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愛して
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雨上がり。小夜は深い眠りに落ちていた。夢を見ていた。母親が小夜を見ながら微笑んでいる。何も言わずにただ目の前に立っていた。手の届かない先で。
声を出そうとしても出ない。お母さんと思いっきり呼びたいのに、駆け寄って強く抱きしめたいのに。体も動かない。次第に母親は背を向けて遠くへ歩いていってしまった。でも、何故か悲しみは無かった。むしろ暖かくなるような安心が胸の中に広がった。
(ありがとう…お母さん。)
小夜が夢の中でそう言うと、いつの間にか目が覚めていた。目の前には朔也の綺麗な寝顔があった。小夜の不安を包み込むように小夜の左手を強く握った朔也の手。小夜はその手を見て、堪らなく愛しさに襲われ、朔也の手を退けて朔也を強く抱きしめた。
「…ん…起きたのか。」
「うん。」
「どうした?怖い夢でも見たか?」
朔也はそう言うと、小夜の目からこぼれ落ちた涙を手で拭った。小夜はそこで初めて自分が泣いていることに気づいた。
「ううん。朔也くんの夢見てた。」
朔也はほっとした顔をして笑う小夜を見て、自然と笑ってしまった。
「お前、そんなに俺のこと好きなのか。」
「うん。好きだよ。」
「…」
「今もね、夢なんじゃないかって…もしそうなら一生醒めなくてもいいって、思ってる。」
朔也は小夜を強く抱きしめて、理性が飛ぶほどの口づけをした。小夜の吐息を聞きながら、朔也は何度も小夜の至る所を愛でた。
「お前、ムカつく。」
「…ん…あ、、な、んで…んっ」
「可愛すぎるんだよ。」
「きゃっ」
愛してる。そんな言葉なんかでは伝えきれない感情を、衝動を、狂気を…二人はお互いの身に擦り付けあった。
「小夜…」
「朔也くん…」
二人が再び眠りにつき、目覚める頃にはもう日が暮れ始めていた。
~二日後~
小夜は学校の帰り道を久しぶりに会った武流と一緒に歩いていた。普段と何も変わらない武流に言わなければならないことがあるのに、今までの確かに幸せだった時間が小夜の口を塞いでいた。
「その流れで桐ヶ谷を踏み台にして百目鬼の懐に入ろうって魂胆が見え見えでおかしくってさ…」
「…。」
「小夜?どうかしたか。」
ここを逃したら一生、武流に言えない気がした。朔也と再会したこと。朔也を選んだこと。武流の気持ちに応えられないこと。
「あのね、武流。」
小夜は制服の左ポケットに入っていた花のついたネックレスを取り出した。武流はそれを見て足を止めた。
「…武流の気持ちに応えられない。」
「……。」
「ごめんなさい。」
武流は小夜の顔をじっと見つめた。小夜は武流の顔を見れなかった。見たら涙を出してしまいそうで。だが、小夜が泣くのは違う。ぐっと堪えるには俯くしなかった。
「俺さ、待つよ。花野郎がお前の中で思い出になるまで。」
「…。」
「待ってたいんだ、俺が。それもダメか?」
「…会っちゃったの。」
「え?」
「…偶然。ううん、違う!朔也くん、ずっと私のこと思っててくれてた。私、それ知って…。ごめんなさい。」
無理だ。そう思う前に小夜の涙は止まらないほどに流れていた。
「付き合うのか?」
「…うん。」
武流は少し眉間に皺を寄せた後に空を見た。ため息をつこうと開けた口を縛り、もう一度小夜を見つめた。
「分かった。…一ついいか?」
「うん。」
「俺の目を見て、言ってくれ。」
小夜はその言葉でハッとして武流の顔を見た。武流はいつも小夜を真っ直ぐに見てくれていた。今だって、逸らすこと無く。小夜は涙を拭って体ごと武流に向いて、ネックレスを持った左手を差し出しながら、武流の目を見つめた。
「ありがとう。ごめんなさい。」
武流は目を小夜の左手に移すとゆっくりと右手を上げて、小夜にあげたネックレスを受け取った。その後、急に武流は笑顔になって、小夜の頭を左手で突いた。
「痛いっ、何すんのよ!」
「泣くなよ、そんな顔させたくてあげたわけじゃない。」
「……。」
「笑わせたいって思って、好きになったんだ。笑ってくれ。」
「…何よ、それ。」
「また泣くのか?泣き虫。」
「うるさいわね!こんな状況で笑える方がおかしいわよ!」
「それもそうだな。」
二人は自然と笑顔になって、帰り道を歩き始めていた。夕焼けが小夜の頬についた泣き跡を消していく。二人の道は確かに同じ方向に向いていた。時期、場所、立場、何気ない言葉。些細な要素が違っただけ。今この瞬間もこれから一緒になるための一時的な別れかもしれない。そんな希望を持ててしまうことの残酷さが武流をこれからも縛り続けることだろう。
武流は最後の別れ道で小夜に言った。
「まだ諦めたわけじゃねえから。お前が泣いてたら速攻で漬け込んでやるからな!」
小夜はその言葉に返せれる言葉を持っていない。きっとこの世にない。武流に向けるのは笑顔一つでいい。それだけでいい。
武流は失恋の傷を抱えながら、しかし浸る余裕もなく、これからの百目鬼組と桐ヶ谷組のことについて考え始めていた。
ただ一つ、武流の目的は両家の存続なんかじゃない。愛した女を幸せにするために全力を尽くすまでだ。
声を出そうとしても出ない。お母さんと思いっきり呼びたいのに、駆け寄って強く抱きしめたいのに。体も動かない。次第に母親は背を向けて遠くへ歩いていってしまった。でも、何故か悲しみは無かった。むしろ暖かくなるような安心が胸の中に広がった。
(ありがとう…お母さん。)
小夜が夢の中でそう言うと、いつの間にか目が覚めていた。目の前には朔也の綺麗な寝顔があった。小夜の不安を包み込むように小夜の左手を強く握った朔也の手。小夜はその手を見て、堪らなく愛しさに襲われ、朔也の手を退けて朔也を強く抱きしめた。
「…ん…起きたのか。」
「うん。」
「どうした?怖い夢でも見たか?」
朔也はそう言うと、小夜の目からこぼれ落ちた涙を手で拭った。小夜はそこで初めて自分が泣いていることに気づいた。
「ううん。朔也くんの夢見てた。」
朔也はほっとした顔をして笑う小夜を見て、自然と笑ってしまった。
「お前、そんなに俺のこと好きなのか。」
「うん。好きだよ。」
「…」
「今もね、夢なんじゃないかって…もしそうなら一生醒めなくてもいいって、思ってる。」
朔也は小夜を強く抱きしめて、理性が飛ぶほどの口づけをした。小夜の吐息を聞きながら、朔也は何度も小夜の至る所を愛でた。
「お前、ムカつく。」
「…ん…あ、、な、んで…んっ」
「可愛すぎるんだよ。」
「きゃっ」
愛してる。そんな言葉なんかでは伝えきれない感情を、衝動を、狂気を…二人はお互いの身に擦り付けあった。
「小夜…」
「朔也くん…」
二人が再び眠りにつき、目覚める頃にはもう日が暮れ始めていた。
~二日後~
小夜は学校の帰り道を久しぶりに会った武流と一緒に歩いていた。普段と何も変わらない武流に言わなければならないことがあるのに、今までの確かに幸せだった時間が小夜の口を塞いでいた。
「その流れで桐ヶ谷を踏み台にして百目鬼の懐に入ろうって魂胆が見え見えでおかしくってさ…」
「…。」
「小夜?どうかしたか。」
ここを逃したら一生、武流に言えない気がした。朔也と再会したこと。朔也を選んだこと。武流の気持ちに応えられないこと。
「あのね、武流。」
小夜は制服の左ポケットに入っていた花のついたネックレスを取り出した。武流はそれを見て足を止めた。
「…武流の気持ちに応えられない。」
「……。」
「ごめんなさい。」
武流は小夜の顔をじっと見つめた。小夜は武流の顔を見れなかった。見たら涙を出してしまいそうで。だが、小夜が泣くのは違う。ぐっと堪えるには俯くしなかった。
「俺さ、待つよ。花野郎がお前の中で思い出になるまで。」
「…。」
「待ってたいんだ、俺が。それもダメか?」
「…会っちゃったの。」
「え?」
「…偶然。ううん、違う!朔也くん、ずっと私のこと思っててくれてた。私、それ知って…。ごめんなさい。」
無理だ。そう思う前に小夜の涙は止まらないほどに流れていた。
「付き合うのか?」
「…うん。」
武流は少し眉間に皺を寄せた後に空を見た。ため息をつこうと開けた口を縛り、もう一度小夜を見つめた。
「分かった。…一ついいか?」
「うん。」
「俺の目を見て、言ってくれ。」
小夜はその言葉でハッとして武流の顔を見た。武流はいつも小夜を真っ直ぐに見てくれていた。今だって、逸らすこと無く。小夜は涙を拭って体ごと武流に向いて、ネックレスを持った左手を差し出しながら、武流の目を見つめた。
「ありがとう。ごめんなさい。」
武流は目を小夜の左手に移すとゆっくりと右手を上げて、小夜にあげたネックレスを受け取った。その後、急に武流は笑顔になって、小夜の頭を左手で突いた。
「痛いっ、何すんのよ!」
「泣くなよ、そんな顔させたくてあげたわけじゃない。」
「……。」
「笑わせたいって思って、好きになったんだ。笑ってくれ。」
「…何よ、それ。」
「また泣くのか?泣き虫。」
「うるさいわね!こんな状況で笑える方がおかしいわよ!」
「それもそうだな。」
二人は自然と笑顔になって、帰り道を歩き始めていた。夕焼けが小夜の頬についた泣き跡を消していく。二人の道は確かに同じ方向に向いていた。時期、場所、立場、何気ない言葉。些細な要素が違っただけ。今この瞬間もこれから一緒になるための一時的な別れかもしれない。そんな希望を持ててしまうことの残酷さが武流をこれからも縛り続けることだろう。
武流は最後の別れ道で小夜に言った。
「まだ諦めたわけじゃねえから。お前が泣いてたら速攻で漬け込んでやるからな!」
小夜はその言葉に返せれる言葉を持っていない。きっとこの世にない。武流に向けるのは笑顔一つでいい。それだけでいい。
武流は失恋の傷を抱えながら、しかし浸る余裕もなく、これからの百目鬼組と桐ヶ谷組のことについて考え始めていた。
ただ一つ、武流の目的は両家の存続なんかじゃない。愛した女を幸せにするために全力を尽くすまでだ。
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