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言わずにいられない

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 ふかふかで中もしっとりとしたそのパンは口に入れてもしっかり小麦を感じられるし、フルーツの甘みや酸味が際立ったそれぞれのジャムともよく合う。

「いかがですか?」

 ここの領主らしいが、話し掛けてくる男は鬱陶しくて正直顔も見たくない。

「このパンを作ったのは?」

 エミリオに聞くと、エミリオがその領主に確認をした。

「スイーム!」

 すぐに領主が呼ぶと、遠目で見ていたエプロンの奴らが同じ方を向く。
 だが、誰も出て来ることはなかった。

「こら!サライド様がお呼びだろっ!!」

 領主が大股でそっちに行くと、不安そうに何人かは目配せをする。
 それでも領主はグッと手を伸ばしてある男の腕を掴んで無理矢理引っ張ってきた。
 オドオドしたそいつは癖のある茶色の前髪で目も隠れていて表情は見えない。

「こら!シャンとしろ!」

 領主が背中を叩くと、それだけで男はヨロヨロとバランスを崩した。

「大丈夫ですか?」

 それを素早く駆け寄ったエミリオが支えて、領主はゴホンと居心地悪そうに咳払いをする。

「大丈夫ですよ。サライド様はこのパンがお気に召しただけなので」

 優しく微笑むエミリオにやっと男は少し頷いた。

「このパンを俺が今回持ってきた小麦で作れるか?」

 俺も仕方なく慎重に言葉を選ぶ。だが、

「あ、あの小麦だけで……でしょう、か?」

 声が小さく掠れている上にビクつきながら話されて全く聞き取ることができなかった。
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