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21話 大きなツヅラと小さなツヅラ

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 ヤマトのセイカー中等魔法学校とドスエのナンヨー中等魔法学校は距離が近いこともあって
 交流が盛んだった。


 ある日、両校交流の球技大会がセイカー中等学校で行われたとき、
 急にドスエの中等学生が集団で倒れた。

 どうも日射病のようで、ドスエ中等学校の生徒が緊急事態ということで、
 ドスエ軍に連絡をとって、救援部隊として完全武装のドスエ軍がヤマトに侵入した。

 驚いたセイカー中等魔法大学の先生がナラーのヤマト軍本部に、早馬でその事を知らせた。

 俺たちはこれはドスエの侵略行為であると考え、軍を発進させた。

 中等学校の生徒の命がかかっているということで、我々は最短距離でセイカー中等学校に向かった。

 セイカー中等魔法学校が直前に近づいた時、突然、ドスエが魔法攻撃をしてきた。

 俺たちは素早くドスエの魔導士部隊を撃退し、ドスエ軍は撤退した。

 しかし、後日になって、ドスエがヤマトに侵略されたと近隣諸国に激しく宣伝しはじめた。

 攻撃されたのは我々のほうだ。

 目撃者もいる。

 しかし、目撃者は我々の部隊がドスエに侵略してきたと証言した。


 実は、この地域の地形は入り組んでおり、

 ドスエのキズガー地区とヤマトのセイカー地区は櫛の歯状になっており、

 ヤマトのセイカー中等学校に最短距離で行こうとすると、途中でドスエ領土を
 通過してしまうことになる。

 ドスエ軍が先に完全武装でヤマト国に侵入したが、彼らは

 「緊急通行」「救援部隊」の昇り旗を事前に用意しており、「救援部隊」という腕章もつけて
 通行していた。

 しかも、事前にヤマトに対して緊急通行であり、敵対行為ではないという伝令を派遣していたのだ。

 それに対して我々は、急な事なので、無断でドスエの領土に入ってしまった。

 もし知っていれば、事前にドスエに確認を取るが、ドスエの領地を通った意識すらなかった。

 ドスエは近隣諸国に、ヤマトは近隣諸国を侵略する野心を持っていると宣伝し、
 警戒を呼び掛けた。

 ヤマト外交部は、ナニワ王の意向でできるだけ穏便に事を済まそうとした。

 ドスエは、今回のようなトラブルを防ぐため、櫛の歯状になっているヤマトの領土、セイカーを
 ドスエに割譲することを提案してきた。

 これはヤマトの軍部が強硬に反対したが、ナニワ王としては「たかが小さな領土ではないか」

 として領土を割譲することを望んでいた。

 ナニワ王の発言を聞き、ヤマト国民のナニワ王への信認は確実に揺らいだ。

 王女メアリーも平和運動を開始し、ヤマト軍部を好戦的であると非難した。

 ドスエやナニワ民国を批判する軍部の人間は野蛮で卑劣だと口を極めてののしった。

 しだいにヤマト国内での軍の立場は危うくなり、緊縮財政を訴える財務部の意向もあって
 大幅に戦力が削減されることとなった。

 「これで平和が訪れるわ!」

 メアリー王女は高らかに勝利宣言したのだった。

 ヤマト軍が軍事費を削減すると、ドスエ軍は大軍を率いてキズガー区域に進行してきた。

 これに対抗してヤマト軍も軍隊を派遣したが、軍事費が削減されているために
 駐屯費用で軍事費がどんどん消耗していった。

 これに対してメアリー王女一派が「税金の無駄遣いだ!」と訴えて、

 ヤマト軍の周囲でデモ行進をしたので、軍の士気はどんどん低下していった。

 そんなおり、ナニワ民国の評論家が「セイカー地区は歴史的にドスエのものであったが、
 ヤマトが侵略してドスエから奪った」という論文を発表。

 この論文を印刷してドスエは国境沿いに高い木組みの塔を立て、風の強い日に、ヤマト側に
 そのチラシをばらまいた。

 当然、そのチラシはヤマト側の民衆の目にもとまる。

 当然、そんな話はデマであるが、ドスエではなくナニワ民国の評論家が書いた文書なだけに
 ヤマトの民衆の中にもそのデマを信じる者が出てきた。

 日に日に近隣住民の軍への態度が厳しくなり、補給物資の提供や、軍人への食事の提供を
 拒否する者まで出てきた。
 
 軍に好意的なヤマト民と敵対的なヤマト民でケンカが発生し、民衆同士の関係もギスギスしはじめた。

 「おい、タケシ、背中に何つけてんだ」

 ミルセラがオレの背中についている引き出しを見つけた。

 

 「時々何か良いものが入ってるらしいですよ」

 「そうかい、じゃあちょっと私にも見せろよ」

 「いいですよ」

 「ミルセラはオレの背中の引き出しを開ける」

 「お!ナラーヘルシー教会の割引優待券じゃねえか、お前いつ、あさこの株主になったんだ」

 「え?なんか知らないけど、時々そういうものが入ってるんですよ、オレにも見せてください」

 オレはミルセラからチラシを渡された。

 ゲ!

 「期間限定スタートアップガチャパック。3万円でなんとLR3確定+今回特別GR1確定。
 (GR確定が出るのは今回が最初で最後です)」

 また課金かよおおおおおおおお!

 どこまで搾り取る気だ、おい!

 オレはポケットから財布を取り出す。

 残り4万円ちょっとか。

 補充できない事を思えば3万はキツイぞおい。

 「あの、これ期間限定課金ガチャって書いてあるんですけど……」

 オレはミルセラにそれを見せる。

 「あ、ほんとだ、3日間限定かよ。いいぜ、どうせドスエは消耗戦狙いだ。
 休暇溜ってんだし、申請出すよ。近くだし、みんなでヘルシー教会の温泉につかりにいこう」

 「え、マジですか、それはありがたいです」

 反射的にオレはそう答えてしまった。

 ああ、貴重なオレの現金。

 ここでは現金の補充はできない。貴重な現世から持ってきた証がどんどん削られていく。
 オレ、何やってんだろ。

 休暇の許可が出て、俺たちは二階堂にあるナラーヘルシー教会に行った。

 日帰りだが、いい骨休めになる。

 オレはヘルシー教会の裏手にある四角い泉に行った。

 チラシにガチャのお金はそこで払えと書いてあるので。

 このチラシ、どうやらオレにしかガチャの文字は見えないらしい。

 神様の仕業か。

 「なら~へるし~きょ~かい!」

 という歌ととものジャボン!と腰にバスタオルを巻いた太ったオッサンが出てきた。

 「なんだ、今日はお前ひとりか、女の子たちはどうした」

 「あ、今日はこれをもってきたんですが」

 オッサンにオレは向かって手を出す。

 「はい、お金」

 「はい?」

 「はい?じゃねえよ、これ優待割引券なんだからさ、少額でも入場料払わなきゃだめだろ、全員分」

 部下7名とオレとミルセラ全部で9人分。

 「あ、はい」

 オレは財布から3万円を出してオッサンに渡した。

 「なんだこの紙切れ」

 オッサンは3万円をクシャクシャに丸めてポイと後ろの泉に捨てた。

 「ああああああああああ!」

 「なんだ、やんのか?」

 オッサンはファイティングポーズをとる。

 「ん?」

 オッサンが何かテレパシーを感じたようだ。

 どっかの神様と会話している。

 「おお、そうかお金はミルセラちゃんが払ったのか、なんだ来てんのかよ、ミルセラちゃん。
 あとでここにも来るように言っといてよ」

 急にオッサンの顔が柔和になる。

 「よう参ったの、そなた」

 急に話し方が変わった。

 「さて、せっかく来たのじゃ、お土産を持って帰るがよい」

 オッサンが両手を横に広げると泉の中から大きなツヅラと小さなツヅラが出てきた。

 「さて、どちらを選ぶかの」

 こういう場合、小さいほうを選んだほうが、いいと相場は決まっている。

 「小さいほうで」

 「本当に良いのか」

 「はい」

 「ファイナルアンサー?」

 「ファイナルアンサー」

 「では答え合わせをするかの、まず大きなツヅラを開ける」

 オッサンが大きなツヅラが入っていた。

 そこには3重連ガチャ用の召喚符が30枚、その他、LR武器が10揃い。

 無茶苦茶いいじゃねえか!

 さて、小さいほうは……

 オッサンが小さなツヅラをあける。

 ちっこいメダルが1枚。

 「え、これだけ?」

 「これだけ」

 「ええええええええええええ!」

 「だから小さいほうでいいか何度も確認したじゃん、大きいほうがいっぱい入ってるの常識じゃね?

 自分が悪くね?」

 たしかにそうだった。

 おとぎ話で大きな箱を貰ったほうが酷い目にあうのは、あくまでも前世の世界の常識。

 ここは文化の風習も違う異世界だ。
 

 完全に見誤った。

 「じゃあ、これを貰って帰ります」


 オレは素直にその小さなメダルを貰って帰った。

 ヘルシー教会の温泉に行くと、ミルセラがオレの手の中に握られているメダルを見つける。

 「お?それ?おお!それ?!」

 何かすごく驚いている。

 「何ですか?」

 「それ、上級の魔王とか倒した時じゃないと手に入らない解放の秘宝じゃん!」

 ミルセラは目を見開いて叫んだ。

 「え!?それって!」

 「そうだよ、人間のレベルの上限は100。そこを超えようと思ったら、自分と同等の
 召喚符を手に入れなきゃいけない
 しかも、自分と同タイプの召喚符じゃないと重ねられない」

 オレの場合は戦士、
 つまりWarriorの召喚符だ。この解放の秘宝は
 どの種類、どのレアリティでも1回限界突破ができる魔法のメダルなのだ!

 「それって、LRやGRでもですか?」

 「うん、GRはやったの見た事ないからわからないが、LRまでは確実に行けるよ!」

 「やった!これで正解だった!」

 オレは飛び跳ねて喜んだ。

 そのあと、オレたちは温泉に入った。

 といっても、平日昼間のスーパー温泉。

 ポツンとオレしかいない。

 遠くのほうで女の子たちの声がきこえる。
 
 「きゃきゃっ」

 「てめえ!オレのオッパイ揉むんじゃねえ!」


 あーこれ、アニメとかだとサービスシーンとかなんだろうなあ。

 どうせオレは男湯だから見えねえや。

 声だけならいつもと同じだし。

 まあ風呂入ってすっきりしたからいいか。

 お風呂を出たら、しぼりたて牛乳。

 こっちはビン入りじゃないから雰囲気が出ないなあ。

 竹の器にはいっているんだよなあ。

 でも、こちらの牛乳は牛乳の上のほうに薄い脂肪の被膜がついていて、
 これがけっこう美味しい。

 この皮をめくって食べてから、中の牛乳を飲む。

 しぼりたて牛乳はこの被膜がないので味が均質だ。

 長い時間を置くと、被膜ができる。

 こっちの世界じゃ、搾りたて牛乳が高級品とされているが、
 オレは脂肪の被膜がついているやつのほうが好きだ。

 だけど、こっちの飲み物って微妙に生ぬるいんだよなあ。
 極限に冷えたのでも井戸に沈めて冷やしたのとかだし。

 キンキンに冷えたものがない。

 唯一、王様だけは、冬の間凍結した氷を地中深くに埋めた氷室から取り出した
 かき氷とか食べてるけど。
 
 一般人はそれも食べられない。

 ああ、これだけは前世が懐かしい。

 まあ、なんだかんだで楽しい一日だった。

 俺たちは風呂に入って、日頃の泥を落として原隊復帰した。

 イコマーに戻ると、早馬の伝令が来た。

 「タッカークーラーの巨大ホールから妖怪が出現しました!」

 タッカークーラーはチェリーブロッサムウイルの東にある。

 俺達は急ぎ、チェリーブロッサムウイルに向かった。

 チェリーブロッサムウイルの駅から見えたものは、そびえたつような巨大な
 女のバケモノだった。

 デカい、デカすぎる。

 これを放置したらタッカークーラーの街が壊滅する!

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