3 / 90
一章 結成!自警団
3話 小さな仲間
しおりを挟む
「何もいないな……」
ニールは周りを見回した。森のそれなりに奥まったところまで来たはずだが、魔物らしき姿は見えない。
「ぜったいにいるはずだ。何人も魔物を見たって言ってたからな」
長い距離を歩いてきたが、アロンは疲れたなど不満を零すことはない。それはニールにとってはありがたいことだった。
「そういえば、どんな魔物なんだ?」
「木みたいなやつだったらしいぞ」
「木か……。見つけるのは難しそうだな」
周辺は見渡す限り木ばかりだ。もしも隠れるのが上手い魔物なら探すのは至難の業だろう。もしかしたら今の時点で、気づかずに通り過ぎているかもしれない。
「参ったな。これじゃどこにいるのか全く分からないよ」
「おれはまだまだ探すぞ。ニール、大人なんだからもっとがんばれよな」
「元気だなアロンは……」
そうして歩いているうちに、二人は開けた場所に出た。中央にニールの背丈と同じくらいの太い木が一本生えている。幹には蔦が幾重にも絡みついていて、その周りには数本の倒木があった。どれも朽ちかけている。
「ちょっと疲れたな。ここで休も」
アロンが中央の木の幹に背を預けて座り込んだ。ニールも木に近づいてアロンと同じように座ろうとしたところで、あることに気づいた。
「ん……?」
幹の表面が、かすかにだが波打っている。まるで呼吸をしているかのようだ。そのように動く木など見たことも聞いたこともない。そもそも周りの木が枯れているのに、なぜこの木だけ真っすぐ立っているのだろう。
――まさか
「アロン、危ない!」
「え?」
ニールはアロンの腕を引っ張って立たせ、さっと後ろに飛びのいた。
それと同時に木が大きく跳ねた。太い根が地面の上にむき出しになり、まるで足のようになっている。幹の中央に、ぎょろりとした大きな目がひとつ現れた。赤い瞳がニールとアロンを見据えている。
「こいつが魔物だ!」
アロンが叫んだ。ニールが前に出て剣を抜く。その瞬間、木の魔物の体に巻き付いていた蔦がほどけ、二人の方に伸びてきた。蔦はアロンの前に立ったニールの剣の刃に絡みつき、そのまま強い力で引っ張ってくる。
ニールは予備で持っていた短剣を取り出し、蔦を切った。剣を取られることは免れたが魔物はひるむ様子を見せない。蔦の長さはあっという間に元に戻り、鞭のようにしなった。
「アロン、あれに捕まっちゃ駄目だ!」
蔦の一本一本は細いが、集まった状態のものに叩かれればかなり痛手になる。更に切っても再生してしまう。もし体に巻き付かれたら、強い力で押さえられて何をされるか分からない。
ニールもアロンも、魔物の蔦をよけるばかりになっていた。なかなか隙がなくニールが斬りこんでいくこともできない。魔物の動作は遅いが、根がうねって体の向きを変え適格に攻撃を繰り出してくる。このままではニールたちの体力が尽きてしまう。
「アロン!」
ニールは、おろおろと魔物の一撃から逃げるアロンに呼びかけた。
「俺があいつの気を引く! その隙に、目を狙って矢をうつんだ!」
今この状況で頼りになるのは、アロンのクロスボウだ。彼が矢をつがえ狙って射るまでの時間をニールが稼ぐしかない。
「わかった!」
アロンが答えた。
ニールは魔物の前に躍り出た。
「俺はここだぞ!」
声の限り叫ぶ。魔物の不気味な一つ目がニールを睨んだ。
ニールはできるだけその場を動かないようにしながら、蔦の攻撃をさばき続けた。魔物が体の向きを変えてしまっては、アロンが狙いをつけにくくなる。
動き回るニールに痺れを切らした魔物が、蔦を大きく振り上げた。
その蔦がニールに向かう前に、アロンが放った矢が、魔物の目に突き刺さった。魔物が鋭い叫びを上げる。立て続けにもう一本、また一本と矢が魔物の目を射抜いた。
隙をつき、ニールは魔物に突っ込んでいった。剣を振り上げ、その目に向かって斬りつける。
魔物の断末魔が響き、幹を支えていた根が力なく崩れた。まもなくその体も周りの倒木と同じく、地面にその身を横たえた。
「やった……のか?」
クロスボウを抱えたアロンが、ニールの方に近寄ってきた。
魔物は起き上がる様子を見せず、表皮ももう波打ってはいない。
「……ああ。俺たちが勝った」
「やったあああぁぁぁ!」
アロンは大喜びで、子ウサギのようにぴょんぴょんと跳ねた。
「魔物をやっつけたぞー!」
「アロンが頑張ってくれたおかげだな」
ニールが言うと、アロンは自慢げに胸をそらした。
「そうだ。おれががんばったからだ……でも、ニールも役にたったと思うぞ」
「はは。ありがとう。さぁ帰ろう」
ニールが森に入ってから時間が経っている。アロンの家族はかなり心配しているはずだ。ニールはアロンを連れて、来た道を戻り始めた。
***
「ニールは、何をしてる人なんだ?」
帰る道すがら、ニールの隣を歩くアロンが尋ねてきた。
「うーん、何て言えばいいだろうな……実は俺、別の村から、騎士になるために王都まで来たんだ。でも、騎士にはなれなかった」
「なんで?」
「騎士は、誰でもなれるわけじゃなかった。ちゃんとした家に生まれないと、騎士団に入ることは認められない。けど、魔物に困っているのに助けてもらえない人がいることが分かったんだ。だからその人たちの力になるために色々なところを見て回ってる」
まだ大したことは何もできていないが、今日、森に巣くう魔物を退治しこの村の助けにはなれただろう。
「ふーん……」
理解したのかしていないのかアロンはそれ以上追及してくることはなく、黙ってニールと一緒に歩き続けた。
***
「ただいまー!」
「クルトさん、戻ったよ」
アロンの家にはクルトとその妻、そして四人の子供たちが一堂に会していた。子供たちはおそらくアロンの兄弟姉妹だろう。
「アロン!」
アロンの家族が一斉に、行方知れずだった少年のもとに駆け寄ってきた。
「アロン、無事でよかったわ……」
「いったいどういうつもりなんだ! 一人で勝手に森へ行くなんて……」
「父さん、おれ、魔物をやっつけたんだ! 木みたいなやつがさ、蔦をひゅーんって伸ばしてきて、でもおれが目をねらってさ、そしたら魔物がたおれた!」
涙を浮かべる母と、自分を叱る父など意にも介せず、アロンは先ほどのことを嬉々として語った。
「……どういうことだ?」
戸惑うクルトが、説明を求めるようにニールの方を見た。
「森の中で、魔物に遭ったんだ。それで、アロンと二人で戦ってたら遅くなってしまった。ごめん」
「だから、もう心配はいらないんだぞ!」
「そうか……ニール、息子のことも、魔物のこともありがとう」
「お礼にするには足りないけれど……良ければ食事をどうかしら?」
クルトの妻が提案してくれた。今はすっかり昼だ。ニールの腹の虫が空腹を訴えていた。
「いいのか? じゃあ、是非とも」
***
クルトの妻手製の料理を食べ、ニールは玄関に立った。
「どうもご馳走様でした」
「礼には及ばないよ。こちらこそ、本当に色々とありがとう」
クルトが言い、アロンの肩に手を置いた。
「アロン、ニールにお礼を言うんだ」
アロンは何も言わなかった。先ほどから彼は妙に静かだ。食事は残さず食べていたので体調が悪いわけではなさそうだが、家に帰ってきているのに今もクロスボウを大事そうに抱えている。
短い間とはいえ共に冒険をしたニールと別れるのが寂しいのかもしれない。やんちゃだが勇気のある少年のことをニールもすっかり気に入っていたので、懐かれるのは素直に嬉しい。ニールはアロンに笑いかけた。
「じゃあな、アロン。また会おう」
「……やだ」
アロンは呟くように言うとニールの隣に立ち、家族と向かい合った。
「おれ、ニールについて行く!」
「ええっ!?」
アロンの両親とニールが、同時に声をあげた。
「何を言ってるんだアロン!」
「ニールと一緒に行けば、おれは英雄になれる! 誰からもすごいって言われる英雄になってもどってくる!」
「わがままを言って、ニールさんを困らせては駄目よ!」
両親の言うことにアロンは耳を貸さなかった。兄弟たちは顔を見合わせて、事の成り行きを見守っている。
「ニールさんからも言ってやってください。ついて来られても迷惑だって」
「え、ええと……」
ニールは戸惑いながら隣に立つアロンを見た。帰り道で話した、自分のしていることに対し何か感じ入るものがあったのだろうか。
アロンは魔物を目の前にしても少しも怖がらなかった。逃げずに立ち向かい、疲れたとも言わず最後まで自分の足で歩いて帰ってきた。見た目よりもずっと強い少年だというのが、正直なニールの気持ちだった。
アロンはまだ九歳だ。彼を連れていくならば、ニールはその命に責任を持たなければいけない。それでも、故郷から遠く離れた地で自分の意志に賛同してくれる人物に出会えたことが嬉しかった。たとえそれが小さな少年だったとしても。
「……あの」
ニールは口を開いた。
「俺はしばらく王都にいるから、もしアロンが帰りたいって思ったらここにはすぐに来れる」
「えっ……」
アロンの両親はそろって目を丸くした。
「もしクルトさんと奥さんが許してくれるならだけど……アロンが一緒に来てくれたら俺は嬉しいなって」
「な、父さん母さん、おれ、行っていいだろ?」
「ねえ、あなた……」
困り果てた様子で、アロンの母は夫の顔を見た。
クルトはしばらく目を伏せて考え込んだ後、顔を上げた。
「すまないが、息子に付き合ってやってくれるか。体だけは丈夫なやつだ」
「父さん!」
アロンの顔がぱっと輝いた。
「もしアロンが迷惑をかけるようなら、その時は引きずってでもここに連れ帰ってきてくれ」
「ああ、分かった」
「やったやったー!」
アロンはその場で小躍りしている。
「おれ、すごい英雄になって帰ってくるからな!」
「……アロン、気を付けてね」
「じゃあ、行ってきまーす! ニール、早く行くぞ!」
母親の心配を知ってか知らずか、アロンは元気に家を飛び出した。
「アロン、一人で勝手に行くなって!」
初めてできた仲間は、小さくてとても賑やかだ。
アロンの家族に別れを告げ、ニールも彼の後を追って走った。
ニールは周りを見回した。森のそれなりに奥まったところまで来たはずだが、魔物らしき姿は見えない。
「ぜったいにいるはずだ。何人も魔物を見たって言ってたからな」
長い距離を歩いてきたが、アロンは疲れたなど不満を零すことはない。それはニールにとってはありがたいことだった。
「そういえば、どんな魔物なんだ?」
「木みたいなやつだったらしいぞ」
「木か……。見つけるのは難しそうだな」
周辺は見渡す限り木ばかりだ。もしも隠れるのが上手い魔物なら探すのは至難の業だろう。もしかしたら今の時点で、気づかずに通り過ぎているかもしれない。
「参ったな。これじゃどこにいるのか全く分からないよ」
「おれはまだまだ探すぞ。ニール、大人なんだからもっとがんばれよな」
「元気だなアロンは……」
そうして歩いているうちに、二人は開けた場所に出た。中央にニールの背丈と同じくらいの太い木が一本生えている。幹には蔦が幾重にも絡みついていて、その周りには数本の倒木があった。どれも朽ちかけている。
「ちょっと疲れたな。ここで休も」
アロンが中央の木の幹に背を預けて座り込んだ。ニールも木に近づいてアロンと同じように座ろうとしたところで、あることに気づいた。
「ん……?」
幹の表面が、かすかにだが波打っている。まるで呼吸をしているかのようだ。そのように動く木など見たことも聞いたこともない。そもそも周りの木が枯れているのに、なぜこの木だけ真っすぐ立っているのだろう。
――まさか
「アロン、危ない!」
「え?」
ニールはアロンの腕を引っ張って立たせ、さっと後ろに飛びのいた。
それと同時に木が大きく跳ねた。太い根が地面の上にむき出しになり、まるで足のようになっている。幹の中央に、ぎょろりとした大きな目がひとつ現れた。赤い瞳がニールとアロンを見据えている。
「こいつが魔物だ!」
アロンが叫んだ。ニールが前に出て剣を抜く。その瞬間、木の魔物の体に巻き付いていた蔦がほどけ、二人の方に伸びてきた。蔦はアロンの前に立ったニールの剣の刃に絡みつき、そのまま強い力で引っ張ってくる。
ニールは予備で持っていた短剣を取り出し、蔦を切った。剣を取られることは免れたが魔物はひるむ様子を見せない。蔦の長さはあっという間に元に戻り、鞭のようにしなった。
「アロン、あれに捕まっちゃ駄目だ!」
蔦の一本一本は細いが、集まった状態のものに叩かれればかなり痛手になる。更に切っても再生してしまう。もし体に巻き付かれたら、強い力で押さえられて何をされるか分からない。
ニールもアロンも、魔物の蔦をよけるばかりになっていた。なかなか隙がなくニールが斬りこんでいくこともできない。魔物の動作は遅いが、根がうねって体の向きを変え適格に攻撃を繰り出してくる。このままではニールたちの体力が尽きてしまう。
「アロン!」
ニールは、おろおろと魔物の一撃から逃げるアロンに呼びかけた。
「俺があいつの気を引く! その隙に、目を狙って矢をうつんだ!」
今この状況で頼りになるのは、アロンのクロスボウだ。彼が矢をつがえ狙って射るまでの時間をニールが稼ぐしかない。
「わかった!」
アロンが答えた。
ニールは魔物の前に躍り出た。
「俺はここだぞ!」
声の限り叫ぶ。魔物の不気味な一つ目がニールを睨んだ。
ニールはできるだけその場を動かないようにしながら、蔦の攻撃をさばき続けた。魔物が体の向きを変えてしまっては、アロンが狙いをつけにくくなる。
動き回るニールに痺れを切らした魔物が、蔦を大きく振り上げた。
その蔦がニールに向かう前に、アロンが放った矢が、魔物の目に突き刺さった。魔物が鋭い叫びを上げる。立て続けにもう一本、また一本と矢が魔物の目を射抜いた。
隙をつき、ニールは魔物に突っ込んでいった。剣を振り上げ、その目に向かって斬りつける。
魔物の断末魔が響き、幹を支えていた根が力なく崩れた。まもなくその体も周りの倒木と同じく、地面にその身を横たえた。
「やった……のか?」
クロスボウを抱えたアロンが、ニールの方に近寄ってきた。
魔物は起き上がる様子を見せず、表皮ももう波打ってはいない。
「……ああ。俺たちが勝った」
「やったあああぁぁぁ!」
アロンは大喜びで、子ウサギのようにぴょんぴょんと跳ねた。
「魔物をやっつけたぞー!」
「アロンが頑張ってくれたおかげだな」
ニールが言うと、アロンは自慢げに胸をそらした。
「そうだ。おれががんばったからだ……でも、ニールも役にたったと思うぞ」
「はは。ありがとう。さぁ帰ろう」
ニールが森に入ってから時間が経っている。アロンの家族はかなり心配しているはずだ。ニールはアロンを連れて、来た道を戻り始めた。
***
「ニールは、何をしてる人なんだ?」
帰る道すがら、ニールの隣を歩くアロンが尋ねてきた。
「うーん、何て言えばいいだろうな……実は俺、別の村から、騎士になるために王都まで来たんだ。でも、騎士にはなれなかった」
「なんで?」
「騎士は、誰でもなれるわけじゃなかった。ちゃんとした家に生まれないと、騎士団に入ることは認められない。けど、魔物に困っているのに助けてもらえない人がいることが分かったんだ。だからその人たちの力になるために色々なところを見て回ってる」
まだ大したことは何もできていないが、今日、森に巣くう魔物を退治しこの村の助けにはなれただろう。
「ふーん……」
理解したのかしていないのかアロンはそれ以上追及してくることはなく、黙ってニールと一緒に歩き続けた。
***
「ただいまー!」
「クルトさん、戻ったよ」
アロンの家にはクルトとその妻、そして四人の子供たちが一堂に会していた。子供たちはおそらくアロンの兄弟姉妹だろう。
「アロン!」
アロンの家族が一斉に、行方知れずだった少年のもとに駆け寄ってきた。
「アロン、無事でよかったわ……」
「いったいどういうつもりなんだ! 一人で勝手に森へ行くなんて……」
「父さん、おれ、魔物をやっつけたんだ! 木みたいなやつがさ、蔦をひゅーんって伸ばしてきて、でもおれが目をねらってさ、そしたら魔物がたおれた!」
涙を浮かべる母と、自分を叱る父など意にも介せず、アロンは先ほどのことを嬉々として語った。
「……どういうことだ?」
戸惑うクルトが、説明を求めるようにニールの方を見た。
「森の中で、魔物に遭ったんだ。それで、アロンと二人で戦ってたら遅くなってしまった。ごめん」
「だから、もう心配はいらないんだぞ!」
「そうか……ニール、息子のことも、魔物のこともありがとう」
「お礼にするには足りないけれど……良ければ食事をどうかしら?」
クルトの妻が提案してくれた。今はすっかり昼だ。ニールの腹の虫が空腹を訴えていた。
「いいのか? じゃあ、是非とも」
***
クルトの妻手製の料理を食べ、ニールは玄関に立った。
「どうもご馳走様でした」
「礼には及ばないよ。こちらこそ、本当に色々とありがとう」
クルトが言い、アロンの肩に手を置いた。
「アロン、ニールにお礼を言うんだ」
アロンは何も言わなかった。先ほどから彼は妙に静かだ。食事は残さず食べていたので体調が悪いわけではなさそうだが、家に帰ってきているのに今もクロスボウを大事そうに抱えている。
短い間とはいえ共に冒険をしたニールと別れるのが寂しいのかもしれない。やんちゃだが勇気のある少年のことをニールもすっかり気に入っていたので、懐かれるのは素直に嬉しい。ニールはアロンに笑いかけた。
「じゃあな、アロン。また会おう」
「……やだ」
アロンは呟くように言うとニールの隣に立ち、家族と向かい合った。
「おれ、ニールについて行く!」
「ええっ!?」
アロンの両親とニールが、同時に声をあげた。
「何を言ってるんだアロン!」
「ニールと一緒に行けば、おれは英雄になれる! 誰からもすごいって言われる英雄になってもどってくる!」
「わがままを言って、ニールさんを困らせては駄目よ!」
両親の言うことにアロンは耳を貸さなかった。兄弟たちは顔を見合わせて、事の成り行きを見守っている。
「ニールさんからも言ってやってください。ついて来られても迷惑だって」
「え、ええと……」
ニールは戸惑いながら隣に立つアロンを見た。帰り道で話した、自分のしていることに対し何か感じ入るものがあったのだろうか。
アロンは魔物を目の前にしても少しも怖がらなかった。逃げずに立ち向かい、疲れたとも言わず最後まで自分の足で歩いて帰ってきた。見た目よりもずっと強い少年だというのが、正直なニールの気持ちだった。
アロンはまだ九歳だ。彼を連れていくならば、ニールはその命に責任を持たなければいけない。それでも、故郷から遠く離れた地で自分の意志に賛同してくれる人物に出会えたことが嬉しかった。たとえそれが小さな少年だったとしても。
「……あの」
ニールは口を開いた。
「俺はしばらく王都にいるから、もしアロンが帰りたいって思ったらここにはすぐに来れる」
「えっ……」
アロンの両親はそろって目を丸くした。
「もしクルトさんと奥さんが許してくれるならだけど……アロンが一緒に来てくれたら俺は嬉しいなって」
「な、父さん母さん、おれ、行っていいだろ?」
「ねえ、あなた……」
困り果てた様子で、アロンの母は夫の顔を見た。
クルトはしばらく目を伏せて考え込んだ後、顔を上げた。
「すまないが、息子に付き合ってやってくれるか。体だけは丈夫なやつだ」
「父さん!」
アロンの顔がぱっと輝いた。
「もしアロンが迷惑をかけるようなら、その時は引きずってでもここに連れ帰ってきてくれ」
「ああ、分かった」
「やったやったー!」
アロンはその場で小躍りしている。
「おれ、すごい英雄になって帰ってくるからな!」
「……アロン、気を付けてね」
「じゃあ、行ってきまーす! ニール、早く行くぞ!」
母親の心配を知ってか知らずか、アロンは元気に家を飛び出した。
「アロン、一人で勝手に行くなって!」
初めてできた仲間は、小さくてとても賑やかだ。
アロンの家族に別れを告げ、ニールも彼の後を追って走った。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
Fragment-memory of future-Ⅱ
黒乃
ファンタジー
小説内容の無断転載・無断使用・自作発言厳禁
Repost is prohibited.
무단 전하 금지
禁止擅自转载
W主人公で繰り広げられる冒険譚のような、一昔前のRPGを彷彿させるようなストーリーになります。
バトル要素あり。BL要素あります。苦手な方はご注意を。
今作は前作『Fragment-memory of future-』の二部作目になります。
カクヨム・ノベルアップ+でも投稿しています
Copyright 2019 黒乃
******
主人公のレイが女神の巫女として覚醒してから2年の月日が経った。
主人公のエイリークが仲間を取り戻してから2年の月日が経った。
平和かと思われていた世界。
しかし裏では確実に不穏な影が蠢いていた。
彼らに訪れる新たな脅威とは──?
──それは過去から未来へ紡ぐ物語
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ダンジョン発生から20年。いきなり玄関の前でゴブリンに遭遇してフリーズ中←今ココ
高遠まもる
ファンタジー
カクヨム、なろうにも掲載中。
タイトルまんまの状況から始まる現代ファンタジーです。
ダンジョンが有る状況に慣れてしまった現代社会にある日、異変が……。
本編完結済み。
外伝、後日譚はカクヨムに載せていく予定です。
最強執事の恩返し~大魔王を倒して100年ぶりに戻ってきたら世話になっていた侯爵家が没落していました。恩返しのため復興させます~
榊与一
ファンタジー
異世界転生した日本人、大和猛(やまとたける)。
彼は異世界エデンで、コーガス侯爵家によって拾われタケル・コーガスとして育てられる。
それまでの孤独な人生で何も持つ事の出来なかった彼にとって、コーガス家は生まれて初めて手に入れた家であり家族だった。
その家を守るために転生時のチート能力で魔王を退け。
そしてその裏にいる大魔王を倒すため、タケルは魔界に乗り込んだ。
――それから100年。
遂にタケルは大魔王を討伐する事に成功する。
そして彼はエデンへと帰還した。
「さあ、帰ろう」
だが余りに時間が立ちすぎていた為に、タケルの事を覚えている者はいない。
それでも彼は満足していた。
何故なら、コーガス家を守れたからだ。
そう思っていたのだが……
「コーガス家が没落!?そんな馬鹿な!?」
これは世界を救った勇者が、かつて自分を拾い温かく育ててくれた没落した侯爵家をチートな能力で再興させる物語である。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる