ねこのフレンズ

楠乃小玉

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五十話 ニンマリと笑う

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 チカンちゃんの声に振り向いたドカンちゃんは目を見張った。
 そう、あったのだ、
 たしかにそこにあった。

 楽園はここにあったのだ……。

 ものすごく巨大な駐車場、その向こうに今まで見たこともない植物専門店があった。
 ホームセンターではない、
 
 植物専門店。

 ホームセンターよりも大きなお花と植木の売り場。
 咲き乱れる花々。そびえたつ巨大な植木。

 「すごい!すごすぎる!」

 ドカンちゃんは身震いした。
 
 ドカンちゃんは右を見て、左を見て、
 車が来ていない事を確認した上で道路を渡った。
 「すごーい!すごーい!」
 チカンちゃんは買い物かごの上でピョンピョン跳ねた。

 そこは……
 明宝園の本店だった。
 ドカンちゃんとチカンちゃんが中に進んでいくと、
 髪の毛がバサバサでハリネズミみたいな髪の毛の女の子が建物の中から出てきた。
 服は、高松塚古墳の壁画に描かれているような服を着ている。
 
 体の大きさはチカンちゃんと同じくらい。

 「やあやあ、こんにちわ 私は茶虎の地霊、チャトランだよ」

 ドカンちゃんのところまでいくと、ドカンちゃんの太ももに抱きついた。
 「しゅき」

 「ぴゃー!なれなれしいぞー!」
 
 チカンちゃんが怒った。
 チャトランはチカンちゃんを見る。
 
 「な、なんだよ、やるか!」
 チャトランはチカンちゃんの処にやってくる。
 「しゅき」
 チャトランはチカンちゃんを抱きしめる。
 
 チカンちゃんの顔がカーッと赤くなる。
 「しゅき」
 チカンちゃんは抱きかえす。

 「もう、何やってんですかあ」
 ドカンちゃんが困り顔で言った。

 「さてさて、今日は何のご用で来られたかな。
 植物の事なら何でもござれ」

 「あの、猫ちゃんが好きなお花とかありますか?」

 「あるある、ハーブがあるよ」
 「ハーブは猫ちゃんに毒じゃないんですか?」
 
 「毒なのもあるし、毒じゃないのもある。
 アロマオイルではオレンジ、ユーカリ、ティツリーなどはよくないねえ」
 
「そうなんですね」

 「猫が大丈夫なものというと、燕麦つまりキャットグラスだけど、ハーブだとレモングラス」

 「うわっ!ありがとうございます。やっと猫ちゃんに安全なハーブが見つかりました」
 
 「ただし」
 「ただし?」
 
 「レモングラスはすごく根が張るよ。
 他の植物と一緒に植えたらレモングラスの根が張って、ワチャワチャになっちゃうかもね。
 レモングラスだけで別の大きめの植木鉢に隔離したほうがいいね。
 あと、葉が堅いから手で引きちぎろうとすると指が切れるかもしれない。
 軍手をしてハサミで切るのがいいね」

 「レモングラスって素敵な名前ですね、それでどんな花が咲くんですか」
 「咲かない」
 「は?」
 「咲くけど観賞用じゃない。ハーブはたべるものだから」

 「じゃあ、やっぱり猫ちゃんの好きな草は燕麦とかレモングラスとか稲や麦の仲間で、
 お花が咲くものは無理なんですね」

 「そんな事もないよ」
 「それを教えて下さい」

 チャトランはドカンちゃんの顔を見る。
 ニンマリと笑う。

 「キャットニップ」
 「え?そんな名前の花があるんですか?というか花ですよね」
 「そうだよ」
 「どんな花なんだろう」
 「こちらにおいで」
 チャトランが手招きする方にドカンちゃんは歩いていった。
 「うわっ、青くてかわいいお花」
 チャトランが指さす方向には青くて小さなお花がいっぱい咲いていた。
 「あの……他には何かありますか?」
 「キャットミントかな。ただし」
 「ただし?キャットニップは猫ちゃんが興奮する場合があるから
 乾燥して大量に与えたりしたらだめだよ。あと猫ちゃんによっては
 嘔吐する場合があるから、そういう猫ちゃんには与えたらだめだよ。
 レモングラス好きとキャットニップ好きがいるから。あとマタタビも好きだけど、
 フラフラになるから、かわいそうだし、あんまりあたえないほうがいいね。
 あとはバレリアンかな」

 「そっかー、結局、レモングラス、キャットニップ、キャットミントの三つくらいなんですね。
 けっこう少ないですね」
 
 「まあ、それだけではないけどね」
 「なにか、探すヒントはないですか?」
 「ヒントはシソ科。シソ科の植物は猫ちゃんに無害なものは多いよ。
 ラベンダーはシソ科だけど毒だよ。
 シソ科なら何でもいいわけじゃないから、
 わからなければ植えないこと。
 猫ちゃんのいる庭に植える前にちゃんと、無害か有害か調べてね」
 「はい、分かりました!」
 ドカンちゃんは満面の笑みを浮かべた。
 「おやおや、これはよい笑顔だね。
 気に入った。
 もう少し教えてやろうかね。
 ただし、ここから教える植物は、猫ちゃんの個体差があって、
 ダメな猫ちゃんもいるから、
 もし家に植えて猫ちゃんの元気が無くなったら即座に植えるのをやめてね。
 すべては個体差。
 平気な子もいるしダメな子もいる。
 人間でもアレルギーをもっている子はいるからね。
 それを心得て聞いてね。
 
 ペペロミア
 ホテイチク
 バジリコ
 カトレア
 コリアンダー
 ヤグルマギク
 マニラヤシ
 ヤナギラン
 エピスシア
 ヒポエステス
 キンギョソウ
 レンギョウ
 エケベリア
 ジャスミン
 カンノンチク
 ムサイカ
 クワ
 オオバナカリッサ
 グズマニア
 シロガネヨシ
 インパチェンス
 ペチュニア
 ショクヨウカンナ
 バラ
 サルビア・コッキネア
 エケベリア
 アウレンティカ
 ホウビカンジュ
 オリヅルラン
 ノイチゴ
 アレカヤシ
 ヒャクニチソウ
 ここまで言ったけど、
 この中で竹の類いは植えると根がはびこって
 庭が大変な事になるから地植えはしないほうがいいね。
 あと、バラはトゲがあるから猫があ危ないよ。


 次に
 猫にとって猛毒の危険な植物ね。
 タマネギは有名だけど、
 ユリ科も危険、チューリップも毒、シクラメンもね。
 スモモ属、ナス科、キンポウゲ科、サトイモ科
 は要注意だよ」

 「すごい!すごい!ものすごい知識ですね。ここを一生懸命
 探しにきたかいがありました!
 ドカンちゃんは感動して目をキラキラさせた。
 
 チャトランは相変わらず飄々としている。

 「ではでは、ここ、明宝園を案内するよ」
 ニッコリ笑ってチャトランは言った。
 レジの横に置いてあった岩岡産のイチゴパックをチカンちゃんが拾い上げ
 チャトランの頭の上にのせる。
 チャトランはニコニコしたままよけない。

 「だめだよ、チカンちゃん、売り物なんだから」
 ドカンちゃんがあわててそれをのける。

 「さあさあ、ついておいで」
 
 チャトランのあとをついて室内の階段を上っていくと、
 そこにはキレイなアジサイがあって、その横にはアザレアがおいてあった。
 奥には室内植物が沢山ある。
 主に多肉植物だ。
 「ここにあるもので、猫ちゃんに危険なものがありますか?」
 「そうだね、あじさい、サツキ、はもちろんだけど、注意しなければならないのは
 トウダイグサ科だね。日ごろはお目にかからなくても、クリスマスの時に
 お土産で貰うポインセチアなども危ないよ」
 
 「そうだったんですね、知りませんでした」

 「エアプランツもパイナップルと近種だからやめといたほうがいいかもね」
 「え?パイナップルもダメなんですか?」
 「うん、レモンとかミカンとかの柑橘類もだめだよ」
 「へー知らなかった」

 そこの部屋を見回ったあと、階段を降りて別の部屋にいく、そこに置いてあったのは
 胡蝶蘭だった。
 「胡蝶蘭は大丈夫だよ」
 チャトランはニンマリと笑う。
 ドカンちゃんは値段を見る。
 無茶苦茶高かった。
 「とっと無理ですね」

 そこから外に出ると沢山の楓があった。
 「楓はどうですか?」
 「大丈夫じゃないかなあ。でも、色々な種類があるから、自分でもちゃんとしらべてね」
 「はい分かりました!ありがとうございます!」
 ドカンちゃんは頭を下げた。

 一通り見た後、ドカンちゃんとチカンちゃんは明宝園をあとにした。
 
 チャトランは玄関まで送ってくれて、いつまでも、いつまでも柔和な笑顔で手を振って見送ってくれた。

 

 


 
 
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