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2章

13話 宣言

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 プルトンは物陰から売春窟のアジトを眺めていた。
 元々は金持ちジャックの舎弟、七理の舎弟助五郎が仕切っていた。
 しかし、助五郎は元々電二坊の舎弟だったが、電二坊が逮捕投獄されている間に
 七理の下についてしまっていた。

 ゴタゴタが起こった後、金持ちジャックは七理にキシューから手を引くように
 言っていたが、七理はジャックには手を引いたと言いつつ、隠密にキシューで
 売春窟を経営していた。

 その事が発覚して七理は破門され、キシューに居つくことになる。

 そこまではプルトンことケーニッヒファンネルにとってまったく関係ないことであった。

 しかし、プルトンとしてギルドに登録して七理から護衛の仕事を受け、チョコミントと
 レモンライムを派遣したものの、藤林と石虎に電二坊を奪われる結果となった。
 これに怒った七理はプルトンに用心棒代の前金の返還を要求。

 しかし、プルトンはこの要求を無視した。

 七理はその報復としてトツリバー村のリナを誘拐したのだ。
 トツリバー村の護衛をやっていたチョコミントが留守でる時期が分かった上での
 計画的犯行であった。

 その際、村を護衛していたデスナイト、アークデーモン、スケルトンなどをすべて壊滅させていた。
 先のドスエとの闘いでムラの若い衆はほとんど殺害されており、村に残っていた老人と女、子供はリナの
 命令で避難していた。

 リナは村人に危害を加えないという条件で、七理の命令に従い、
 売春窟に連れてこられていたのだった。

 プルトンはキシューで禁止されている秘密の売春窟の存在をギルドに密告し、
 それはキシュー王の知るところとなり、今回の総攻撃となったのだ。

 プルトンこと、ケーニッヒファンネルの部下たちをもってすれば、
 リナの奪還は容易いことであった。

 今は、売春窟の護衛を皆殺しにし、売春窟の財産をすべて奪い取り、ケーニッヒファンネルの
 宮殿に持ち帰る作業と、リナをムラに送り届けること、アンデットとして宮殿で使役するため、
 売春窟の売春婦を皆殺しにする作業をしているところであった。

 ケーニッヒファンネルは、トツリバー村の村人たちがアンデットと共に最後の一人まで七理の
 盗賊団と戦って死ななかったことを非常に不愉快に思っていた。

 人間には意思がある。意思があるものは裏切る。

 よって、あえて殺してアンデットとして使役する道を選んだのだ。

 宮殿のアンデットは宮殿の奥にある魔法柱によってコントロールされており、
 キングファンネルが宮殿においてある覇者の杖を振りかざし命令することにより
 自由に動かすことができる。

 すべては、プルプルが作った魔法柱にコントロールされているので、絶対に
 反乱を起こすことはない。

 プルプルによる絶対人を信用せず支配下に置くシステムにケーニッヒファンネルは絶対的信認をおいていた。


 プルプルが所有するオトモアイドルーの名義をケーニッヒファンネル(当時のシュピンネ)に
 置き換えるとき、彼は照れながら「シュピンネを愛している」という一文を加えるよう
 プルプルにお願いした。

 プルプルは無言でシュピンネが見えるところでソーダプリンのコントロールパネルだけ
 「シュピンネを愛している」と書き換え、他のアイドルーに関しては、あとでまとめてやっておくと
 彼に伝えていた。

 ケーニッヒファンネルに対するオトモアイドルーたちの忠誠は絶対であると彼は信じていた。
 なぜなら、それはプログラムされたものだから。

 心の交流などいらない。

 人形は自分の思い通りに動く。

 パソコン上のオンラインゲームの彼女も攻略法を知っていれば、その通りに操作したら思い通りに動く。

 それこそ、彼が求めた理想だった。 

 物陰に隠れているファンネルの処にソーダプリンが腰をかがめて小走りに近づいてきた。

 「今すぐ売春窟の娼婦の殺害を止めさせてください。このままでは今まで蓄積した人間たちの
 感謝というプラスの感情が磨滅してしまいます」

 ソーダプリンはファンネルの耳元でささやいた。

 「かまわん」

 ファンネルは冷静に返答した。

 「しかし、感謝の感情が底をつけば、アンデットを動かす力の源泉がなくなってしまいます」

 「今後は恐怖を使う」

 ファンネルがそう言うとソーダプリンは目を大きく見開いた。

 「しかし、大量のアンデットを動かすだけの恐怖を集めようとすれば、人を日常的に
 殺さねばなりません。感謝はムラを大きくしていけば集まりますが、恐怖は殺すときの
 一回かぎり」

 「いいのだよ、もう感謝など。あれだけ苦労して増殖した村人も、くだらないギャングの
 襲撃一度で脆くも崩れさってしまう。そんな事より、どもにでもいる人間一人殺せば、
 それに倍する負の感情が得られることがわかってしまった。
 娼婦などドットの点の一つにすぎない。それを消したところで、
 世界の大勢には何の影響もない。もっともっと人を恐怖させるためには
 戦争をすればよい。そうすればもっともっと簡単に恐怖を集めることができる」

 「では、世界を征服したあとはどうなさいます。支配下の者を殺しつづけるのですか」

 「それも面白い」

 「なんと仰せですか」

 「面白いと言ったのだ、なんだ、偉大なる君主である私に逆らうのか」

 「いえ、滅相もございません。御身の御命令のままに」


 そう言ってソーダプリンは引き下がった。


 「売春窟から財宝を運び出せ!」
 ラムネタブレットがアンデット達に指示を出す。

 アンデットたちが宝箱を担ぎ上げ、列をなして売春窟から出てくる。

 「ホーリーブライト!」

 男の叫び声が聞こえた。

 宝箱を担ぎ上げていたアンデットたちが次々と灰になり、地面に宝箱が投げ出される。

 「ちいっ、貴重なアンデットを!誰だ!」


 ラムネタブレットが周囲を見回す。

 「私だ!」

 そこに現れたのはピエールだった。


 「なんだお前は。売春窟に雇われた助っ人か」

 ラムネタブレットはピエールを睨みつける。

 「違う!売春窟から女性たちを解放するために戦いに参加したのだ!」

 ピエールが叫ぶ。

 「私も仲間だ。勘違いするな」

 ラムネタブレットは眉をひそめながら言った。

 「ウソを言うな、私の仲間がお前たちの仲間とアンデットが女性たちを殺害しているところを見た。
 だからアンデットを灰化したのだ」

 「だまれ、私は私の事情でやっている。仕事の邪魔をするな」

 「結局、お前たちは売春窟の宝と女性たちの私物や金が目的なんだろう。それを
 奪うために女性たちを殺害した!」

 「私たちは貴様ら下等な人間どもとは価値観が違う。崇高な理念のために殺したのだ。
 財宝などただの付属物にすぎん」

 「結局、殺すこと自体が目的だと暴露したな。そうなれば生かして返すわけにはいかん」

 「ゴミムシ風情が生意気な。ここで消し炭になれ」

 ラムネタブレットはマジックロッドをかざす。

 「ワイヤーボルト」

 ピエールに向かって火のタマを飛ばした。

 ヒュン!

 ピエールは素早くそれを避けた。

 「は、早い!」

 一瞬にしてピエールは間合いを衝ける。

 ダン!

 ピエールは手刀でラムネタブレットの腕を叩く。

 「うがっ!」

 ラムネタブレットは顔をゆがめてマジックロットを取り落とす。


 「そこまでだ!」

 ピエールは剣をふりかざす。

 ブウン!

 剣が振り下ろされる。

 ガツン!

 火花が飛んだ。

 「そこまではお前だ」

 頭を抱え込むラムネタブレットの上をブルームベアの件がガードしていた。

 バウン!


 横合いからオクトポーデがピエールを殴り倒す。


 ピエールの体は吹っ飛び、三回リバウンドした。

 ピエールはすぐに起き上がった。


 「これはすごいですね、私の拳を受けて生きていられたのはアナタが初めてです」

 オクトポーデが言った。

 そこにプルトン騎士団のプルトン(ケーニッヒファンネル)が走り出てくる。

 「この魔物たちめ!」

 その姿を見てラムネタブレットとブルームベアとオクトポーデが露骨に動揺する。

 「こ、これは、ファンネ……」

 「私はプルトン騎士団のプルトンだ!お前らの相手は私がする!」


 ブルームベアの言葉を遮ってプルトンが怒鳴る。

 「ピエールさん、ここは私にまかせて、あなたは七理の元に向かってください。

 七理はLRだ。あなたでなくては倒せません!」

 プルトンはピエールに向かって叫んだ。

 「し、しかし、こんな強敵を相手に一人では到底……」

 「大丈夫です!私も相手の力量は計れる。こいつら程度なら私一人で十分です!」

 「わかりました!ご武運を!」

 ピエールはその場を走り去った。

 「よし、お前らの相手は私だ、ついてこい!」

 そう言ってプルトンは走り出す。

 「あ、はい!」
 「わかりました」
 「参ります!」

 ラムネタブレットとブルームベアとオクトポーデはプルトンの後に付いて走り出した。

 ファンネルはそのままラムネタブレットたちを連れて王城に帰還した。


 王座に座ったファンネルの前に臣下の者たちがずらりと居並ぶ。

 「さて、今後の作戦であるが、すべての近隣諸国を攻めるには、感情エネルギーが少し足りない。
  そこで、もっとも戦力が少ないヒョウゴーを最初に攻めようと思う」

 「恐れなあらよろしいでしょうか」

 ブルームベアが進み出る。

 「もっとも戦力が少ないのはキシューかと存じますが」

 「そんな事は分かっている。キシューは何かと使い道がある。

  誰かが間違って討たれた時のレベル上げにも使える。色々な細かい物資を手に入れるにも便利だ」

 「さすがすべてを見通された思考の御主でございます。我が身の浅はかさに恥じ入ります」
 
 ブルームベアが頭をさげた。

 「気にするな。私が優秀すぎるだけだ。そなたは悪くない」


 「恐れ入ります、ケーニッヒファンネル様」

  ソーダプリンが進み出る。

 「なんだ」

 「ヒョウゴーは不戦中立国であり、どこの国の国民にも入国を許しておりますが、どこの国が
 攻められても加勢しないと宣言しております。ここは一番最後に攻略してもいいのではないでしょうか」

 「ヒョウゴーを守っているのは、聞くところによると子供の妖精3匹だそうだ。そんなもの
 ひとひねりだろう。民衆を虐殺して恐怖を集めるのにはもってこいだ」

 「妖精3匹のほかに人間の軍隊もあります」

 「人間などものの数ではない。ハエや蚊やゴキブリを兵力と数えることなど必要ない」

 そう言うと、ブルームベアが「あはははは」と大声で笑った。

 「これ、控えよ」
 
 オクトポーデが注意する。

 「しかし」

 再度、ソーダプリンが意見しようとする。

 「何だ言ってみろ」

 少し苛立ちながらもケーニッヒファンネルはソーダプリンの言に耳を傾ける。

 「ヒョウゴーを攻めてしまったらもう後戻りできなくなります。
 今ならトツリバー村を足掛かりに、また人々の感謝を得てそのエネルギーで
 村を復活できます。たとえ、細々でも勢力を増していけます。
 至高の君主ケーニッヒファンネル様には無限の命がございます。何を慌てることがございましょう」

 ソーダプリンの必死の訴えを聞いてファンネルはクビをかしげる。

 「うーん」

 何か思案しているようだった。

 「それもそうだな……ソーダプリンの意見にも一理ある。我には永遠の命があるのだ。何を
 慌てることがあろう。プラスのエネルギーを使えば永遠の命はプラスに働く。
 半面、マイナスのエネルギーは先細り……」

 「さすが、至高の君主ケーニッヒファンネル様!」

 ソーダプリンの顔に気色が浮かぶ。

 その時である。

 「ごぼっ!」

 ファンネルは口から血を吐き出す。

 「ぐはっ!」

 ファンネルが前のめりに崩れ落ちた。


 「どうなされました、ケーニッヒファンネル様!」

 ソーダプリンがファンネルに走り寄って体を支える。


 「おのれ……おのれ神め!」

 「どうなされました!」

 「オレを殺したな!現世でのオレの実体を地震を起こしてタンスの下敷きにして殺しやがった。
 神め!おぼえていろよ!こんな世界ぶっ潰してやる!」

 「何の事でございます!なんの!」
 ソーダプリンは狼狽する。

 「黙れ!」

 ファンネルはソーダプリンを突き飛ばす。

 「も、申し訳ございません!」

 ソーダプリンは震えながら平伏した。
 
 ファンネルはソーダプリンを無視してハインツのほうを向いた。

 ハインツが小さく頷く。

 「うむ」

 ファンネルは満足そうにクビを縦に振った。


 「至高の君主ケーニッヒファンネルは、これより劣等国家ヒョウゴーに侵攻する。これは決定事項だ、
 この世界を作った愚劣な神どもに報復するのだ!こんな世界ぶっ潰してやる!!!
 何者もこの決定に逆らえぬことをここに決定する!」

 ケーニッヒファンネルは拳を振り上げ、高らかに宣言した。

 「おーっ!」

 居並ぶ家臣たちが拳を振り上げて喝采をあげる。

 一人、ソーダプリンだけはしょうすいしょうすいしきった表情でうなだれて
 「かしこまりました」と言った。

 

 
 
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