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第17話
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今の、線は……幻覚かもしれない。 けれど、でも、と縋らずにはいられず僕は飛び出して焼け落ちていく家に飛び込む。
喉が焼ける、一瞬で目が乾き、目を閉じながら祈るように叫ぶ。
「アレンさん!」
「ッ! ミアッ!」
返事は一瞬だった。 抱き締められて、そのまま焼けている家から引き摺りだされ、多くの人に見られながら、アレンさんは僕を抱えて駆け出す。
「無事、だった」
そういうアレンさんは少しの火傷と、血だらけの全身。 傷まみれの身体と……あまりにも、満身創痍といった様子だった。 駆けている途中で口から血が漏れ出て、風に運ばれて僕の頰に当たり、アレンさんは倒れ込む。
「……人に追われている。 吸血鬼と、バレた。 逃げているが、逃げ切れない。 その途中に家事と聞いて駆けた」
「……すみません。 あれ、自分で燃やしました」
「……悪い。 また、巻き込んだ。 ……ミアだけでも、逃げてくれ」
そんなことが出来るわけがない。 僕が危ないと思って、自分が死にそうなのに火の中に飛び込んできてくれる人を置いて逃げれるはずがない。
絶対に助ける。 一緒に生きてやる。 死んでも足掻いてみせる。
肩を貸すには体格差がありすぎるので、腰を支えるようにして歩いて路地裏に入り込む。
まだ暗いけれど日の出が近いはずだ。 早く移動しないと、と逃げようとすると、背後から叫び声が聞こえる。
「裏切り者が! 見つけたぞ!!」
「……逃げろ、ミア」
背後から現れた吸血鬼の男がアレンさんに襲いかかり、アレンさんは僕を逃すように突き飛ばし、壁に背をやることで何とか立ちながら、手を前に出す。
半生半死の状態で勝てるはずもなく、男の手がアレンさんの胸を貫き、引き抜く。
「アレン、さん……アレンさん!! アレンさん……」
アレンさんの元に駆け寄ろうとすると、男が僕を掴んで止める。
「いい保存食を用意してやがったな」
「離して! アレンさんがっ!」
暴れるけれど強い力に対抗など出来るはずがなく、簡単に壁に押し付けられて、牙が僕に向かう。
「ミアにッ!!触れるなッッ!」
向かってきていた牙が止まり、顔が首元から離れていく。 首を掴んでいるアレンさんの指が男の首に捻じ込まれ、握りつぶして男の生首を放り投げる。
どさりと男の倒れる音が聞こえて、アレンさんの顔が見えた。
「大丈夫か……?」
「大丈夫って、アレンさんが……」
腹部を貫かれたのは幻などではなく、確かに貫かれた跡があり、生気を感じさせないアレンさんの顔を見れば、平気でないことなどすぐに分かる。
「俺は、問題ない。 吸血鬼は、人より丈夫で……」
フラつく彼の身体を支えると、首を横に振られる。
「……逃げてくれ」
「……逃げません。 僕は、あなたと一緒に、いたいんです」
「……もう、俺は助からない。 まだ追っ手がくる」
「絶対に離しません。 好きですから」
アレンさんを支えるながら、ゆっくりとした足取りで路地裏を進む。 教会にあった倉庫は、たしか使われていなくて鍵が開きっぱなしだった。 そこに隠れて、僕が血をあげたら、なんとかなるかもしれないと勝手に考える。
「……もう、俺は報われた。 ミアが隣にいてくれて、吸血鬼でも、好きといってくれて。
不幸ばかりの人生だったが、それで、幾つでも釣りがくる。 幸せだった」
「……死ぬ前みたいな、ことを」
もうちょっとで教会に辿り着く、十字架が見えている。 そう思っていると、急に十字架が赤く染まった。
朝焼け。 急いで太陽の陽から逃げるようにアレンさんを路地裏に連れ戻し、なんとか日の光を遮ろうとするけれど、僕の小さな身体ではどうしようもない。
もう死にかけてしまっているアレンさんの身体を日が焼いて苦しめる。
手首の血管を切って、傷口をアレンの口に突っ込んで、こくこくと喉が鳴るのを見る。
「……やめてくれ。 もう、死ぬのは変わらない」
「生きてください。 生きて……ほしいです……」
もうダメなのは目に見えていて、涙が溢れてくる。 どうしようもないほど涙が溢れて、アレンさんを見ることが出来ない。
「逃げて、くれ。 ミア」
「なんで……死にそうなのに、僕の心配ばかり……」
「ミアが、好きだから」
「なら、僕もあなたが好きだから、離れません。一緒にいます。 僕の気持ちも、考えてください……。 離れるぐらいなら、死んだ方がはるかにマシです」
それだけ言い切って、お腹の傷を止血しようとするけれど、大きすぎてどうしようもない。 そう思っているとアレンさんの手が僕に伸びて、僕の身体を抱き締める。
懐にしまっていた父母の形見の指輪が勢いで零れ落ちて地面を転がる。
「……アレンさん」
「悪い。 ……嬉しかった。 好きと言われて。 良くないと、分かっているのに」
「何回でも、言いますから。 だから、生きていてください」
紅い目を僕に向けて、手を握る。 真っ直ぐに、僕を求めるようにアレンさんは死にかけた口で言う。
「……結婚してくれ。 すぐ、死ぬけれど」
「結婚しますから! ……死なないでください」
アレンが転がった指輪を持つ。 銀で出来たそれは吸血鬼のアレンさんには毒で、焦げたように持った部分から黒くなっていく。
喉が焼ける、一瞬で目が乾き、目を閉じながら祈るように叫ぶ。
「アレンさん!」
「ッ! ミアッ!」
返事は一瞬だった。 抱き締められて、そのまま焼けている家から引き摺りだされ、多くの人に見られながら、アレンさんは僕を抱えて駆け出す。
「無事、だった」
そういうアレンさんは少しの火傷と、血だらけの全身。 傷まみれの身体と……あまりにも、満身創痍といった様子だった。 駆けている途中で口から血が漏れ出て、風に運ばれて僕の頰に当たり、アレンさんは倒れ込む。
「……人に追われている。 吸血鬼と、バレた。 逃げているが、逃げ切れない。 その途中に家事と聞いて駆けた」
「……すみません。 あれ、自分で燃やしました」
「……悪い。 また、巻き込んだ。 ……ミアだけでも、逃げてくれ」
そんなことが出来るわけがない。 僕が危ないと思って、自分が死にそうなのに火の中に飛び込んできてくれる人を置いて逃げれるはずがない。
絶対に助ける。 一緒に生きてやる。 死んでも足掻いてみせる。
肩を貸すには体格差がありすぎるので、腰を支えるようにして歩いて路地裏に入り込む。
まだ暗いけれど日の出が近いはずだ。 早く移動しないと、と逃げようとすると、背後から叫び声が聞こえる。
「裏切り者が! 見つけたぞ!!」
「……逃げろ、ミア」
背後から現れた吸血鬼の男がアレンさんに襲いかかり、アレンさんは僕を逃すように突き飛ばし、壁に背をやることで何とか立ちながら、手を前に出す。
半生半死の状態で勝てるはずもなく、男の手がアレンさんの胸を貫き、引き抜く。
「アレン、さん……アレンさん!! アレンさん……」
アレンさんの元に駆け寄ろうとすると、男が僕を掴んで止める。
「いい保存食を用意してやがったな」
「離して! アレンさんがっ!」
暴れるけれど強い力に対抗など出来るはずがなく、簡単に壁に押し付けられて、牙が僕に向かう。
「ミアにッ!!触れるなッッ!」
向かってきていた牙が止まり、顔が首元から離れていく。 首を掴んでいるアレンさんの指が男の首に捻じ込まれ、握りつぶして男の生首を放り投げる。
どさりと男の倒れる音が聞こえて、アレンさんの顔が見えた。
「大丈夫か……?」
「大丈夫って、アレンさんが……」
腹部を貫かれたのは幻などではなく、確かに貫かれた跡があり、生気を感じさせないアレンさんの顔を見れば、平気でないことなどすぐに分かる。
「俺は、問題ない。 吸血鬼は、人より丈夫で……」
フラつく彼の身体を支えると、首を横に振られる。
「……逃げてくれ」
「……逃げません。 僕は、あなたと一緒に、いたいんです」
「……もう、俺は助からない。 まだ追っ手がくる」
「絶対に離しません。 好きですから」
アレンさんを支えるながら、ゆっくりとした足取りで路地裏を進む。 教会にあった倉庫は、たしか使われていなくて鍵が開きっぱなしだった。 そこに隠れて、僕が血をあげたら、なんとかなるかもしれないと勝手に考える。
「……もう、俺は報われた。 ミアが隣にいてくれて、吸血鬼でも、好きといってくれて。
不幸ばかりの人生だったが、それで、幾つでも釣りがくる。 幸せだった」
「……死ぬ前みたいな、ことを」
もうちょっとで教会に辿り着く、十字架が見えている。 そう思っていると、急に十字架が赤く染まった。
朝焼け。 急いで太陽の陽から逃げるようにアレンさんを路地裏に連れ戻し、なんとか日の光を遮ろうとするけれど、僕の小さな身体ではどうしようもない。
もう死にかけてしまっているアレンさんの身体を日が焼いて苦しめる。
手首の血管を切って、傷口をアレンの口に突っ込んで、こくこくと喉が鳴るのを見る。
「……やめてくれ。 もう、死ぬのは変わらない」
「生きてください。 生きて……ほしいです……」
もうダメなのは目に見えていて、涙が溢れてくる。 どうしようもないほど涙が溢れて、アレンさんを見ることが出来ない。
「逃げて、くれ。 ミア」
「なんで……死にそうなのに、僕の心配ばかり……」
「ミアが、好きだから」
「なら、僕もあなたが好きだから、離れません。一緒にいます。 僕の気持ちも、考えてください……。 離れるぐらいなら、死んだ方がはるかにマシです」
それだけ言い切って、お腹の傷を止血しようとするけれど、大きすぎてどうしようもない。 そう思っているとアレンさんの手が僕に伸びて、僕の身体を抱き締める。
懐にしまっていた父母の形見の指輪が勢いで零れ落ちて地面を転がる。
「……アレンさん」
「悪い。 ……嬉しかった。 好きと言われて。 良くないと、分かっているのに」
「何回でも、言いますから。 だから、生きていてください」
紅い目を僕に向けて、手を握る。 真っ直ぐに、僕を求めるようにアレンさんは死にかけた口で言う。
「……結婚してくれ。 すぐ、死ぬけれど」
「結婚しますから! ……死なないでください」
アレンが転がった指輪を持つ。 銀で出来たそれは吸血鬼のアレンさんには毒で、焦げたように持った部分から黒くなっていく。
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