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第一章

第8話:カラステータス

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 神格上昇レベルアップ。 端的に表せば神としての力が皮を剥いたように一段階上がること。
 有名な神が起こせば、もう国を挙げての大騒ぎになるようなことだ。
 魔物を数匹倒しただけなのに、いや、リロは神格《レベル》の低い神なのでその分だけ神格《レベル》も上がりやすいのだろう。

「えと、おめでとうッス?」
「うん、ありがとう?」

 喜ぶべきことなのだが、どうにも素直に喜べないというか、神格《レベル》が上がったところでどうしたらいいのか分からない。

「とりあえず……街に戻って、これを売ったあとに樹の神……ロム爺さんとこの神殿にでも言ってみるか」
「レベルあがっても、どうしたらいいか分からないもんね」

 その通りである。 神様と一緒に過ごすことも初めてなので仕方ないだろう。
 こうやるべきことが多いと、さっきの商人との割安でもいいから商人に売るという約束がありがたくなる。
 売る手間が省けて、普通よりも手っ取り早い。

「とりあえず、重さとか毛並みは変わってないッスね」
「せくはら」

 咎められた。 いや、カラス形態ならそんなに気にしなくても、と思うがリロからするとこっちの方がメインか。
 少し恥ずかしそうな声が可愛らしく、変な気持ちになるが、現在はカラスなので如何ともしがたい。少女の姿になってくれたら襲えるのに。 襲わないけど。

 街に戻って、商人の店に寄って店の裏に魔物の死体を置いていく。 血の匂いとかすごいが、まぁ気にしないでおこう。

「神殿何処っすかねー。 誰かに聞いた方がいいッスかね?」
「ん、時間もあるなら、おさんぽしたいな」

 「お話しながら」とリロに言われる。 リロの声は俺にしか聞こえないので、変な奴と思われそうだ。

「レイヴくんは、なんで神の声が聞こえるの?」
「生まれつきッスよ。 まぁ理由を付けるならリロの声を聞くためッスかね」
「……ちゃらい」

 決まったと思ったが、リロには不評のようだ。 近所のおっさんに習った決め台詞だったのだけど。
 やはりおっさんは信用に値しないか。 あのおっさんはもてそうにないし。

「まぁ、それは冗談にしても、リロと気軽に話せるってのはありがたい特技ッスよ」
「んぅ……私も、そう思う」

 竹刀の音が聞こえ、リロが翼をバサリと動かした。
 目を凝らして見れば、遠くに刃の神の道場が見える。

「とりあえず避けるッスか」
「うん」

 リロと意見が一致し、踵を返して街を巡る。 そろそろ腹も減ってきて、リロも言葉には出さないが甘いものを食べたくなる頃だろう。
 軽く話しながらだけれど、そろそろ商人のところに戻り金を受け取ってすいーとるーむを探すのを始めた方がいい時間かもしれない。
 いい匂いがしている屋台を通り過ぎ、水の神の神殿が遠くに見えた。

「うーん、見つからないッスし、そろそろ聞いた方がいいかもしれないッスね」

 丁度聞けるところがあることだし、水の神アオイは優しいので、無礼を働いたけど許してくれるだろう。
 そんな思惑で入ろうとするが……。

「人、おおいね」
「あー、聖女様の影響かもしれないッスねー」

 仕方ないので、そこらの通行人に樹の神殿の場所を尋ねてそこに向かった。

 木造の神殿、少しボロさと古さを感じるが、これはこれで趣きがある。 樹の神とは直接会っていたので、あまりありがたい感覚はないが。

 戸を叩き、中に入る。 先の水の神殿とは違って人は少ない。 気軽に人から椅子に座り、小さな声で語りかける。

「ロム爺、聞こえる? てかいる」
『ん? おお、レイ坊か。 レイ坊が神殿越しだと妙に感じるの』

 問題なく聞こえるらしい。 周りを見て、バレていないことを確認してから、ロム爺との会話をする。

「えーと、まず次の街に来れたんでその報告ッスね。
次の街にはないッスから、王都に着いた時も報告した方がいいッスか?」
『馬鹿なことばかりしていて心配になるから、してくれるとありがたいのう。 して、わざわざ来るからには何かあるんじゃろう』

 バレている。 まぁ、いつも都合のいい時ばかり会いにいっていたのは間違いないので仕方ないか。

「リロが、この前のカラスの神がレベルアップしたんスよ」
『早いのう。 儂なんて神格《レベル》が2に上がるのは二年もかかったというのに。
して、要件は力の使い方かの?』
「うん。 レイヴくんの力になりたいの」

 リロがそう言うと、ロム爺が笑う声が聞こえた。

『良かろうて。 まぁ、儂も教えるのは儂の力のことが限界じゃけどのう』
「木のおじいさんの、力?」
『そうじゃ。 知識の加護ステータスの使い方を教えてやろう』

 リロはバサリと翼を動かしてからロム爺に御礼をする。
 リロはロム爺から色々なことを教わっていき、十分ほどで俺に声を掛けた。

「レイヴくん、今からレイヴくんに力を渡すね?」
「おうッス」

 何の力もなかったリロだが、一角の神としての力を手にし、俺にもその恩恵を分け与えることが可能になった。
 一時は「スカッスか」などと思っていたが、案外どうにかなるものである。

 体に異能が入り込んでいき、頭の中に使い方が埋め込まれるようにして理解する。

「これが、異能力ーー」
「うん。 これが私とレイヴくんの力ーー」

 ウズウズと湧き上がる感情、異能の力を発揮するために、その名を発する。

「カラステータス!」

《カラステータス》
名前:レイヴ=アーテル
年齢:17歳
身長:170cmぐらい? 多分。
体重:リンゴ3個分
契約神:私

 目の前に文字列が浮かび上がる。 が、知ってるし間違ってる箇所もある。

「どうかな?」
「お、おう」

 何とも言い難い。 というか、これ何の意味があるのだろうか。

「これ、どういう状況なんスか?」
『ステータスの力は、神秘の力により、神の知識を信徒に分け与えることが出来る。 儂の場合は解析なども兼ねるが』

 つまり、これはリロの知識が俺の頭の中に入ってきているということか。 だから契約神の欄が「私」となっているのか。
 なるほど。

「リロ、なんで俺の体重がリンゴ3個分になってるんスか」
「……理想の体重?」
「それアイドルとかの話っすよね? 俺は男なんでリンゴ3個分は理想じゃないッス」
「ん、変更するね」

ーー体重:リンゴ180個分ーー

「リンゴ換算は分かりにくいッスよ!」
「そうなの? 直しておくね」

 というか、これは何の役に立つのだろうか。 ロム爺の場合は、信徒もロム爺の声は聞こえないし、ロム爺は物知りなので役に立つだろうけど、リロの場合はーー言っては悪いけどカラスである。 ちょっと前まではただのカラスである。

「ん、レイヴくんの、役に立てるかな?」

 少し恥ずかしそうで、けれどもうれしそうなリロの声。 「この異能力いらねえ」などとは口が裂けても言えない。

「そりゃ、もうバッチリッスよ! もうこれひとつで楽々ッスよ!」
「これでお値段も、レベルアップ一回分」
「しかも今ならリロの喜びの声も付いてくる」
「やったー」
「今すぐに使いまくるッスよ!」

 とりあえずロム爺に御礼を言ってから外に出る。

「レベルアップ一回分ッスか……」

 つまり、まともな異能はまたレベルアップをしないと手に入らないということだ。 カラスからスカッスか。
 まぁ、ないものが使えないものに変わっただけと思えばそれほど辛いものではない。

「えへへ、いっぱい使ってね」
「……おうッスよ」

 とりあえず、今度はリロに向かって使用してみる。

《カラステータス》
名前:リロイア=レーヴェン
年齢:1歳
身長:137cm
体重:リンゴ1個分
契約者:レイヴくん

「……身長を人間形態で、体重をカラスの時にってのはズルくないッスか?」
「レイヴくんの、いじわる」

 いや、意地悪のつもりではないのだけれど。 軽く撫でてから、商人の店に向かう。
 今回は残念な結果になったが、リロはレベルアップして、他の神から力の使い方を習えば、それを扱えるようになることが分かった。
 異能力なしで一生を過ごすことにはならなさそうなので、少し嬉しくもある。

「次は戦闘に向いてるのがいいッスねー」
「ん……そうだね。 強くなった方が、安全だもんね」

 過保護なロリだ。 歩いて商人の店に向かった頃には夕暮れになっていて、涼しげな風が心地よい。
 大通りから外れた道を通り、流行りそうとない外装の店に入った。

「たのもーッス」
「たのもー」

 冗談交じりに中に入り、商人に話し掛ける。

「店の裏においたあれ、買い取ってもらえるッスか?」
「ああ、うん問題ないよ。 ちょっと用意するから待っててほしい」
「ありがと。 適当に店の物でも見とくッスよ。
ああ、明日からもジャンジャン狩ってくるんで、よろしくッス」

 頭の上のリロを、店の物が見やすいように手で持って胸の近くにやる。

「これ、何屋さん?」
「さあ……? 雑貨屋?」

 色々な物があって、雑多に並べてあり見にくい。 何かほしいものがあっても、この店で買い物をすることは少なそうだ。

「……指輪も」
「ほしいッスか?」
「ううん。 サイズ違うだろうし」
「そりゃそうッスね」

 ひとつしか売ってないようだし、こんなので売れたりするのだろうか。 いや、売れてないから流行っていないのか。

「お待たせ、一応は私にも利益が出るぐらいで、これぐらいかな」

 お金を受け取る。 すいーとるーむに泊まれば直ぐになくなりそうなぐらいではあるが、まぁ二泊ぐらいなら出来なくはなさそうだ。
 明日からも魔物を狩れば泊まり続けることも、泊まりながら王都への路銀を貯めることも出来るだろう。
 魔物を狩るのは、リロのレベルアップのためにも重要なので当然するとしたら、まぁすいーとるーむに泊まっても問題はないか。

「ありがとうッス。 それからこのお菓子買っていくッスよ」
「はいよ。 じゃあ差し引いとくね」
「ん、あと、宿探してるんスけど、教えてもらえないッスか? 贅沢な感じで、華美なところがいいんスけど。
あと、ここでは服とかは売ってないッスか?」
「飢えてたその日に贅沢するって凄いな。 貴人用の宿なら、時計塔の方にあるよ。
服もウチのは大衆的なのだから、そっちで買ったほうがいいかもしれないよ」
「ん、分かったッスよ。 また来るっす」

 軽く手を振ってからリロを頭の上に戻し、時計塔に向かう。

「あっ、ちょっと本屋によっていいッスか?」
「ん、いいよ」

 街が変われば品揃えも変わるはず。 あの街では手に入らなかった、聖女様の写真集とかあるかもしれない。
 ウキウキとした気持ちで中に入り、聖女様のコーナーを見つける。

「目論見どおりッスね……」
「んぅ……」

 故郷の街では見ることの出来なかった、幾つかの聖女様の写真。 ほとんど見たことのあるものだけど、初めて見るものが幾つかある。

「買っちゃおうッスかね……いひひ」

 値段を確認すると結構な値段だけれど、問題は持ち歩けるかどうかである。 家でもあれば別だけど……。
 まぁ一冊ぐらいは大丈夫か。 聖女様を旅の最中に癒されることも出来る。
 一冊買おうとしたところで、せっかくなので手に入れた異能力を発動してみる。

《カラステータス》

名前:てき
年齢:てき
身長:てき
体重:リンゴ五億万個分
契約神:水の神アオイ


 俺はそっと写真集を置いて、外に出た。
 夕焼けが目に染みるようだ。

「あー、あれとか小綺麗で良さそうッスね」

 普通なら絶対に入ることのない宿屋を見つけてそれを指差す。 豪華なところだが、今は小金持ちなのでなんとかなるだろう。 リロもまんざらではなさそうなので、中に入る。

「たのもーッス」
「たのもー」
「一泊したいんスけど、部屋空いてるッスか?」
「いらっしゃいませ。 お一人様でしたらーー」

 俺は頭を横に振って、頭の上のリロを撫でる。

「二人部屋でお願いッス。 出来たらいい部屋がいいんスけど」
「かしこまりました。 どのお部屋に」
「すいーとるーむでお願いします。 ベッドが二つあるところで」
「かしこまりました。 お荷物をお預かりさせていただきます」

 何処からか男が出てくるが、荷物がないせいか戸惑っている。

「あ、荷物はないんで案内だけ頼むッス」
「ここ、きれい」
「ん、まぁいいところッスね」

 男に連れられて階段を登り、綺麗に着飾った人の横を通りながら部屋に向かう。

「私、浮いてない?」
「浮いてるに決まってるッスよ、一番美人さんなんスから」
「んぅ、そういうの、や」

 褒めすぎるのは逆効果だろうか。 案内された一室に入り、案内してくれた男に礼を言う。

「あざっす。 夕飯もお願い出来るッスか? 2人分。 デザートも1人分頼むッスよ。
あと、明日はささっと部屋出たいんで、先に勘定済ませたいんスよ」

 持ち金の大半を男に渡し、部屋の奥に入り込む。

「わぁ……」
「ん、まぁ適当に使ってたらいいッスよ。 風呂はあそこッスね。 まぁ食べた後にでも」

 寝巻きが何着か置いてあるのを確認してから、腹に巻いていた鎖を外して適当に放る。

「んぅ……すごい」
「そうッスね。 流石すいーとるーむ」
「すいーと」

 リロに用意されていた寝巻きを一着渡し、自分は別の場所に向かう。

「着替え、覗いちゃ駄目ッスか?」
「なんでいいと思うの」

 尤もである。 スルスルと、衣擦れの音を聞きながら、身体を楽に崩してソファに凭れかかる。

 こういう二部屋以上ある宿の部屋って、一部屋借りるという言葉が使いにくい気がする。 実際ここだと三部屋ぐらいあるし。

「んぅ、もういいよ?」

 リロの声に釣られてそちらを見る。 やはり、可愛らしい少女だ。
 白い髪に紅い目、薄く微笑む少女は物語に出てくる天使と見紛うようだ。 事実、女神なので似たようなものなのかもしれないけれど。

「んー、すいーと」

 そんな少女は片翼をはためかせて、ベッドに飛び込んだ。

「ふかふか。 レイヴくんの頭よりふかふか」
「比較対象がおかしいッスよ」

 リロを真似するようにもう一つのベッドに飛びつき、枕に顔を埋めて笑う。

「あー、溶けるッスね」
「ん、癒されるね」

 心地の良い部屋だ。 眠ってしまわないように気をつけながら、リロの方を見る。
 散財だと思っていたが、泊まってみたら楽しいものだ。
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