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プロローグ
プロローグ
しおりを挟む『 エミリー・フォン・ローデン様
私のすべてを貴方に捧げます。
どうか、私と結婚していただけませんか? 』
とある豪奢な屋敷の一角で、プロポーズが繰り広げられていた。
膝をつき、指輪の箱を差し出しているは、ミルクティー色の髪に、濃い茶色の瞳を持つ男性。背は高く、適度に鍛えられた体つきをしている。年齢は20代半ばだろうか、それにしてはやや苦労を重ねた印象を漂わせている。
一方、彼の前に立つのは、茶色の髪と緑色の瞳を持つ小柄な女性。年の頃は10代後半、顔立ちは平凡だが、その瞳には強い意志が宿っていた。
『はい、お受けいたします。』
彼女が静かに応じると、彼は慎重に彼女の左手の薬指に指輪をはめた。
通常こういう場面では、女性は涙ぐみ、男性は照れながらキスや抱擁を交わすものだ。
しかし、彼女は違った。じっと指輪を見つめ、次の瞬間、驚くべき提案をした。
「これ……裏側に夫婦の名前や、プロポーズした日、結婚式の日を刻んだら、もっと売れると思いません?」と。
普通の男性なら、『この花嫁は一体何を言っているんだ?』と戸惑うだろう。だが、彼女の夫となる男は全く動揺する様子もなく、むしろこの展開にすっかり慣れているかのようだった。すぐさま近くの長机から羊皮紙を手に取り、メモを取り始める。
「へぇ、また斬新なアイデアだな。ちょっと待て、メモするから。」
「ここをこうして、こうすればもっと良くなるわ。」
「なるほど……だが、ここはこうした方が効果的じゃないか?」
プロポーズの場面だったとは思えないほど、二人は商談のようなやり取りをしていく。その後もまるで息の合ったビジネスパートナーのように、次々と意見を出し合っていく。
「対象顧客は、平民の中間層から富裕層、そして貴族全般かしら。」
「そうだな。高価な一生物のアイテムにするなら、その辺りが妥当だろう。逆に貴族層には、毎年違うデザインを提案できるかもしれない。」
「広告塔も必要ね。上流階級の信頼を得るためには、ブランド価値を高める仕掛けが重要だわ。」
「私たちも、もう一つ指輪を作って、別の指にはめるべきじゃないか? そうすれば顧客の前でも、さりげなく商品の良さを見せられる。」
「ええ、そのためには……」
二人の意識は完全に、結婚や愛の誓いから仕事へと移行していく。商談のようなやり取りは数時間と続き、やがて夜も深まっていった。
――――――――――――――――――
ここで改めて説明しよう。この場にいる男性は、平民出身の商人。一方の女性、エミリーは没落した元貴族である。彼らの関係は、恋愛だけでなく、ビジネスパートナーとしても、深い絆で結ばれていた。そして、今や彼女は、かつての家柄に囚われることなく、自分の未来を切り拓いていこうとしている。
この二人の関係は、すべてあの日の一言から始まった。
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