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禁じられた逢瀬④
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「……やっぱり鍵は閉まっているか」
別邸に着いたスミス男爵はまず裏口へと回った。
業者が食料や日用品を運搬するこの場所は通常鍵が開いているものなのだが、今はご丁寧に内側から施錠されているようだ。
「この分だと表の扉も鍵が閉まっているだろうな……。ますます怪しいよ、中に何を隠しているんだか……」
両親も不在、使用人も不在、ということは中は今無人のはずだ。だが、貴族が住む邸が無人になるということはまずない。家主が不在の時でも必ず使用人が常駐するものだ。
それが家主自ら中を無人にして、ご丁寧に鍵まで施錠して外から誰も入れなくしている。平民ならば普通の事でも、貴族なら異常なことだ。
これでは、中に何かを隠していると言っているようなものだ。
「しまったな、護衛でも連れてくればよかった……」
邸の中に凶悪な犯罪者でも隠しているのではないか、という発想に至った男爵は顔を青褪めさせた。一応護身用の拳銃は持っているが、これでどこまで自分の身を守れるものか……。
一瞬躊躇した男爵だが、すぐに気を持ち直した。
仮にそうだとすれば、早急に対処しないことには家に被害を及ぼしかねない。
犯罪者をかくまっているなどと王家に知られたのなら一家全員処刑もあり得る。
大切な妻と子を守るため、と気合を入れてポケットから別邸の鍵束を取り出した。
「裏口の鍵は……ああ、これか」
別邸の管理者は本邸の当主、つまりはスミス男爵にある。
当然別邸の鍵一式は本邸に保管されており、男爵は万が一を考えてそれを持参してここまで来た。
鍵穴に鍵を差し込み、音を立てないようにそっと扉を開けて中に入る。
すると何処からか若い男女が楽しそうに話す声が聞こえてきた。
恐る恐る声のする方へと足を進める。どうやら声の主は日当たりのいいサンルーム辺りにいるようだ。
「誰だ、あいつらは……!?」
物陰からそっとサンルーム内を覗いた男爵は思わず声をあげてしまった。
幸い中にいる人物たちは話に夢中で男爵の声に気づかなかったらしく、楽しそうにお喋りを続けていた。
「ルルナ……私は君といるこの時間が一番幸せだ。ああ……このまま時が止まってしまえばいいのに……」
「エド様……私もです」
中にいたのは二人の若い男女だった。
金の髪の男とピンクブロンドの女がソファーでイチャついている。
(金髪……? まさか、王族か……!?)
髪色から男の正体が王族ではないかと気づいた。
だが、何故王族の人間がこのような場所でこんなことをしているのだろう……。
男爵はもう少し傍で確認する為、こっそりと部屋の中へと入る。
幸いにして彼等は互いに夢中なようで、周囲の小さな物音など気にも留めていないようだ。室内にある大きな調度品の後ろに隠れ、そっと息をひそめて彼等の方へと目を凝らした。
(……っ!? あの顔……やはり王太子殿下……!)
男の顔には見覚えがあった。
式典等で何度も拝んだことのあるその顔。次代の王……王太子その人だった。
(どうしてここに王太子殿下が……? それに隣の女は誰だ……!?)
どう見ても恋人同士の触れ合いを見せる二人。
まるで秘密の逢瀬を楽しんでいるかのように見える。
「エド様……いつまで私達はこんな風に隠れて会わなければいけないのでしょうか? ただ愛し合っているだけなのに、こそこそ隠れなきゃならないなんておかしいわ……」
「ごめんよ、ルルナ……。全てはあの忌々しい女、アンゼリカの仕業なんだ。あの女が私達の仲を嫉妬して理不尽な王命を出させたから、私達はこうして隠れて会わねばいけなくなった……。本当ならばまた以前のように王宮に君を招きたいというのに……!」
(アンゼリカ……? それって王太子殿下の婚約者、グリフォン公爵令嬢の事か……?)
話の内容は分からないが、この女が王太子の婚約者であるグリフォン公爵令嬢ではないことだけは分かる。婚約者以外の女と逢引きをする、つまりは不貞ということ。
(いやいやいや……まさか、母上は王太子殿下の不貞の手引きをしているのか? 嘘だろう……)
このピンクブロンドの女の正体は分からないが、この邸で不貞を犯しているということは確かだ。
そして母親がその手引きをしていることも。
(おいおい……それってつまり、グリフォン公爵家を敵に回しているようなものだぞ? 不味いだろう、それは……)
男爵はグリフォン公爵家と関わったことなどないが、この国で最も逆らってはいけない相手というのは知っている。国王ですらも逆らえない相手だということも……。
別邸に着いたスミス男爵はまず裏口へと回った。
業者が食料や日用品を運搬するこの場所は通常鍵が開いているものなのだが、今はご丁寧に内側から施錠されているようだ。
「この分だと表の扉も鍵が閉まっているだろうな……。ますます怪しいよ、中に何を隠しているんだか……」
両親も不在、使用人も不在、ということは中は今無人のはずだ。だが、貴族が住む邸が無人になるということはまずない。家主が不在の時でも必ず使用人が常駐するものだ。
それが家主自ら中を無人にして、ご丁寧に鍵まで施錠して外から誰も入れなくしている。平民ならば普通の事でも、貴族なら異常なことだ。
これでは、中に何かを隠していると言っているようなものだ。
「しまったな、護衛でも連れてくればよかった……」
邸の中に凶悪な犯罪者でも隠しているのではないか、という発想に至った男爵は顔を青褪めさせた。一応護身用の拳銃は持っているが、これでどこまで自分の身を守れるものか……。
一瞬躊躇した男爵だが、すぐに気を持ち直した。
仮にそうだとすれば、早急に対処しないことには家に被害を及ぼしかねない。
犯罪者をかくまっているなどと王家に知られたのなら一家全員処刑もあり得る。
大切な妻と子を守るため、と気合を入れてポケットから別邸の鍵束を取り出した。
「裏口の鍵は……ああ、これか」
別邸の管理者は本邸の当主、つまりはスミス男爵にある。
当然別邸の鍵一式は本邸に保管されており、男爵は万が一を考えてそれを持参してここまで来た。
鍵穴に鍵を差し込み、音を立てないようにそっと扉を開けて中に入る。
すると何処からか若い男女が楽しそうに話す声が聞こえてきた。
恐る恐る声のする方へと足を進める。どうやら声の主は日当たりのいいサンルーム辺りにいるようだ。
「誰だ、あいつらは……!?」
物陰からそっとサンルーム内を覗いた男爵は思わず声をあげてしまった。
幸い中にいる人物たちは話に夢中で男爵の声に気づかなかったらしく、楽しそうにお喋りを続けていた。
「ルルナ……私は君といるこの時間が一番幸せだ。ああ……このまま時が止まってしまえばいいのに……」
「エド様……私もです」
中にいたのは二人の若い男女だった。
金の髪の男とピンクブロンドの女がソファーでイチャついている。
(金髪……? まさか、王族か……!?)
髪色から男の正体が王族ではないかと気づいた。
だが、何故王族の人間がこのような場所でこんなことをしているのだろう……。
男爵はもう少し傍で確認する為、こっそりと部屋の中へと入る。
幸いにして彼等は互いに夢中なようで、周囲の小さな物音など気にも留めていないようだ。室内にある大きな調度品の後ろに隠れ、そっと息をひそめて彼等の方へと目を凝らした。
(……っ!? あの顔……やはり王太子殿下……!)
男の顔には見覚えがあった。
式典等で何度も拝んだことのあるその顔。次代の王……王太子その人だった。
(どうしてここに王太子殿下が……? それに隣の女は誰だ……!?)
どう見ても恋人同士の触れ合いを見せる二人。
まるで秘密の逢瀬を楽しんでいるかのように見える。
「エド様……いつまで私達はこんな風に隠れて会わなければいけないのでしょうか? ただ愛し合っているだけなのに、こそこそ隠れなきゃならないなんておかしいわ……」
「ごめんよ、ルルナ……。全てはあの忌々しい女、アンゼリカの仕業なんだ。あの女が私達の仲を嫉妬して理不尽な王命を出させたから、私達はこうして隠れて会わねばいけなくなった……。本当ならばまた以前のように王宮に君を招きたいというのに……!」
(アンゼリカ……? それって王太子殿下の婚約者、グリフォン公爵令嬢の事か……?)
話の内容は分からないが、この女が王太子の婚約者であるグリフォン公爵令嬢ではないことだけは分かる。婚約者以外の女と逢引きをする、つまりは不貞ということ。
(いやいやいや……まさか、母上は王太子殿下の不貞の手引きをしているのか? 嘘だろう……)
このピンクブロンドの女の正体は分からないが、この邸で不貞を犯しているということは確かだ。
そして母親がその手引きをしていることも。
(おいおい……それってつまり、グリフォン公爵家を敵に回しているようなものだぞ? 不味いだろう、それは……)
男爵はグリフォン公爵家と関わったことなどないが、この国で最も逆らってはいけない相手というのは知っている。国王ですらも逆らえない相手だということも……。
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