鬼嫁物語

楠乃小玉

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二十七話 浮野の戦

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駿河より今川義元の脅威が迫りくる中、織田信長は尾張上半郡守護代織田信安との強力を模索していた。
信安に協力を求め、茶器などを送って融和を説いた。

 外的が迫るなか織田氏同士で戦っていても敵を利するばかりだ。

 しかし、織田信安はなんと息子の織田信賢と仲違いを起こし、内紛を起こされて
 追放されてしまった。

 これに対して信長は織田信安を保護し、犬山の織田信清とともに織田信賢を挟撃した。

 織田信清は信長の事があまり好きではないそぶりを度々見せていたが、
 上半郡守護代織田家とは度々領地紛争を起こしており、
 こちらに対する憎しみが信長に対する嫌悪より増したようであった。

 織田信長と織田信清の連合軍は織田信賢と浮野で合戦することとなった。
 永禄元年のことである。

 この度の戦いにおいては佐久間家としても大きな被害があった。
 
 弓の名手林林弥七郎が鉄砲の名手橋本一巴と射撃勝負を行い、
 お互い相打ちとなったのだが、

 まだ息があった林弥七郎を討ち取りに行った佐脇藤八が林弥七郎
 
 身内筋である佐脇藤八が弓の名手林弥七郎に一騎打ちを挑み、
 右ひじを切り落とされたのだ。

 佐脇藤八は見事林を討ち取ったものの、代償は大きかった。

 橋本一巴は織田信長の大きな精神的支柱であったため、
 信長の落胆は大きく、以後、楠正成の子孫を探して
 家臣に加えるという事を盛んに行っていた。

 神野民部少輔が配下として加わり厚遇された。

 あと、織田信賢側として戦った蜂須賀小六という武士が
 取られられ、成敗されようとしていたが、
 必死に自分は楠木正成の子孫であると主張した。
 このため、落胆気味であった信長は蜂須賀小六の助命を許した。

 しかし、家中には命惜しさの虚言ではないか言うものもあり、
 信長は、同盟関係にあった織田信清に蜂須賀小六を紹介し、
 蜂須賀小六は織田信清の家臣となった。

 そのあとも信長は随時、楠木正成の子孫を探し続けることとなる。

 佐脇藤八は一命はとりとめたものの、武芸一筋の者であったので、
 落胆が酷かった。

 織田信長は、度々佐脇藤八の元を訪れ、励ましたので、藤八は感動し、
 また信長のために戦うことを決意したようであった。

 藤八の姉は西加藤家の加藤隼人の嫁である。

 藤八の姉は佐脇家に足しげく通い、藤八の看病をしていたようだ。

 加藤弥三郎の妹である左京亮の妻の多紀も、藤八の看病に行っていた。

 加藤家、佐久間家、前田家は密接な関係にある。

 そうこうしているうちに、今度は佐脇藤八の兄、前田利家が
 織田信長の傍近くに仕える同朋衆の十阿弥を切り殺してしまったため
 信長は激怒したが、岩室長門守らが「前田利家は佩刀の笄はいとうのこうがいを盗まれたために
 切り殺したのであり、治安を乱したのは十阿弥である」と主張したほか、多くの
 助命嘆願が行われたので、信長は利家の討伐の兵をあげるのは断念した。

 まことに近年前田家では災難続きであった。

 加藤家はと言えば、加藤弥三郎の兄である加藤順政よりまさが、謀反を起したて討たれた
 信長の弟、オダ信勝に武器を売っていた書状が信長の手に渡り、信長の不興を買っていた。

 加藤家は織田信長が家督を継いで以降、信長を支え続けてきた家ではあったものの、
 この時の事が禍して、後まで大名として取り立てられることはなかった。

 弥三郎は、この事を赤川景弘の手先である木下藤吉郎の策謀であると思い込んでいるようであり、
 赤川景弘に激しい怒りを抱いている様子であった。

 このように、佐久間左京亮の周囲では色々とゴタゴタが起こってはいたものの、
 織田信長は事実上尾張を統一し、豊かな土地と多くの財を得たのだった。

 これで、尾張の国も安定すると思われた矢先、
 守護斯波義銀の謀反が発覚したのである。

 斯波義銀は吉良義昭と手を組んで、信長に謀反を起そうとしたが、これは
 明らかに今川義元による画策であることは分かった。

 今まで、命を救ってもらい、親の仇を討ってもらい、清州城まで与えられた
 斯波義銀が謀反を起したことで織田家臣団には大きな怒りが巻き起こり、
 捕らえた斯波義銀に切腹させようという声が大きかったが、
 信長は主君のクビを取るのは忍びないと言って、斯波義銀を京に追放するにとどめた。

 
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