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ある女の後悔①
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グリフォン公爵家の侍女によって着替えはさせてもらい、帰りの馬車に乗せられ、自分の邸に着いた辺りでそれぞれ体が動くようになった。それでホッとしたのも束の間、明らかに高価そうなドレスを身に着けて帰ってきた娘を親は訝しんだ。
娘を問い詰め、専属の侍女にも話を聞けば“先触れも無しにグリフォン公爵家を訪れた挙句、茶席で粗相をしたので着替えを貸してもらった”とのこと。
他家に押し掛けた挙句に茶席で粗相を、しかも格上のグリフォン公爵家でしたとなれば親はあまりのショックで卒倒しかけ、すぐに謝罪を申し出た。
「このっ……馬鹿娘が! 他家に押し掛けた挙句に茶席で粗相をするなどとんでもない恥を晒しおって……! しかもあのグリフォン公爵家相手になんてことを……お前はこの家を潰したいのか!?」
ファニイの父親は詳細を知って激高し、娘の頬を打った。ちなみに母親は自分の娘の所業にひどくショックを受けて寝込んでいる。
「ち、ちが……! あれはあの女が自白剤を盛ったから……!」
「自白剤だと!? そんなものを盛られたならお前はとっくに廃人になっとるわ! そんな見え透いた嘘をつくな! それにあの女だと!? 格上の令嬢に対してなんと無礼な!」
「ちがう! 本当に盛られたの! 廃人になっていないのはその薬はあの女……いえ、グリフォン公爵令嬢が調合した物だからよ!」
「令嬢がそんな恐ろしい薬を調合できるわけがないだろう!? つくならもっとマシな嘘をつけ!」
「嘘じゃない! 本当よ! 何で信じてくれないの!?」
「それが嘘かどうかなんてどうでもいい! 問題はお前が他家に押し掛けた挙句に粗相をしたという事実だ! そんな恥知らずな娘をこのまま当家に置いてなどおけん、お前は修道院へ行って自分の罪と向き合ってこい!」
「修道院ですって!? 嫌よ!」
「お前に“嫌”と言う権利などない! そんな恥を晒してみっともないと思わないのか!?」
「だから、それは……薬のせいで……!」
ファニイがいくら弁明しようとも父親は一切の聞く耳を持たなかった。
仮にファニイの言っていることが真実だとしても他家で粗相をしたことは事実だ。
しかも、格上の公爵家で。
その日からファニイは父親により部屋へと閉じ込められた。
グリフォン公爵家への謝罪が済むまでは大人しくしているように、と告げられたファニイは呑気にも「ほとぼりが冷めたらお父様も許してくれるわよね」と考えていた。
だが、そうやって呑気に過ごしている間に事態は最悪の方へと向かっていく。
「ファニイ……お前を隣国にある修道院へと送る。国をまたぐから手続きに時間がかかる。それまでは部屋で大人しくしておけよ……」
数日ぶりに顔を見せた父親の顔をひどくげっそりとしていた。
「はあ!? 何を言っているのよ! 修道院は行かないって言ったじゃない! しかも何で国内じゃなくて隣の国なのよ!? 意味が分からないわ!」
「……それがお前の為だからだよ。とんでもない醜態を晒したとはいえ、お前は私の娘だ。親として辛い目に遭ってほしくないと思うのは当然だろう?」
「は? 意味が分からない……」
父親の言っている意味が分からず訝し気な顔をするファニイだが、ふと父親の目が自分をジトっと見ていることに気づき驚いた。
「な、なに……? なんでそんな顔をするの……?」
「……お前が能天気だからだよ。どうしてあそこまでの醜態を晒しておきながら、そんな呑気に構えていられるのか……」
「大袈裟よ、お父様! それにあれは私のせいじゃないって何度も言っているでしょう?」
「お前はそうでも、世間はそうは思わないよ……」
「世間? どうしてここで世間が出てくるの?」
あの件を知っているのは自分とパメラ、そしてグリフォン公爵令嬢、そして家族だけだ。世間はそう思わないと言うが、別に世間に知らせるわけでもないのだから関係はないはず。
などとファニイは呑気に考えていた。
「この件は既に社交界中に広まっていたよ……。おかげで当家は社交界中の笑い者だ」
「は…………? 社交界中に? う……うそっ! うそうそっ!! なんでっ!??」
社交界中に自分の醜態が広まっていると聞き、ファニイは驚愕と羞恥で取り乱した。
娘を問い詰め、専属の侍女にも話を聞けば“先触れも無しにグリフォン公爵家を訪れた挙句、茶席で粗相をしたので着替えを貸してもらった”とのこと。
他家に押し掛けた挙句に茶席で粗相を、しかも格上のグリフォン公爵家でしたとなれば親はあまりのショックで卒倒しかけ、すぐに謝罪を申し出た。
「このっ……馬鹿娘が! 他家に押し掛けた挙句に茶席で粗相をするなどとんでもない恥を晒しおって……! しかもあのグリフォン公爵家相手になんてことを……お前はこの家を潰したいのか!?」
ファニイの父親は詳細を知って激高し、娘の頬を打った。ちなみに母親は自分の娘の所業にひどくショックを受けて寝込んでいる。
「ち、ちが……! あれはあの女が自白剤を盛ったから……!」
「自白剤だと!? そんなものを盛られたならお前はとっくに廃人になっとるわ! そんな見え透いた嘘をつくな! それにあの女だと!? 格上の令嬢に対してなんと無礼な!」
「ちがう! 本当に盛られたの! 廃人になっていないのはその薬はあの女……いえ、グリフォン公爵令嬢が調合した物だからよ!」
「令嬢がそんな恐ろしい薬を調合できるわけがないだろう!? つくならもっとマシな嘘をつけ!」
「嘘じゃない! 本当よ! 何で信じてくれないの!?」
「それが嘘かどうかなんてどうでもいい! 問題はお前が他家に押し掛けた挙句に粗相をしたという事実だ! そんな恥知らずな娘をこのまま当家に置いてなどおけん、お前は修道院へ行って自分の罪と向き合ってこい!」
「修道院ですって!? 嫌よ!」
「お前に“嫌”と言う権利などない! そんな恥を晒してみっともないと思わないのか!?」
「だから、それは……薬のせいで……!」
ファニイがいくら弁明しようとも父親は一切の聞く耳を持たなかった。
仮にファニイの言っていることが真実だとしても他家で粗相をしたことは事実だ。
しかも、格上の公爵家で。
その日からファニイは父親により部屋へと閉じ込められた。
グリフォン公爵家への謝罪が済むまでは大人しくしているように、と告げられたファニイは呑気にも「ほとぼりが冷めたらお父様も許してくれるわよね」と考えていた。
だが、そうやって呑気に過ごしている間に事態は最悪の方へと向かっていく。
「ファニイ……お前を隣国にある修道院へと送る。国をまたぐから手続きに時間がかかる。それまでは部屋で大人しくしておけよ……」
数日ぶりに顔を見せた父親の顔をひどくげっそりとしていた。
「はあ!? 何を言っているのよ! 修道院は行かないって言ったじゃない! しかも何で国内じゃなくて隣の国なのよ!? 意味が分からないわ!」
「……それがお前の為だからだよ。とんでもない醜態を晒したとはいえ、お前は私の娘だ。親として辛い目に遭ってほしくないと思うのは当然だろう?」
「は? 意味が分からない……」
父親の言っている意味が分からず訝し気な顔をするファニイだが、ふと父親の目が自分をジトっと見ていることに気づき驚いた。
「な、なに……? なんでそんな顔をするの……?」
「……お前が能天気だからだよ。どうしてあそこまでの醜態を晒しておきながら、そんな呑気に構えていられるのか……」
「大袈裟よ、お父様! それにあれは私のせいじゃないって何度も言っているでしょう?」
「お前はそうでも、世間はそうは思わないよ……」
「世間? どうしてここで世間が出てくるの?」
あの件を知っているのは自分とパメラ、そしてグリフォン公爵令嬢、そして家族だけだ。世間はそう思わないと言うが、別に世間に知らせるわけでもないのだから関係はないはず。
などとファニイは呑気に考えていた。
「この件は既に社交界中に広まっていたよ……。おかげで当家は社交界中の笑い者だ」
「は…………? 社交界中に? う……うそっ! うそうそっ!! なんでっ!??」
社交界中に自分の醜態が広まっていると聞き、ファニイは驚愕と羞恥で取り乱した。
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