トリップ先の私は既に他の人と結婚していた件

侵入者

「箸を貸してください」
   川神さんは、大きな手でトレーの上に置いてある箸を取ろうとする。
「何でですか」
   すぐにトレーを両手で持ち、落ちない程度に移動させる。
「食べさせます」
   真剣にそう言う川神さんに私は困惑が止まらない。けれど、この仕事に対して並々ならぬ熱意があるというのは受け取れた。
「さっきのは言葉の綾で、食べれないというのは先程から人が絶えず来たのでそう言ったんです」
「そうですか、なら良かったです。食事をすると体温が上がるので少なからず支障をきたします」
「ならなんで言ったんですか？」
「貴女がおかずを溢しているようなので、これ以上汚されては困ると思ったんです」
   私が先程溢したのを見つけたのだろう。
「すみません」
「あっ、ちょっと良いですか？その原因私だと思います。急に扉開けたのでそれで驚いて溢しちゃってました」
「そうだったんですか」
それは申し訳なかったですと言い、川神さんはおかずをティッシュで拭き取る。
「はい、みみは悪くないので責めないでください。ただでさえ、骨折して不自由なんですからそれに貴方仮にもみみの担当ならもう少し優しくしてください」
「彼女がこうゆう風な接し方が良いと先程仰ったんです。僕としても普通に優しくしたかってんですけれど」
  なあそうだよなと言うような態度でこちらを一瞥する川神さん。