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二人と一人のお茶会③
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パメラとファニイは少し前までは一般的な感覚を持った常識的な令嬢だった。
特に秀でた所はないが、特に危うい所も変な所もない。そんなごく普通の令嬢。
少なくとも格上の相手を許可なく名前で呼んだり、勝手に邸に押し掛けたりするような人間ではなかった。
そんな彼女達はルルナが現れてから変わってしまった。
いくら庶子とはいえど、自分達と同じ貴族令嬢であるはずなのに身分も礼儀も弁えず自由奔放に振る舞うルルナ。
自分達は幼い頃から厳しい礼儀作法を学ばされていた。そうしないと殿方に選ばれないからと。だが、礼儀作法を一つも学んでいなくとも、ルルナはこの国で最も高位な王族に好まれ、選ばれた。
そんなルルナを見ているうちに、彼女達は無意識化で羨ましくなったのだ。
それと同時に真面目にやっていることが馬鹿みたいに思えてきた。
自分達の婚約者を誑かすルルナをひどく憎んでいたくせに、心の奥深くでは彼女をひどく羨ましく思っていた。自分達もそうなりたいと。
その結果がこれだ。彼女達はグリフォン公爵家に先触れ無しで押し掛けようとすることがどれだけ命知らずなことなのか、理解することも出来なくなってしまった。
そしてもう一つ、彼女達は同じ公爵家であるサラマンドラ家にも同様のことをしていたのだ。まだミラージュが王太子の婚約者だった頃、一度サラマンドラ家に招かれてからは当然のようにしょっちゅう押し掛けていた。
優しいミラージュは困惑しながらも彼女達の行動を受け入れた。
そう、受け入れてしまったのだ。そのせいで彼女達は益々増長し、こういうことをしてもよいのだという思い違いをしてしまった。
それがとんでもない無礼な行為で、それがどのような結果をもたらすかを知らぬまま、彼女達はグリフォン公爵家の門をくぐった……。
*
「まあ! このお茶、色は不気味ですのに、香りはとっても爽やかですね!」
「ええ、本当に……。それに渋みと甘みがほどよいですわ。こんな美味なお茶を飲んだのは初めてです」
自分達がどれだけの無礼を働いているかも理解せず、パメラとファニイは出されたお茶の味に感動していた。
彼女達に出されたのはこの国では見たこともない緑色のお茶。まるで瑞々しい新緑のように鮮やかな緑色のそれは、いつも飲んでいる紅茶の味とは全く違った。
「気に入っていただけてよかったです。それは東方より取り寄せたお茶でして、この国では非常に珍しいかと。おそらく国王陛下でも口にしたことはないかと思われますわ」
グリフォン公爵家が取り寄せた東方のお茶は、カップ一杯だけで王宮で働く使用人の給与一年分にもなる高級品だ。あまりの高価さに国王ですらも口にしたことがない。そんな国王ですらも口に出来ない品を味わえたことにパメラとファニイは興奮し、顔を紅潮させた。
「こちらのお菓子も東方より取り寄せたものですの。お茶とよく合いますのよ」
彼女達の前に置かれたのは見たこともないお菓子だった。
服のボタン程の大きさで、花や木を象った可愛らしい形。
口に入れるとスッと溶け、まろやかで上品な甘さが口一杯に広がる。
「美味です。お茶の渋みと風味によく合いますわ」
「これはお砂糖でしょうか? でも、いつも紅茶に入れているお砂糖とは味が違いますね」
「これは特別な製法で作られたお砂糖なんですの。それゆえ市場には滅多に出回らない品を、特別に当家で取り寄せたのですわ」
グリフォン公爵家が特別に取り寄せるような希少な品を食している。
そのことを自覚すると、パメラとファニイも胸に得も言われぬ程の高揚感が広まった。
「光栄ですわ……そんな希少な品をいただけるなんて。アンゼリカ様は気前がよろしいですね」
「ええ、本当に。ミラージュ様とは大違いです!」
ファニイの口からミラージュの名が出た途端、アンゼリカの纏う空気が変わる。
肌に突き刺さるような殺気を感じ、周囲にいるグリフォン公爵家の侍女達は顔を強張らせた。
それをパメラとファニイの専属侍女も感じ取り、途端に血の気が引いた。
気づいていないのは主人であるパメラとファニイの二人だけ。
二人は呑気に希少で高級なお茶とお菓子に舌鼓を打っていた。
特に秀でた所はないが、特に危うい所も変な所もない。そんなごく普通の令嬢。
少なくとも格上の相手を許可なく名前で呼んだり、勝手に邸に押し掛けたりするような人間ではなかった。
そんな彼女達はルルナが現れてから変わってしまった。
いくら庶子とはいえど、自分達と同じ貴族令嬢であるはずなのに身分も礼儀も弁えず自由奔放に振る舞うルルナ。
自分達は幼い頃から厳しい礼儀作法を学ばされていた。そうしないと殿方に選ばれないからと。だが、礼儀作法を一つも学んでいなくとも、ルルナはこの国で最も高位な王族に好まれ、選ばれた。
そんなルルナを見ているうちに、彼女達は無意識化で羨ましくなったのだ。
それと同時に真面目にやっていることが馬鹿みたいに思えてきた。
自分達の婚約者を誑かすルルナをひどく憎んでいたくせに、心の奥深くでは彼女をひどく羨ましく思っていた。自分達もそうなりたいと。
その結果がこれだ。彼女達はグリフォン公爵家に先触れ無しで押し掛けようとすることがどれだけ命知らずなことなのか、理解することも出来なくなってしまった。
そしてもう一つ、彼女達は同じ公爵家であるサラマンドラ家にも同様のことをしていたのだ。まだミラージュが王太子の婚約者だった頃、一度サラマンドラ家に招かれてからは当然のようにしょっちゅう押し掛けていた。
優しいミラージュは困惑しながらも彼女達の行動を受け入れた。
そう、受け入れてしまったのだ。そのせいで彼女達は益々増長し、こういうことをしてもよいのだという思い違いをしてしまった。
それがとんでもない無礼な行為で、それがどのような結果をもたらすかを知らぬまま、彼女達はグリフォン公爵家の門をくぐった……。
*
「まあ! このお茶、色は不気味ですのに、香りはとっても爽やかですね!」
「ええ、本当に……。それに渋みと甘みがほどよいですわ。こんな美味なお茶を飲んだのは初めてです」
自分達がどれだけの無礼を働いているかも理解せず、パメラとファニイは出されたお茶の味に感動していた。
彼女達に出されたのはこの国では見たこともない緑色のお茶。まるで瑞々しい新緑のように鮮やかな緑色のそれは、いつも飲んでいる紅茶の味とは全く違った。
「気に入っていただけてよかったです。それは東方より取り寄せたお茶でして、この国では非常に珍しいかと。おそらく国王陛下でも口にしたことはないかと思われますわ」
グリフォン公爵家が取り寄せた東方のお茶は、カップ一杯だけで王宮で働く使用人の給与一年分にもなる高級品だ。あまりの高価さに国王ですらも口にしたことがない。そんな国王ですらも口に出来ない品を味わえたことにパメラとファニイは興奮し、顔を紅潮させた。
「こちらのお菓子も東方より取り寄せたものですの。お茶とよく合いますのよ」
彼女達の前に置かれたのは見たこともないお菓子だった。
服のボタン程の大きさで、花や木を象った可愛らしい形。
口に入れるとスッと溶け、まろやかで上品な甘さが口一杯に広がる。
「美味です。お茶の渋みと風味によく合いますわ」
「これはお砂糖でしょうか? でも、いつも紅茶に入れているお砂糖とは味が違いますね」
「これは特別な製法で作られたお砂糖なんですの。それゆえ市場には滅多に出回らない品を、特別に当家で取り寄せたのですわ」
グリフォン公爵家が特別に取り寄せるような希少な品を食している。
そのことを自覚すると、パメラとファニイも胸に得も言われぬ程の高揚感が広まった。
「光栄ですわ……そんな希少な品をいただけるなんて。アンゼリカ様は気前がよろしいですね」
「ええ、本当に。ミラージュ様とは大違いです!」
ファニイの口からミラージュの名が出た途端、アンゼリカの纏う空気が変わる。
肌に突き刺さるような殺気を感じ、周囲にいるグリフォン公爵家の侍女達は顔を強張らせた。
それをパメラとファニイの専属侍女も感じ取り、途端に血の気が引いた。
気づいていないのは主人であるパメラとファニイの二人だけ。
二人は呑気に希少で高級なお茶とお菓子に舌鼓を打っていた。
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