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第3話
しおりを挟む「ところで、どの魔物の生態ですか?」
「きゅっ、ああ、いや……」
「きゅ?」
「九尾の狐……とかの本を」
「そんな珍しい上に外国の魔物の本はありませんよ……」
「なら、魔物全般の本を」
「図鑑みたいなのですか?」
「……いや、魔物は何故魔物なのか、といった」
そんな本あっただろうか。 記憶にはなく、探してみるが見つかることはない。 ため息を吐く。
気がつけば昼時で、そろそろ小腹も空いてきた。
「……ごめんなさい。 なかったみたいです」
「……いや、ありがとう。 助かった」
少しがっかりしたように見える男の人に尋ねる。
「よかったら、ご飯食べますか? 学食ですけど」
「いや、いい。 ……まだ俺なりに探してみる」
だから、なかったというのに。 男の人は気にした様子もなく本を探し始める。 ペラペラと見ていくが、挿絵だけだと限界があるだろう。
仕方ないと、僕はため息を吐き出して諦める。
先程見ていなかった少し外れたところに間違えて入れられていないかを見ていく。
「食事をするのではなかったか?」
「今の時間は混み合ってるでしょうから、後にすることにします」
一人というのは目立つ。 特に僕は女の子の中でも背が低い方で、人と違うところがあると悪目立ちするものだ。 何より、女の子は群れる生き物なので一人きりでうろちょろしていたら奇異の目で見られること受け合いである。
「悪い」
「悪いことはしてないですよ。 僕も貴方も」
「悪い」
僕がじとりと男の人の顔を見ると、少しだけ僕を見ている彼の顔が緩む。
「……ありがとう」
「ん、期待しないでくださいね」
しばらく探すがそんなに都合よくあるはずがない。バタバタと服の埃を落として、肩を落とす。
「ないですね」
「……ここにはないのか」
「そもそも、そういう本があるのでしょうか。 本というのは知識の伝達のためのものなので、あまり需要がない本は書かれないことも多いです。
魔物の生態全般についてとなっても、必要なのは個別の対応方法なので読む人はいないですよ。 それこそ……悪いやつだよって書いてる聖書……あっ」
そうだ。 学術書に限らなければ聖書がある! 聖書には魔物はすごく悪い生き物だよ、神様はこう教えているよ、といったことが書かれていた気がする。 敬虔な信徒でもないのでうろ覚えだけど。
「あまり参考にならないかもですけど、聖書なら簡単なことが書いてるかもしれません。 ……どっちかといえばファンタジーですけど」
「聖書……ああ、それを読ませてくれ」
急いでその本棚に来て、一番分かりやすく訳されている本を手に取る。 目次を見てからパラパラとめくり、男の人に渡す。
「世話をかけた。 ありがとう」
「んぅ……でも、読めないですよね。 挿絵もないですし」
外を見る。 まだまだ夕暮れになるまでには時間があるけれど、お腹は空いた。 これ以上、何かをしてあげる義理もなければ何か利益があるわけでもない。
これ以上世話を焼くのも嫌がられるかもしれないし、喜ばないだろう。
手伝わない言い訳をいくつも並べて、並べて……言い訳をたくさん並べなければ手伝わないことが出来ないと気がつく。
結局、助けたいならそれでいいんじゃないかと思い直して、短い腕を動かして棚の奥を指差す。
「あっちに座れるところがあるので、読むならそこがオススメですね。 持ち出すのは手続きとか面倒なので」
「ああ」
「文字読めないなら手続きとか出来ないので、そこでするしかないですね。 ん、読むだけなら教えれますから、行きましょうか」
男の人は驚いたような表情をして、それでも変に嫌がることはなくついてくる。 案外、素直な人である。
椅子に座って机に聖書をおく。 聖書というのは元々文字の教本扱いされることもあるので、そういうつもりはなかったけれど簡単な表現が多いので都合はいい。
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