トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

暖かな光と寒い場所

烏の声が聞こえてきて教室に橙色の光が入ってきた所頃いよいよかと身体に力が入る。

「なんや、遙ちゃん」
「……」
「身体強ばってんで」
リラックス、リラックスと手を力無くパタつかせる。
「なあ」
「なんや」
後ろで聴こえる甲高い声に向かって手を振り、身体だけこっちを見てる。
「今度で良いなら行こう」
「んー…あー、行こうな」
「じゃ」
椅子から立ち上がり、教室の前から出ようとした時
「え、待ってや」
「何だ」
「えっ?!あっ!すまん、すまん。ちと上の空やったわ。いつ行く?」
左手を両手で掴まれ、ビー玉のように瞳を輝かせる。
「今度だ」
懐かしいな、本来ならこいつのこの態度にムカついて当時はメンチ切って帰ってたっけ。なんだか得した気持ちだ。このいつまで続くか分からない上手くいくかも分からないという状況でも剛がいるだけできっと…。
「え、それって明日のことかいな」
そんなくだらないことを繰り返し話しながら帰路に着く。


いつ見ても圧迫感や緊張感しか感じないこの場所。珍しくシンと静まり返っているがここはいつも悪い意味で騒がしい。
自動ドアが開いた途端に、鼻にツンと消毒液の匂いが広がる。
さっきまで、適度にほぐれた緊張もいよいよだと思うと少し肩に力が入る。
エレベーターで行こうか、階段で行こうか右にはエレベーター、左には階段。
普段なら考えないことも細かく気になる。