6 / 7
5
しおりを挟む
「灯ちゃんを殺す。私にはそれしかない」
突然の告白。それにピヨは驚きを隠せなかった。
だがそんなこと気にも留めずに日和は続ける。
「止めないでね、ピヨ。私は灯ちゃんを殺さなきゃいけないから」
日和はさっきとは打って変わって、急ぎ足で帰っていこうとした。
すると急に足を止め、ピヨを見た。
「今日は来ないでね。来たら──」
ピヨは動けなかった。今までに無く、動けなかった。
「私、死ぬから」
日和はピヨを睨んだ──と思った。
その目は、何もかも諦めた目だった。
その次の日、日和は消えた。
◆
翌日、日和は学校には来なかった。灯も。
虐めていた方と、虐められていた方。二人が来なかったお陰で、その日、学校でいじめは無かった。
その日の夜。前日と同じような月夜。
学校の校舎裏──そこに、二つの人影があった。
「──やっぱり来た。灯ちゃん……」
一つの人影の主は、日和だった。
日和からは、光が消えていた。
瞳も、髪も。光が消えた、黒い少女。とでも言うのか。
「……お前も来たのね、ゴミくそ女」
もう一つの人影は──そう、灯だった。
睨みつけるような、見下しているような。そんな眼差しで日和を見るが、日和は少し微笑んだだけで、興味は無さそうだった。
「──ごめんね、灯ちゃん」
「え──」
その瞬間、灯の胸に包丁が突き刺さる──。
「ピヨ!?」
そう叫んだのは、日和だった。
灯の胸は、血だらけだった。
だが、その血は灯のものではなかった。
「ピヨ……何故……」
そう、ピヨだ。
ピヨが、灯の胸に飛び込んだのだ。
日和は震えながら、ピヨを抱く。
「……もう、三回目だね。こんな事するの……」
日和よりも何倍か震えるピヨを抱きしめながら、包帯を取り出した。
「包帯……巻かなきゃ……」
「いい!やめて……!」
無理やり包帯を振り払ったピヨの胸からは、血が止まらず出続けている。
「私の、話を、聞いて……」
涙をこらえて、真剣な表情になる。ピヨは弱々しく笑いながら、話し始めた。
「日和……私はやっぱり、日和の約束は守れない……」
いつもよりも細い声に、必死で耳を傾ける。
「『私を殺してほしい』なんて願い……私は守れない……だって……」
すると、ピヨは精一杯の笑顔を見せた。
「君が、幸せになってほしいから……!」
自然に、日和の目から大粒の涙が溢れた。
「……ごめん、ピヨ。『殺してほしい』なんてお願いして。ごめん……」
涙と鼻水をこらえて、日和は続けた。
「無理なお願いして、ごめん……!」
「──それと、灯ちゃん」
ピヨは弱い力で、後ろを向いた。
「私が君を一方的に責めることは出来ない。だから──」
日和は涙を拭う。だが、また涙が出てくる。涙が止まらない。
「決して、自分を責めないように」
しばらく黙ってピヨの話を聞いていた灯が、無意識に呟いた。
「──あれ」
灯は頬を触った。
液体が指に付く。
「なんだ、これ。なんで……」
それは紛れもなく、涙だった。
灯も涙を拭う。だが、また出てくる。涙が止まらない。
「日和!」
呆然としている日和を、ピヨは再び呼び起こした。
「二人とも、幸せになってね。何故なら──」
泣きあう二人は、ピヨを見つめた。
死ぬ寸前のピヨは、最後の力を振り絞って言った。
「君たちの笑顔は、眩しいほどに美しいから」
突然の告白。それにピヨは驚きを隠せなかった。
だがそんなこと気にも留めずに日和は続ける。
「止めないでね、ピヨ。私は灯ちゃんを殺さなきゃいけないから」
日和はさっきとは打って変わって、急ぎ足で帰っていこうとした。
すると急に足を止め、ピヨを見た。
「今日は来ないでね。来たら──」
ピヨは動けなかった。今までに無く、動けなかった。
「私、死ぬから」
日和はピヨを睨んだ──と思った。
その目は、何もかも諦めた目だった。
その次の日、日和は消えた。
◆
翌日、日和は学校には来なかった。灯も。
虐めていた方と、虐められていた方。二人が来なかったお陰で、その日、学校でいじめは無かった。
その日の夜。前日と同じような月夜。
学校の校舎裏──そこに、二つの人影があった。
「──やっぱり来た。灯ちゃん……」
一つの人影の主は、日和だった。
日和からは、光が消えていた。
瞳も、髪も。光が消えた、黒い少女。とでも言うのか。
「……お前も来たのね、ゴミくそ女」
もう一つの人影は──そう、灯だった。
睨みつけるような、見下しているような。そんな眼差しで日和を見るが、日和は少し微笑んだだけで、興味は無さそうだった。
「──ごめんね、灯ちゃん」
「え──」
その瞬間、灯の胸に包丁が突き刺さる──。
「ピヨ!?」
そう叫んだのは、日和だった。
灯の胸は、血だらけだった。
だが、その血は灯のものではなかった。
「ピヨ……何故……」
そう、ピヨだ。
ピヨが、灯の胸に飛び込んだのだ。
日和は震えながら、ピヨを抱く。
「……もう、三回目だね。こんな事するの……」
日和よりも何倍か震えるピヨを抱きしめながら、包帯を取り出した。
「包帯……巻かなきゃ……」
「いい!やめて……!」
無理やり包帯を振り払ったピヨの胸からは、血が止まらず出続けている。
「私の、話を、聞いて……」
涙をこらえて、真剣な表情になる。ピヨは弱々しく笑いながら、話し始めた。
「日和……私はやっぱり、日和の約束は守れない……」
いつもよりも細い声に、必死で耳を傾ける。
「『私を殺してほしい』なんて願い……私は守れない……だって……」
すると、ピヨは精一杯の笑顔を見せた。
「君が、幸せになってほしいから……!」
自然に、日和の目から大粒の涙が溢れた。
「……ごめん、ピヨ。『殺してほしい』なんてお願いして。ごめん……」
涙と鼻水をこらえて、日和は続けた。
「無理なお願いして、ごめん……!」
「──それと、灯ちゃん」
ピヨは弱い力で、後ろを向いた。
「私が君を一方的に責めることは出来ない。だから──」
日和は涙を拭う。だが、また涙が出てくる。涙が止まらない。
「決して、自分を責めないように」
しばらく黙ってピヨの話を聞いていた灯が、無意識に呟いた。
「──あれ」
灯は頬を触った。
液体が指に付く。
「なんだ、これ。なんで……」
それは紛れもなく、涙だった。
灯も涙を拭う。だが、また出てくる。涙が止まらない。
「日和!」
呆然としている日和を、ピヨは再び呼び起こした。
「二人とも、幸せになってね。何故なら──」
泣きあう二人は、ピヨを見つめた。
死ぬ寸前のピヨは、最後の力を振り絞って言った。
「君たちの笑顔は、眩しいほどに美しいから」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる