、髪も。光が消えた、黒い少女。とでも言うのか。

「……お前も来たのね、ゴミくそ女」

 もう一つの人影は──そう、灯だった。
 睨みつけるような、見下しているような。そんな眼差しで日和を見るが、日和は少し微笑んだだけで、興味は無さそうだった。

「──ごめんね、灯ちゃん」
「え──」

 その瞬間、灯の胸に包丁が突き刺さる──。



「ピヨ!?」

 そう叫んだのは、日和だった。
 灯の胸は、血だらけだった。
 だが、その血は灯のものではなかった。
 
「ピヨ……何故……」

 そう、ピヨだ。
 
 日和は震えながら、ピヨを抱く。

「……もう、三回目だね。こんな事するの……」

 日和よりも何倍か震えるピヨを抱きしめながら、包帯を取り出した。

「包帯……巻かなきゃ……」
「いい!やめて……!」

 無理やり包帯を振り払ったピヨの胸からは、血が止まらず出続けている。

「私の、話を、聞いて……」

 涙をこらえて、真剣な表情になる。ピヨは弱々しく笑いながら、話し始めた。

「日和……私はやっぱり、日和の約束は守れない……」

 いつもよりも細い声に、必死で耳を傾ける。

「『私を殺してほしい』なんて願い……私は守れない……だって……」

 すると、ピヨは精一杯の笑顔を見せた。

「君が、幸せになってほしいから……!」

 自然に、日和の目から大粒の涙が溢れた。

「……ごめん、ピヨ。『殺してほしい』なんてお願いして。ごめん……」

 涙と鼻水をこらえて、日和は続けた。
「無理なお願いして、ごめん……!」

「──それと、灯ちゃん」

 ピヨは弱い力で、後ろを向いた。

「私が君を一方的に責めることは出来ない。だから──」

 日和は涙を拭う。だが、また涙が出てくる。涙が止まらない。

「決して、自分を責めないように」

 しばらく黙ってピヨの話を聞いていた灯が、無意識に呟いた。

「──あれ」

 灯は頬を触った。
 液体が指に付く。

「なんだ、これ。なんで……」

 それは紛れもなく、涙だった。
 灯も涙を拭う。だが、また出てくる。涙が止まらない。

「日和!」

 呆然としている日和を、ピヨは再び呼び起こした。

「二人とも、幸せになってね。何故なら──」

 泣きあう二人は、ピヨを見つめた。
 死ぬ寸前のピヨは、最後の力を振り絞って言った。

「君たちの笑顔は、眩しいほどに美しいから」
 

 





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