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15話 くそが!くそ!くそ!くそっ!

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 みんなが寝静まった夜中。

 オレはオソロシアを部屋に呼んだ。


 「なんだよ」

 オレは無言で服を脱ぐ。

 「な、なんだよ、いきなり、こっちにも心の準備ってもんがあんだよ」

 「まあ、そういうなよ、願いがあるんだ」

 「まあ、お前が相手なら初めてをささげてもいいんだけどよ」

 オソロシアは唇を噛んで顔を真っ赤にする。

 オレはオソロシアに背中を向ける。

 「背中を調べてくれ」

 「は?」

 「オレの背中にバックドアがついていないか調べてくれ」

 「この野郎!!」

 オソロシアはガツッとオレの頭を軽くゲンコツで叩いた。

 「いてっ、なにすんだよ」

 「なにもあさってもあるかよ、散々期待させやがって」

 「期待って何だよ」

 「なんでもねえよ!」

 「しっ、静かに」

 「何がしてえんだ、タケシはよ」

 「ずっと考えてたんだけどよ、オレって毎日この世界にいるよな」

 「当たり前だろ。毎日いるよ」

 「その、なんていうかログインボーナス的なものはないのかなって思って」

 「何言ってんだ?」

 「前に、もうちょっとで事前登録ガチャの黒足猫取らずに消滅しちゃうとこだったじゃん。
 オレ、こっちにきてからガチャらしいガチャ全然とってないんだよな」

 「は?適当にイベントで人材まわってきてんの、あれガチャじゃねえの?」

 「いや、あれはイベントで誰でも手にはいるやつじゃなのか?」

 「いや、これだけハイクラスなのがイベントゲットできないだろ。

 イベントで出てきた召喚符は全部俺様が背中に貼らせてもらってるけどよ、SRとか」

 「まじで!?」

 「おうよ、お前が忙しいと思ってオレが回っといてやったわ」

 「そういうの、早く言ってよ~、じゃあ、毎日もらえるPみたいなの、ないんだな」

 「あちょっとまって」

 オソロシアがオレの背中に手を伸ばす。

 「この取ってみたいなの何だ」

 オソロシアがオレの背中に手を伸ばす。

 ガツッと重みがかかる。

 何か取っ手を掴んだような感覚がある。

 ガラガラ~

 オレの背中の引き出しみたいなのが開いた。

 「なんだこれ」

 オソロシアが何か手に取った。

 「どれどれ」

 「ほい」

 オソロシアが差し出したのは貯金通帳と印鑑だった。

 「あとはえ~と福引の宣伝のチラシかな」

 「福引?」

 中身を見た。

 そこには福引なんて書いてない。

 「一回限定、スタートアップ武器防具ガチャ。
 一万円分の有償ポイントでなん武器ガチャ11回、防具ガチャ11回で計22回。
  期間限定LR防具LR武器一つずつ確定」

  と書いてある。

 なんだこりゃ。

 「どこに福引なんて書いてあるんだ」

 オレはオソロシアにチラシの紙を見せる。

 「ほら、ここ、町内福引大会って書いてあるだろ」

 「え?」

 オソロシアは今なら一万円という文字が書いてある場所を指さして一生懸命説明している。


 「あ?ごめん、お前字が読めなかったのか」

 「いや、そういうわけじゃないけど、まあ、ヤマトの文字はあんまり理解してないかもしれない」

 「また読めない字があったら言ってくれよ、読んでやるからな」

 オソロシアは満面の笑みで言った。

 オレにはこれが日本語に見える。

 オソロシアと見えている風景が違うのか。

 そして、次に貯金通帳の中身を確認した。

 「ああああああああああ!なんか毎日10pとかマイレージついてる~!」

 「うわ~すげ~、こんなのあったって知らなかったよ」

 オレとオソロシアはテンション爆上げした。
 けっこう貯まってる。

 「これどこの銀行だろ」

 「五井マジ友銀行じゃん、チェリーブロッサムウイルに支店ねえよ」

 「まじかよ、どこにいけばあんの?」

 「ナニワ」

 「うわ~」

 「じゃあ、こっちの銀行に振り替えなきゃいけないじゃん。どんな銀行があるの?」

 「ああ、何と!銀行とかかなあ」

 「うわ~めんどくせ~ナニワまで行かなきゃいけねえ」

 「ついてってやんよ、お好み焼きでも食べようぜ」

 オソロシアはニタニタ笑った。

 「なにをやってる!」

 開けっ放しの扉の外からシャンティーリーがさけんだ。

 「え~、何もしていないよ」

 オレがそう言って振り返ると、シャンティーリーはハッと目を見開く。
 
 「タケシ!お前なんて恰好してるんだ!さては、私とオソロシアと3人でHな事しようなんて
 不潔だ!おまえら不潔だ!」

 「そんな事言ってねえよ、何勘違いしてんだよ」

 オレとオソロシアはシャンティーリーをジト目で見た。


 それにしてもまだ軍の身分証明書が発行される前でよかった。

 オレはナニワの商業パスポートを使ってナニワに入国した。

 ナニワの街の風景は一変していた。

 街に貼られていた青系のポスター

 「世界平和を大事に」

 「国際社会と仲良くしましょう」

 「命を大事に」

 といったメアリー派閥が貼っていたポスターはすべてはがされ、

 赤系の

 「国防!」

 「今こそ祖国のために死のう!」

 「正義の戦争に身をささげよ」

 というような好戦的なポスターが目立った。

 街中に行くと、道路上に演台が設置されており、そこで、

 チンパンジーみたいな顔のヒョトッと背の高い男が演説をしていた。



 「みなさん!人工透析やってる連中なんて生きる価値ないんです!
 自分だけ贅沢してブクブク太って、あげくに内臓壊して貴重な魔導士と修復魔法つかって治療だ?
 あんなもの、いくら治療してもすぐに悪くなるんでしょ?あいつらは自業自得なんだ、あんな
 連中治療してやる必要はない!殺せ!」

 聴衆はヤンヤと喜んで喝采を送っている。

 いかれてやがる。

 社会的に立場が弱い人たちこそ守らねばならないのに。

 それが社会的な義だろう。

 オレはそう思ったが、ここで何を言っても連中の耳には届かないだろう。

 ほんとうに、ナニワは変わってしまった。

 「ナニワ鬼神の会」

 という立て看板が立ててあった。

 今、ナニワを実質支配しているのはカイトだった。

 そのカイトがナニワ鬼神の会という政党を立ち上げ、議会制民主主義を成立させたと風潮している。

 目新しいもの好きの若者たちはその姿に熱狂している。

 「なあなあ」

 喝采を送って飛び跳ねている若者にオレは声をかけた。

 「なんだよ」

 「この議会制民主主義ってよくわかんないんだけど、もし、この制度が失敗だったらどうするんだ?」

 「そんなもん、ダメだったらやり直したらいいだけじゃねえか、ああ、後のないオッサンには判らねえか」

 若者は嘲笑するように言った。

 やり直しがきかないこともある。

 死んじまった人間は生き返らない。

 やってダメならやり直し、そんな生半可な事で、制度を変えちゃいけないんだ。

 オレはそう思った。

 新しい事は何でも正しい、新しいものは正義、古いモノはすべて間違い。

 ここの連中はそんな思い込みにとらわれているように見えた。

 古いから駄目、新しいからいい、じゃなくて冷静に古いものでも新しいものでも
 何が正しいか自分の頭で考えて判断する知性が必要だ。


 オレは銀行に向かって、貯金全額を何と!銀行に送金してナニワの銀行口座を解約した。

 もう、ここには戻ってこないだろうから。

 銀行口座を解約するとき銀行員の男がすごい形相でオレを睨みつけていた。

 「あんた、財産を外国にうつして、戦争から逃げるつもりなのかい?」

 「いえ、元々ヤマトの人間で、あちらに引っ越すので」

 「ウソつけ、この腰抜けの非国民め!」

 大声で銀行員の男が叫んだ。

 周囲の人々がすごい形相でオレを睨んだ。

 やばい、やばい。

 「なんだ、てめえら」

 オソロシアが殺気立つ。

 「やめとけ」

 オレはオソロシアの首根っこを掴んで、すごすごと銀行を出た。

 なんか違う、

 オレの思っていた愛国心と違う。

 なんか、祖国への忠誠というより、集団の熱病がこの国を支配しているように見えた。

 久しぶりにひっかけ橋を通った。
 
 橋の上から下を見下ろしてゾッとした。

 次から次へと病院の白い服を着た死体が川を流れていく。

 役立たずとして切り捨てられて身投げしたか、それとも、
 川に放り込まれたか。

 合理主義の名の元、きりすてられる弱者。

 これはオレが求めていた国家じゃない。

 オレはナニワを去って正解だったと思った。

 ただ、監禁され、象徴として利用されているフィリップの事だけが心配だった。


 ヤマトに帰ってきたオレは、倉庫に残ったガラス製品を整理してナラーに売りに行くことにした。
 大多数は先にアメショが馬車に積んでもっていったので、残っているのは小物だけだった。

 オソロシアと黒足猫にリュックに入れて担いでもらって、ナラーに向かう。

 当然、オレは一番重たい荷物を持った。

 ナラーに行って、投げ売りで在庫を全部投げ売りで売り払った。
 けっこう安かった上に骨董屋の主人が変な事をいった。

 「申し訳ねえな、今金の持ち合わせがすくなくてな、金の代わりに、半分、
 この町内福引大会の福引券でカンベンしてくれねえか」

 「は?なめてんのか。かなり安く買いたたいた上に半額は福引券で支払いだと?」

 と、そこまで言ってオレは、ふと思い至った。

 どう考えても、支払いの半分を福引券とか妙だ、
 これは、もしかしたらイベントか?オモシロイベントなのか?!

 おれはポケットから財布を出す。

 あと、少ししか残っていない現金、そのなけなしの金から1万円だして主人に差し出す。

 「これも買ってくれないか?」

 「なんだこの紙切れ」

 店主は1万円札をクシャクシャに丸めてポイと後ろに放り投げた。

 「何しやがる、てめえ!」

 オレが店の主人の胸倉をつかんだとき、

 後ろでカランカランカランと金属音がする。

 「は~い、あんたの連れが福引券つかっちゃったから、商売成立な。もう支払いは済みました~。
 べろべろべ~」

 店の主人は舌をべろべろ出して挑発した。

 「この野郎~、じゃあ、さっきの一万円返せよ」

 「この紙切れも代金のうちだからかえせませ~ん。悔しかったら福引券返せよ」

 「くそが!くそ!くそ!くそっ!」

 俺は悔しさのあまり、その場で何度も足踏みした。

 勝手な事しやがって!


 オレは店の外に出る。

 「やたー、LRの武器ゲットした~」

 黒足猫が何か鉄のこん棒みたいなもの掴んで見せびらかしている。



 「え?」

 オレは目が点になった。

 「やったー!オレもLR防具、ルーンシールドを手に入れたぜ!」
 
 オソロシアが大喜びしている。


 「は?」

 オレは唖然とした。

 「いや、いや、いや、いや、町内会の福引のガラガラで、LRの武器が手に入るとか
 おかしいやろ!世の中間違ってるやろ!何で町内会の福引でだなあ」

 「あ、嫌なら景品と交換しますよ」

 頭の禿げた町内会のオッサンが言った。

 「何と交換してくれんだよ」

 「チョコレート3枚」

 「おっかしいやろ!LRの武器がチョコレート3枚ておかしいやろ!」

 オレは激怒のあまり、その場でピョンピョン跳ねた。

 「絶対交換しねえからあ!」

 「オレもオレも!」
 
 黒足猫とオソロシアに猛抗議された。


 交換はしないけどな。
 まあ、考え方によっちゃラッキーだった。
 このほかにもURの武器や防具が出るかもしれないし。

 オレは残りの福引を引いた。

 エビせんべい、鉛筆、ワラ縄、乾燥大豆一袋。残り全部、クッキー一枚ずつ。


 「なじゃこりゃああああー!」

 「いや、町内会の福引なんだからこんなもんでしょ。町内の人が景品持ち寄ってるんだから」

 冷静に町内会のオッサンが言った。

 「あ、はい」

 オレは呆然とその場に立ち尽くした。






 

 
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