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わざわざ

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「あ……」

 まだ午後からは他の部が練習するため施錠はしないで男バス側を確認して体育館から出ると、反対から出ていたらしい菊川先輩と一緒になった。

「お疲れ」
「お、お疲れ様です」

 言われて慌てて頭を下げる。
 お互い向かう先は部室棟なのもあって微妙な距離のまま歩くその間、特に会話も見つけられなかった。
 それは先輩もなのか、俯いて歩いていた先輩が前を見つめてフーッと息を吐く。

「……あの二人のこと……聞いた?」
「はい?」

 先輩の方を見下ろしてみても先輩はこっちを見ない。

「初詣行ったみたいよ」
「あぁ……みたいですね」

 俺も前を向いてそっと言葉を押し出した。
 本当にもうフリとは思えないほどどんどん距離を近づけているセイ先輩と三木先輩。
 周りも付き合っている、どころかもう公認のイチャラブカップル認定なくらいだ。
 それを菊川先輩はどう思っているのか。

「言ってあげた方がいいのかなぁ?」
「フリは止めてちゃんと付き合えってですか?」

 頷く先輩にため息しか出ない。

「傷つきません?」
「……だから、慰めてくれる?」

 足を止めてやっとこっちを見上げる先輩。
 その寄せられた眉を何とかしてあげたかった。

「ならあのケーキ奢りますよ!」
「やったっ!」

 本当ならわざわざ辛い思いなんてさせたくないが、それが先輩にとって一つの区切りなら……俺はその後を全力でフォローするだけだ。
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