上 下
10 / 16

4-おばあちゃん子供

しおりを挟む
 目の前に刃物を持った人がいます!それに殺気まで放っている気がします!お巡りさん!

「そちが、この島の主か……」
「そち……その格好をしながら言われるとは……普通着物を着たおばあちゃんが使う二人称でしょ」

 刃先がこちらに向けられています。私が料理に使う包丁と同じくらいの長さだけど……なんか既視感があるんだよな……

「あのー冒険者の方ですか?冒険者の方じゃなくてもいいので刃物をしまっていただけませんかね……」

 私の呼びかけに答えることなく私のほうに近づいてきます。残念ながら杖は家の中に置いたままです。とは言っても杖がなくても簡単な魔法は使えるのでただ刃物を持った少女なら大丈夫だと思うんですが……
 私は近づかれた分だけ離れます。ナイフで刺されそうになるなんて今まで体験したことないのでどうしたらいいか……あ!体験してた!既視感があると思ったら…私、前世ナイフで刺されて死んだんだった。

「そちが、このダンジョンの主か?……」
「ダンジョン?ダンジョンってあのダンジョン?そんなのあるの?」

 ピタッと、ゴスロリおばあちゃん口調少女が止まりました。

「ん?本当にここがあの幻の天空都市か?それにしてはちんけな場所にしか見えんが」

 やかましいわ!勝手にこの田舎中の田舎を都市化するな。

「あの胡散臭い神に頼んだのはやはり間違いだったか。転移したときはもしやと思ったがの」

 胡散臭い神……私の中で一人の顔が思い浮かびました。メルア教と言うくらいだから神として扱われているとは思っていたけど、これってやっぱりメルアさんが願い事を叶え冒険者だ!
 メルアさんこんな人を送ってきたの!?馬鹿なんじゃない?そしてなんで来ないの?

「あのーメルアさんに打の冒険者も辿り着いたことのない幻の天空都市にたどり着きたいって言った人ですよね。私は認めてないけど」
「ん?まさか本当にここが幻の天空都市なのか?」
「認めてはないけど、メルアさんが言うにはそうらしいです。だから私は敵じゃありません!ナイフを下ろしてください……早く下ろせ!」

 いきなりナイフを持って現れる少女なんて危険だ。さっさとメルアさんに返してもらおう。

「と言うことは…そちを倒すことができれば童が世界一の冒険者と言うことか…」

 なんか目が光った気がします。あれは人間じゃない!獲物を狙う野生動物のような目してる!

 というより、メルアさんの話だと足を怪我して冒険者を続けれないっていう話じゃなかった?それで最後の願いを叶えるためにメルアさんはここにこのゴスロリおばあちゃん口調少女を連れてきたんじゃないの?

「あのー足を怪我してたんじゃなかったんですか?普通に歩いてますけど」
「ん?あぁ、そんなことを言っていたな。あんなの嘘に決まっているであろう。そのほうが願いが叶え易いだろうて」

 この少女怖い!あと、メルアさん騙されてたよ!可愛い信者とか言っていた人に騙されてたんだよ!
 泣いているメルアさんを想像すると可哀そうになってくるが今はそんなことは考えている暇がない。この少女、私のことを殺そうとしてる。

「ちと物足りない気がするが、童は冒険者として当然のことをするのみ、そちの首を持ち帰れば、童は実績、称号共に世界一の冒険者になれる」

 怖いですメルアさん!早く来てください!このゴスロリおばあちゃん口調少女、あのナイフで私の首を戦国時代みたいに切り取ろうとしています!

「覚悟しろ!」

 ゴスロリおばあちゃん口調少女が私めがけて突っ込んできます。バリバリに殺意むき出しのままで。流石に私も無抵抗に殺されるわけにはいきません。転生する前に殺された時の二の舞になるわけにはいかないのです。もうちょっとこの生活を続けたいから。

「そこら辺の草!あのゴスロリ少女の足に絡み付け!」

 私は魔法の詠唱をします。え?魔法の詠唱ぽくないって?大丈夫です。私は教科書通りの詠唱をしなくてもこの程度の魔法くらいなら操ることが出来ます。実際、私の言う通りにゴスロリ少女の近くにある草木が意志を持ったように伸びて足に絡みつきゴスロリ少女を転ばせました。
 狙い通りでしたが顔面から地面に叩きつけられ体勢で起こした顔には血が付いています。痛そうだし、ちょっと可哀そう。

「な、何をする!」

 これでもゴスロリババア少女は諦めません。必死に抵抗して、全然私に届かない距離なのにナイフをブンブン振るっています。空を切るとはこういうことを言うんですね。勉強になります。
 私は近くにある川から水を集めて少女の唇を塞ぐ程度の玉を作りました。その球を少女の口に押し当てます。これで口からは息が出来ないはず。

「ブ…ボボボブバビブボバ」

 やはり息が出来ないようです!私の作戦がうまくはまりました。私って実は策士なんでしょうか?またしてもナイフが空を切っています。

「ゴクン…何をするんだ!もう少しで死ぬとこだったぞ…この水美味いな…」
「ん?…ああ!水飲まれちゃった」

 顔を覆うほどの水だと息が出来なくて死んでしまうので、鼻から呼吸が出来るように口だけ塞いだのが仇となりました。あのくらいの水量ならば飲まれてしまいます。
 あのゴスロリ少女やるな…意外と策士か

「この縄をほどけ!そちを殺して私は大金を手に入れるんだ!」

 大金?聞き捨てならないことを聞いてしまいました。何故私を殺すと大金が手に入るんでしょう?私の体を剥ぎ取るといい素材になるんでしょうか?そんなゲームをやっていた気がします。その時はモンスターだったけど。

「何故私を殺すと大金が手に入るの?」

 私は少女に近づき質問します。上から見下すのも失礼かと一応膝を曲げています。ナイフが当たる気配のないくらいの距離で。

「ここは幻の天空都市……その主であるそちには莫大の懸賞金が掛けられているのだ!」
「え?何もしてないのに私賞金首になってたの?」

 そりゃ私の首を持ち帰りたいのも分かります。でも私の首を持ち帰っても賞金首の首には見えない気がするんですけど。
 こんな可憐な賞金首がいるでしょうか?あ、可憐って言うのは客観的な話なので私がそう思っているわけではないですよ。
 
 私はこの島のことも、自分自身のことも全然分かっていないようです。
 このゴスロリ少女から詳しい話を聞きた方がいいね。

「ほらこっちに来なさい!」
「な、何をする!そちを誰だと思っているんだ!」
「誰とも思っていないから」

 私は犯人を連行する警察のように、ゴスロリ少女を縄で結ぶと、ランチ用に準備していたテーブルまで移動させ、椅子に括りつけます。

「やめろ!童をどうするつもりだ!焼くのか?煮るのか?生は美味しくないぞ!」

 火を入れたら美味しいのでしょうか?でも私にそんな趣味はありません。ナイフもちゃんと取り上げ、
縄でぐるぐる巻きしているので私の身の安全は保障されています。
 これですべての準備が整いました。

「あなたには黙秘権がありません。偽りを述べることは許されず、事実を包み隠さずに話しなさい。そうしなければ……」
「そうしなければなんだ!?」
「あなたをこの島から落とします」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

気がついたら異世界に転生していた。

みみっく
ファンタジー
社畜として会社に愛されこき使われ日々のストレスとムリが原因で深夜の休憩中に死んでしまい。 気がついたら異世界に転生していた。 普通に愛情を受けて育てられ、普通に育ち屋敷を抜け出して子供達が集まる広場へ遊びに行くと自分の異常な身体能力に気が付き始めた・・・ 冒険がメインでは無く、冒険とほのぼのとした感じの日常と恋愛を書いていけたらと思って書いています。 戦闘もありますが少しだけです。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...