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第三章 夫の実家に初訪問
35、かんさつ日記~ディートリントのつぶやき~
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かんさつ日記~ディートリントの呟き~
お義姉様は快方に向かっていて、もう数日で街にも行けるくらい元気になる、と聞いたものの私の怒りは収まらない。
パット兄様とイザベル義姉様の一生に一度の大事な結婚式の日に、自分勝手な理由でシルフィアお義姉様を傷つけて風邪を引かせたあの男! 廃嫡されて国境の騎士団の下っ端から鍛え直しだけで済むと思わないでよ。私が成人したら自由に使える権力を手に入れて追い打ちをかけてやるのだから!
昨日、その件でシャルロッテ様があの侯爵家の跡取りになったとわざわざ挨拶にきた。私としては彼女にも思うところはあるのだけど、お義姉様がずっと気にかけていたし大人の対応をしておいた。
彼女はこれから婿探しをするらしく『パトリック様が独身だったらよかったのに』と言われた。反射的に彼女をぶん投げなかった私を大いに褒めたい。
パット兄様といえば今日の午後、早速里帰りしてきた。忘れ物を取りに来たと言っていたけどちょっと寂しくなったんじゃないかしら。
丁度、テオ兄様もお義姉様がぐっすり寝て手が空いたところだったので、兄妹三人でお茶をした。パット兄様にはあの騒動を知らせていないので、お義姉様は旅の疲れ等で熱が出たと説明してある。
「義姉上の具合はどうなの?」
「随分と良くなったよ。最初は熱が高くて心配したけどね。パットは新しい暮らしにもう慣れた?」
「うん、イザベルとずっと一緒にいられるのは最高だよ。もともと行き来の多い家同士だったから馴染みやすかったし。これが全く知らない家だったらさすがの俺も慣れるまで時間がかかったかも。義姉上はすごいよ」
「僕もそう思う」
二人の会話に自分が嫁ぐ先を考える。
私が馴染みやすくて、婚約者がまだいなくて年齢の合う人がいる家。思い浮かばないわね・・・。まあ、急がなくてもいいわ。お義姉様と離れるのも嫌だし、お父様は私の好きにしていいって言ってるから、この家にずっといるのもいいかも。
「テオ兄様みたいな奇跡の出会いがあれば、私も結婚するのに」
うっかり口に出して呟けば、すかさず兄達が反応した。
「奇跡の出会いだろうが、相手が父上よりディーを大事にして、パットより強くないとね」
「それと兄上より賢くないとダメだよ?」
「そんな人、どこにいるのよ?」
「いたらもう君の婚約者にしてるよ」
「なかなかいないよね」
「そんな条件で探してたら、見つかるわけ無いでしょ?! 兄様達には条件なんてなかったのに」
私の結婚相手となったらいつも無茶苦茶なことばかり言う兄達に文句を言えば、二人は顔を見合わせて不敵な笑いを浮かべた。
「「自分が心から愛して相手がそれを受け入れてくれる、が条件」」
声を揃えて言った後、テオ兄様が真顔になってポロリとこぼした。
「だけど、『奇跡の出会い』なんてないと思う」
テオ兄様とお義姉様はそうじゃないの? と私とパット兄様が同じ方向に首を傾げれば、テオ兄様はヒョイッとサンドイッチを摘んで呟いた。
「結局僕は、偶然の出会いを自分の力で引き寄せて『奇跡の出会い』にしたんだよね」
ちょっとだけ後ろめたそうな表情になったテオ兄様はサンドイッチを口に入れた。しばらく喋らないつもりらしい。私は隣のパット兄様の顔を窺う。パット兄様はしばらく考えてから口を開いた。
「偶然の出会いをそのままにしておいたって何も起こらない。相手が欲しければ、その後になんらかの努力をしてこっちを向いてもらわないといけない。その結果が、『奇跡の出会い』と言われてるだけってこと?」
お茶を飲んで小さく頷いたテオ兄様に私とパット兄様は成程と合点した。
要するに、テオ兄様は偶然出会ったお義姉様と結婚するために何か画策したということね。
お義姉様側の話では、兄様はおとぎ話の王子様か騎士のように語られていたけれど、視点が変わるとまた違うわけね。
ということは、例のお義姉様を酷い目に合わせた人達も何かやむにやまれぬ理由が?
・・・いや、ないわね。あの人達は私利私欲に走ってただけだわ。
何をしたかは知らないけれど、お義姉様はテオ兄様に救われたって言ってたし、兄様にしっかり好意をもっている。それがたとえ、兄様の策略によるものでもあの笑顔は心からのものだった。
「お義姉様はテオ兄様の話をする時、とっても幸せそうだったわ。だから、出会いはどうであれ、今、お互いに想い合っているのは奇跡よね」
「シルフィアが、僕の話を幸せそうにしてくれてたの?」
こっくりと頷くとテオ兄様の顔が輝いた。こんなに素直に感情を面に表すなんて、本当にテオ兄様は結婚して変わった。昔では考えられないくらい、子供みたいに無邪気に喜んでいる。
私だって、こんな表情ができるほど愛せる相手と巡り会いたい。そうよ!
「私もテオ兄様みたいに『奇跡の出会い』を作りたいわ。だから、私の結婚条件も『自分が心から愛して相手がそれを受け入れてくれる』にする!」
えっ、それだけじゃ足りないよ?! と不満そうな兄達に向かって私はお母様譲りの笑顔でキッパリと宣言した。
「私だってハーフェルト家の人間だもの!」
お義姉様は快方に向かっていて、もう数日で街にも行けるくらい元気になる、と聞いたものの私の怒りは収まらない。
パット兄様とイザベル義姉様の一生に一度の大事な結婚式の日に、自分勝手な理由でシルフィアお義姉様を傷つけて風邪を引かせたあの男! 廃嫡されて国境の騎士団の下っ端から鍛え直しだけで済むと思わないでよ。私が成人したら自由に使える権力を手に入れて追い打ちをかけてやるのだから!
昨日、その件でシャルロッテ様があの侯爵家の跡取りになったとわざわざ挨拶にきた。私としては彼女にも思うところはあるのだけど、お義姉様がずっと気にかけていたし大人の対応をしておいた。
彼女はこれから婿探しをするらしく『パトリック様が独身だったらよかったのに』と言われた。反射的に彼女をぶん投げなかった私を大いに褒めたい。
パット兄様といえば今日の午後、早速里帰りしてきた。忘れ物を取りに来たと言っていたけどちょっと寂しくなったんじゃないかしら。
丁度、テオ兄様もお義姉様がぐっすり寝て手が空いたところだったので、兄妹三人でお茶をした。パット兄様にはあの騒動を知らせていないので、お義姉様は旅の疲れ等で熱が出たと説明してある。
「義姉上の具合はどうなの?」
「随分と良くなったよ。最初は熱が高くて心配したけどね。パットは新しい暮らしにもう慣れた?」
「うん、イザベルとずっと一緒にいられるのは最高だよ。もともと行き来の多い家同士だったから馴染みやすかったし。これが全く知らない家だったらさすがの俺も慣れるまで時間がかかったかも。義姉上はすごいよ」
「僕もそう思う」
二人の会話に自分が嫁ぐ先を考える。
私が馴染みやすくて、婚約者がまだいなくて年齢の合う人がいる家。思い浮かばないわね・・・。まあ、急がなくてもいいわ。お義姉様と離れるのも嫌だし、お父様は私の好きにしていいって言ってるから、この家にずっといるのもいいかも。
「テオ兄様みたいな奇跡の出会いがあれば、私も結婚するのに」
うっかり口に出して呟けば、すかさず兄達が反応した。
「奇跡の出会いだろうが、相手が父上よりディーを大事にして、パットより強くないとね」
「それと兄上より賢くないとダメだよ?」
「そんな人、どこにいるのよ?」
「いたらもう君の婚約者にしてるよ」
「なかなかいないよね」
「そんな条件で探してたら、見つかるわけ無いでしょ?! 兄様達には条件なんてなかったのに」
私の結婚相手となったらいつも無茶苦茶なことばかり言う兄達に文句を言えば、二人は顔を見合わせて不敵な笑いを浮かべた。
「「自分が心から愛して相手がそれを受け入れてくれる、が条件」」
声を揃えて言った後、テオ兄様が真顔になってポロリとこぼした。
「だけど、『奇跡の出会い』なんてないと思う」
テオ兄様とお義姉様はそうじゃないの? と私とパット兄様が同じ方向に首を傾げれば、テオ兄様はヒョイッとサンドイッチを摘んで呟いた。
「結局僕は、偶然の出会いを自分の力で引き寄せて『奇跡の出会い』にしたんだよね」
ちょっとだけ後ろめたそうな表情になったテオ兄様はサンドイッチを口に入れた。しばらく喋らないつもりらしい。私は隣のパット兄様の顔を窺う。パット兄様はしばらく考えてから口を開いた。
「偶然の出会いをそのままにしておいたって何も起こらない。相手が欲しければ、その後になんらかの努力をしてこっちを向いてもらわないといけない。その結果が、『奇跡の出会い』と言われてるだけってこと?」
お茶を飲んで小さく頷いたテオ兄様に私とパット兄様は成程と合点した。
要するに、テオ兄様は偶然出会ったお義姉様と結婚するために何か画策したということね。
お義姉様側の話では、兄様はおとぎ話の王子様か騎士のように語られていたけれど、視点が変わるとまた違うわけね。
ということは、例のお義姉様を酷い目に合わせた人達も何かやむにやまれぬ理由が?
・・・いや、ないわね。あの人達は私利私欲に走ってただけだわ。
何をしたかは知らないけれど、お義姉様はテオ兄様に救われたって言ってたし、兄様にしっかり好意をもっている。それがたとえ、兄様の策略によるものでもあの笑顔は心からのものだった。
「お義姉様はテオ兄様の話をする時、とっても幸せそうだったわ。だから、出会いはどうであれ、今、お互いに想い合っているのは奇跡よね」
「シルフィアが、僕の話を幸せそうにしてくれてたの?」
こっくりと頷くとテオ兄様の顔が輝いた。こんなに素直に感情を面に表すなんて、本当にテオ兄様は結婚して変わった。昔では考えられないくらい、子供みたいに無邪気に喜んでいる。
私だって、こんな表情ができるほど愛せる相手と巡り会いたい。そうよ!
「私もテオ兄様みたいに『奇跡の出会い』を作りたいわ。だから、私の結婚条件も『自分が心から愛して相手がそれを受け入れてくれる』にする!」
えっ、それだけじゃ足りないよ?! と不満そうな兄達に向かって私はお母様譲りの笑顔でキッパリと宣言した。
「私だってハーフェルト家の人間だもの!」
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