3 / 7
2
しおりを挟む
「あー、本当に来た。ゴミカス女」
夕日が差して、校舎裏の二人の影を伸ばした。
灯はけらけらと笑いながら、日和に近づいていく。その笑いは、悪意に満ちていた。
結局、ピヨは日和を止められなかった。
日和は素直に、放課後の校舎裏に来てしまったのだ。
「ほんっとにお前って、気色悪いよね」
バシャア。
水が落ちる音。それも、大量の。
バケツに入った大量の泥水が、日和に向かってぶち撒けられた。
日和はいまだ、言葉を発していない。
「生きてるだけで不服なんだよ!」
続けて、灯はバケツで日和を殴る。血が飛び散る。
「いっつも!新規臭い顔して!病原菌持ってんじゃねぇの!?」
バシバシと叩かれる日和。バシバシと叩き続ける灯。そして──それをハラハラしながら見るピヨ。
──自分は何も出来ないんだから、せめて見守るぐらいはしよう。
心臓が飛び出しそうな勢いで、日和は叩かれ続けている。
ふと、急に灯が叩くのを止めた。
「お前は……いつも……いつも……」
ハアハアと息切れしながら、灯は懐を探った。
取り出したのは──釘。
「人様に迷惑かけて、何とも思わないのかよっ!」
強く握られた釘が、日和の胸に向かった。
「や、やめるんだっ!」
日和が刺される──寸前。釘は、真っすぐ日和の胸に向かった──。
そして刺された。
ピヨが。
「っ、はあ!?」
ピヨは日和の胸に飛び込んで、日和を庇った。
「ピヨ……」と小さく呟いて、すぐにピヨを抱きしめた。
一方、灯は。恐怖を覚えたような表情をして、ゆっくりと、足音を鳴らして近づいてくる。
「ねえ、なんなのその声。それに雀って……ふざけてんの?」
「いや」
「いい加減にして。お前が雀に触るだけで動物虐待だから」
「これは」
日和の言葉を遮りながら、灯は釘を持った方の手を振り上げた。
「死ねよ」
勢いよく、手を振り下ろした。
そして釘は、倒れている日和の真横──こめかみのすぐ横に、突き刺さった。
「今日はこのぐらいにしてあげる。先生に怒られるから。でも次は──容赦しないから」
そう言い放って、灯は去っていった。
灯の姿が見えなくなったのを確かめると、ピヨは日和に話しかけた。
「大丈夫!?日和?」
力を失ったように倒れている日和を、ピヨは一生懸命揺さぶる。
しばらくして、日和は小さく口を開いた。
「──大丈夫、だと思う?」
震える声で、答えが返ってくる。
ピヨは羽で顔の泥水と血を拭いた。
喋る力も無くなったように、日和は目を閉じた。
「と、とにかく、早く家に戻ろう!!」
◆
「うーん、うぅ……」
眠そうに、日和は目を開いた。
そこには、雀の姿。
ピヨだ。胸の辺りには、白い包帯が巻かれている。
「ピっ、ピヨ!」
「ああ、動かないでね。怪我酷いんだから……」
差し出した日和の手には、厚く包帯が巻かれていた。
日和は細い足を動かして姿見の前に移動する。
顔は絆創膏だらけで、腕や脚にも包帯が巻かれている。まるで重病人だ。
「これ……誰がやってくれたの?」
「私だよ!」
ピヨは飛び上がる。日和は笑みを浮かべて、「ありがとう」と言った。
「それはそうと、ピヨの怪我は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!傷は浅いし!」
ピヨはふわりと飛んで、段ボール箱の中にピョンっと入った。
「本当にありがとう。ピヨのお陰で助かったよ」
日和はピヨの羽を優しく撫でた。
ピヨは葛藤していた。
この子を、殺したくない。
まだ未来に希望のある少女を。
眩しいほどに美しい笑顔を見せる少女を、殺したくなかった。
だが。
日和は死にたい。だったら、ピヨは──。
(日和……絶対にいつか、日和の願いを叶えるからね!)
ピヨは、この子を絶対に殺すと、決めた。
夕日が差して、校舎裏の二人の影を伸ばした。
灯はけらけらと笑いながら、日和に近づいていく。その笑いは、悪意に満ちていた。
結局、ピヨは日和を止められなかった。
日和は素直に、放課後の校舎裏に来てしまったのだ。
「ほんっとにお前って、気色悪いよね」
バシャア。
水が落ちる音。それも、大量の。
バケツに入った大量の泥水が、日和に向かってぶち撒けられた。
日和はいまだ、言葉を発していない。
「生きてるだけで不服なんだよ!」
続けて、灯はバケツで日和を殴る。血が飛び散る。
「いっつも!新規臭い顔して!病原菌持ってんじゃねぇの!?」
バシバシと叩かれる日和。バシバシと叩き続ける灯。そして──それをハラハラしながら見るピヨ。
──自分は何も出来ないんだから、せめて見守るぐらいはしよう。
心臓が飛び出しそうな勢いで、日和は叩かれ続けている。
ふと、急に灯が叩くのを止めた。
「お前は……いつも……いつも……」
ハアハアと息切れしながら、灯は懐を探った。
取り出したのは──釘。
「人様に迷惑かけて、何とも思わないのかよっ!」
強く握られた釘が、日和の胸に向かった。
「や、やめるんだっ!」
日和が刺される──寸前。釘は、真っすぐ日和の胸に向かった──。
そして刺された。
ピヨが。
「っ、はあ!?」
ピヨは日和の胸に飛び込んで、日和を庇った。
「ピヨ……」と小さく呟いて、すぐにピヨを抱きしめた。
一方、灯は。恐怖を覚えたような表情をして、ゆっくりと、足音を鳴らして近づいてくる。
「ねえ、なんなのその声。それに雀って……ふざけてんの?」
「いや」
「いい加減にして。お前が雀に触るだけで動物虐待だから」
「これは」
日和の言葉を遮りながら、灯は釘を持った方の手を振り上げた。
「死ねよ」
勢いよく、手を振り下ろした。
そして釘は、倒れている日和の真横──こめかみのすぐ横に、突き刺さった。
「今日はこのぐらいにしてあげる。先生に怒られるから。でも次は──容赦しないから」
そう言い放って、灯は去っていった。
灯の姿が見えなくなったのを確かめると、ピヨは日和に話しかけた。
「大丈夫!?日和?」
力を失ったように倒れている日和を、ピヨは一生懸命揺さぶる。
しばらくして、日和は小さく口を開いた。
「──大丈夫、だと思う?」
震える声で、答えが返ってくる。
ピヨは羽で顔の泥水と血を拭いた。
喋る力も無くなったように、日和は目を閉じた。
「と、とにかく、早く家に戻ろう!!」
◆
「うーん、うぅ……」
眠そうに、日和は目を開いた。
そこには、雀の姿。
ピヨだ。胸の辺りには、白い包帯が巻かれている。
「ピっ、ピヨ!」
「ああ、動かないでね。怪我酷いんだから……」
差し出した日和の手には、厚く包帯が巻かれていた。
日和は細い足を動かして姿見の前に移動する。
顔は絆創膏だらけで、腕や脚にも包帯が巻かれている。まるで重病人だ。
「これ……誰がやってくれたの?」
「私だよ!」
ピヨは飛び上がる。日和は笑みを浮かべて、「ありがとう」と言った。
「それはそうと、ピヨの怪我は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ!傷は浅いし!」
ピヨはふわりと飛んで、段ボール箱の中にピョンっと入った。
「本当にありがとう。ピヨのお陰で助かったよ」
日和はピヨの羽を優しく撫でた。
ピヨは葛藤していた。
この子を、殺したくない。
まだ未来に希望のある少女を。
眩しいほどに美しい笑顔を見せる少女を、殺したくなかった。
だが。
日和は死にたい。だったら、ピヨは──。
(日和……絶対にいつか、日和の願いを叶えるからね!)
ピヨは、この子を絶対に殺すと、決めた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる