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それぞれの親子間の話し合い

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「……失礼、少々席を外させて頂きます」

 お二人にお茶のおかわりを、とメイドに命じてサラマンドラ公爵は席を立った。
 片手でレイモンドの襟元を掴みながら……。



「お前は一体どういうつもりだ!?」

 応接間に客人を残し、サラマンドラ公爵は別室にてレイモンドを怒鳴りつけた。
 真っ赤な顔で怒る公爵とは対照的に公子は涼しい顔で答える。

「どうもこうも、グリフォン公女に求婚しただけですが?」

「だけ……じゃない! この馬鹿者が! 玉座を奪う云々の大切な話の最中に求婚する馬鹿がどこにおる!?」

「何を仰いますか、父上。これも大切なことですよ。当家が王権を手にするということは、必然的に私は王か王太子になりますよね? ならば私の婚約者は必然的に未来の王妃。その座に相応しいのは王妃教育を受けたグリフォン公女こそが最も相応しくあります」

「それはそうだが……何もあの場で言うことはないだろう!? それに当家が王権を手にするのであれば、グリフォン公女は必然的にお前の婚約者になるだろうし……」

 王妃教育を受けた令嬢が王妃となるのは自然な流れ。
 この国で王妃教育を受けた未婚の令嬢はミラージュとアンゼリカだけ。
 そうなると肉親のミラージュは省かれ、必然的にアンゼリカがその座に就くことになる。

あの場で求婚をしたのですよ。必然的な流れで婚約者になるのではなく、私が彼女を望んでいるのだと知ってもらいたい」

「……は? お前、まさか公女に懸想していたのか……?」

 公爵の質問にレイモンドは力強く頷いた。

「……まさかお前……公女を同席させるよう要請したのか?」

 当初話し合いにはグリフォン公爵だけを招く予定だった。それをアンゼリカも同席させるよう頼んできたのはレイモンドだ。何も疑問を感じずに承諾するのではなかった、と公爵は今更ながら後悔した。

「そういうのは二人きりになった時にしろ! 親の前でするな!」

「私だってそうしたかったですけど、そんな時間は無かったではありませんか? 王太子の婚約破棄にせよ、グリフォン公爵閣下のご提案にせよ、早すぎます。二人きりになって求婚する間すらありませんでしたよ。あの場以外のタイミングが他にありましたか?」

「う……それは、確かに……」

 婚約中のアンゼリカに求婚するような真似は非常識と思われそうで出来ない。
 そうなると確かにあの場以外のタイミングなどなかったといえる。

「……なら、時間をやるから公女ときちんと話をしてこい。あんな場でいきなり求婚なぞするから、公女はひどく驚いていたじゃないか」

 確かにアンゼリカにしては珍しく、驚きに満ちた表情をしていた。
 そんな彼女の顔も可愛かった、とニヤつく息子の背中を公爵は力いっぱい平手打ちし、応接室に戻るよう促す。


 
 サラマンドラ公爵親子がそんな言い合いをしていた時、応接室では残されたグリフォン公爵親子が静かに話し合いを続けていた。

「……アンゼリカ、お前は公子とそういう関係だったのか?」

「お父様、そういう関係とは……?」

 娘の質問に公爵は淹れたばかりの薫り高いお茶を飲み、喉を潤してから口を開く。

「お前は公子と恋仲だったのか、という意味だ」

 心なしか公爵のカップを持つ手が震えていた。
 いかに強靭な精神の持ち主といえども、目の前で娘が求婚されたことに対し動揺を隠せない。

「いいえ? そのような事実はございません」

「そうか……。だが、公子はお前に懸想しているようだったが……」

「あら、そうなのですか?」

「うん? 多分な……。儂も色恋沙汰には疎いので断言は出来ぬが……」

 政治や経営に関しては猛者といえる公爵といえども色恋沙汰は範疇外だ。
 特に娘が絡むと余計にハッキリとしたことは言えない。

「まあそれはいいとして、返事はどうするつもりだ?」

「え? それは当主であるお父様がお決めになることでは?」

「政略に関わる婚約であれば儂が決めるところだが、色恋が関わるなら範疇外だ。お前に向けられた想いには、お前が答えなさい。儂はお前の選択を尊重しよう」

 娘を尊重する素晴らしい言葉を放つ公爵に、その場にいる使用人達は感動した表情を浮かべた。子供の自由意志などない、政略が当然の貴族の婚姻に対してこんな言葉を告げてくれる父親は少ない。それを公爵という高位の身分の人物が発言したことに彼等はいたく感動した。

 だが、娘であるアンゼリカには分かっていた。
 父は単にだけであると。

 あらゆる分野において優秀な父だが、色恋に関して苦手意識がある。
 特に娘が関わる恋愛沙汰は体がむずがゆく感じるほどだ。心なしか父は先ほどからソワソワしており、時折さりげなく体を掻いている。

「ありがとうございます、お父様。では、わたくしの方で公子様と話をしてみますので」

 アンゼリカが気を利かせてそう答えると公爵はあからさまにホッとした。
 それを見て彼女は完全無欠と思われた父親にも苦手なものがあるのだな、と少しだけ驚いた。
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