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目覚め

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「ん……? ここは……?」

 目を開けると見慣れた天井が見えた。
 周囲を見渡し、ここが自分の寝室であることが分かり安堵する。
 ベッド付近にあるサイドテーブルへと手を伸ばし、その上に置いてある小箱を取った。

「ジョエル様……」

 小箱を胸に抱き、カロラインは切ない声で愛しい人の名を呼んだ。
 この中に入っているのは彼がくれた透明な水晶。お守りとしていつも自分の近くに置こうと決めたこれがあの悍ましい男から守ってくれた。そのことが嬉しくてたまらない。

 叶うのなら、今すぐにでもジョエルに会いたい。
 会ってその胸に飛び込み「怖かった」と縋りつきたい。
 遠く離れていても守ってくれる彼が愛しくて、涙が出そうになる。

 恐ろしい夢だった。
 操られていたのだろうか、自分の意志ではないものが自分の体を動かしていたように思える。

 そうでなければ、夢の中とはいえあんな獣みたいな男の名を呼び、あまつさえその胸に飛び込もうなど思えない。  
 それはどう考えても自殺行為だ。

 あのまま、あの男に捕まっていたらどうなっていただろう……。
 おそらくはカロリーナのような目に遭うに違いない。考えただけでゾッとする。

「そういえば……以前、夢にカロリーナが出てきた時『あいつがまた来る』みたいなことを言っていたわね……」

 彼女は『花を返さないとまた花嫁になってしまう』とも言っていた。
 また、というのは“生まれ変わってもまた”という意味だろうか。
 カロリーナは死んで生まれ変わっても、またあの男の花嫁になることを恐れてカロラインに忠告してきたのかもしれない。

「あんな花、受け取らなければよかった……」

 “知らない人から物を貰ってはいけません”と親が子供に注意する言葉がある。
 あの注意は正しい。だって見知らぬ者から何かを貰った結果がこれだから。
 きちんと『これは受け取れません』と拒否すべきだったのだ。
 そうしておけばあの神を自称する男と縁が切れたかもしれないのに。

 しかしこうやって後悔していてもどうしようもない。
 受け取ってしまったことは事実だし、無かったことには出来ない。
 幸いにして今日は教皇と会う約束の日だ。この件も含めて相談し、解決へと導くしかない。
 
 そう決意したカロラインは教会へと行く準備をする為起き上がった。
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