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二十二話 市場開放

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 今川館に帰ってくると定様が門前でお待ちであった。

 「どうした、そなた目の周りに黒いくまができておるぞ」

 義元公がお聞きになられた。

 「はい、御屋形様がお帰りになるまで寝ずにお待ち申し上げておりました」

 それは無茶だ、ここは叱らねばならぬ。

 そんな事を続けていたら過労で死んでしまう。

 「よく待っておった。それでこそ武家の妻ぞ、よしよし」

 義元公は笑顔で定様の頭をなでられた。

 お上がこのようでは家中の女房共も苦労が絶えぬことであろう。

 定殿は満面の笑顔を浮かべておられた。


 富士川以東は完全に北条に制圧された。

 勢いに乗って富士川を越えて興津にまで出てきた北条軍の一部と
 今川軍全軍が対峙して睨み合った。

 こちらからは積極的に攻勢に波出ず、
 北条の浪費を待った。北条方の兵糧は富士川を渡って補給せねばならず、
 当方はその荷駄隊を徹底的に狙い撃ちにした。

 川を渡って動きが鈍くなった兵は面白いように矢に当たった。

 こちらの意図に気づいた北条軍は富士川を渡って撤退していった。

 北条がこれ以上駿河に侵攻してこない状況を見極めた上で
 当方は全力で堀越と井伊を攻めた。

 北条の後ろ盾を失った事を知るや
 堀越と井伊は容易く降伏した。

 義元公は大変なお怒りで堀川、井伊とも一族郎党皆首をはねて
 富士川の河原に晒す事をご所望であったが、
 雪斎様がそれを止められた。

 窮鼠猫を噛む、の例えもある通り、
 追い詰めれば相手も死にものぐるいになる。

 完全に殲滅するにはさらなる兵力を消耗せねばならず、
 当方にとって利益がない。

 ならぬ堪忍をするが堪忍とて、ここはお許しあるよう、
 義元公に進言なされた。

 義元公とてこの道理はお分かりである。

 悔しさに拳を握りしめられながらも、
 井伊、堀越を許すことにした。

 しかし聡明な義元公の事、このままでは済まされなかった。

 堀越が持っていた座の利権を全て庶民に開放し、
 堀越が独占していた物品に関しては誰でも自由に売り買いしてよいと
 お達しを出された。


 このため、近隣の甲斐から商人が押し寄せ
 友野二郎兵衛尉などが沼津で唐国からの木綿輸入の商いなどを始めた。

 伊勢長島からは一向宗が大挙して訪れ、
 これにはさすがに国内に入れるべきではないとの声が家中から上がったが、
 義元公は国柄一切差別せずと仰せになり、
 他国者の入国規制を緩和された。

 中でも一向宗願証寺派の僧侶服部友貞は義元公の温情にすがり、
 長島の一向宗を多数遠州に入れた。

 服部友貞は本願寺の持っている巨万の富を背景とし、
 義元公だけではなく、今川家重臣に多額の賄を送った。

 このため、群臣こぞって一向宗を擁護する有様となった。

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