30 / 109
騎士団長の息子と宰相の息子①
しおりを挟む
あれからケビンは幾度もファニイの邸を訪れたが、その度に門前払いされた。
焦るケビンは無理にファニイの部屋に押し入ろうとして出入り禁止を食らってしまう。
そうこうしているうちにファニイが修道院に入った、と使用人経由で聞くことになる。
これではもうファニイを妻に出来ない、と絶望するケビンのもとにある人物が訪ねてきた。
「ケビン、久しぶりだな」
「アインス……? どうしてここに?」
それはケビンと同じく王太子の側近を務めている宰相の息子、アインスだった。
同じ側近といえども互いの邸を行き来するような仲ではないので、どうしてここに来たのかとケビンは訝しんだ。
「実は、隣国に行くことになってね。もう戻って来ないと思うから、最後に挨拶に来たんだ」
「は? 隣国?」
どうして王太子の側近が隣国に行くことになるのか。
それにもう戻って来ないとはどういうことだ、と食い気味に尋ねるとアインスは乾いた笑みを浮かべた。
「……僕も君と同様、父親から勘当されたのさ。当然、王太子殿下の側近も辞退させられた。君と違うのは内戦続きの危険地帯ではなく、安全な場所に向かうことかな。父の伝手で隣国の商会で働くこととなった」
「はあ? どうしてそんな話になるんだ? お前まで殿下の側近から外れるというのか? 一体どうしてそんな……」
「分からないのか? 僕達は二人の公爵家を敵に回した。もうこの国で貴族としてやっていくことなんて無理だ。特に、グリフォン公爵家を敵に回したんだからな……」
「グリフォン公爵家? あの悪女か!? あいつがお前や俺をこんな目に……!」
「おい、止めろ! グリフォン公爵令嬢を馬鹿にするような発言は慎め!」
穏やかなアインスの叱責にケビンは驚いて口を閉ざす。
よく見ると彼の顔は青白く、何かに脅えているようだった。
「グリフォン公爵令嬢は想像以上に恐ろしい人だ……。王宮は既に彼女によって掌握されている。父上だって彼女の味方……というより最早崇拝している」
「崇拝だって……? あの厳しい宰相が?」
「ああ……あの父上を心酔させるなんてな。まあとにかく、皆が崇拝するグリフォン公爵令嬢に無礼を働いた時点で僕も君も終わりだ。これ以上何かすれば家自体の存続も危うくなる。君も親に叱責を受けたんじゃないか?」
アインスに指摘されケビンは口籠った。
両親からは確かにこれ以上何もするなと叱責を受けている。
だが……ケビン自身は納得していない。どうして自分がこんな目に遭わねばならないのかと不満で一杯だ。
「……その顔を見る限り、君はまだ理解していないようだね。グリフォン公爵家をサラマンドラ公爵家のように甘いと考えては駄目だよ。僕達はサラマンドラ嬢をルルナと殿下の恋路を邪魔する悪女と見做して悪し様に罵っていた。それをしたところで何のお咎めも無かったからね」
「何だ、アインス……何が言いたい……」
「同じことをグリフォン公爵令嬢にすれば、僕等も僕等の家も《《簡単に潰される》ということさ。それが出来るだけの力もある。サラマンドラ家も力はあるのだが……令嬢も当主も甘いからね。だから今までお咎め無しで済んだ」
そんな馬鹿な、と言いたかったがアインスの真剣な表情にケビンは何も言えなかった。
「王宮で君はグリフォン公爵令嬢に暴行を働こうとした。そして僕はそれを止めずに見ていた。その時点で君も僕も貴族として終わっていたんだ。違うのは君の方が罪が重いということだな。だから君は内戦続きの砦に行かされて、僕は安全な隣国でまあまあ穏やかに過ごせる。貴族ではなくなるけどね」
「お前はそれでいいのか!? 俺達は共にエドワード殿下の治世を支えようと約束したじゃないか! それをそんな簡単に放棄するつもりなのか?」
「……馬鹿だね、君は。放棄も何もこれが最善の方法じゃないか? そんなことも分からないのか」
蔑むように言われ、ケビンは怒りで顔を真っ赤に染めた。
その顔を見たアインスは深くため息をつく。
「当主である父親から見放され、婚約者もいなくなった。殿下を支えるというけれど、グリフォン公爵家に目を付けられた僕達がどうやって支えるというんだ?」
「婚約者がいなくなった……? お前もか?」
ケビンはアインスの質問に質問で返した。
説教なぞ聞きたくもない、それよりも婚約者のことが気になるといった態度にアインスは怪訝な顔をする。
脳味噌も筋肉で出来ているようなケビンにこれ以上言っても仕方ない、とアインスは諦めて婚約者について話すことにした。
────────────────────
ストックがなくなってしまったので、明日からは一日二話更新になります。
焦るケビンは無理にファニイの部屋に押し入ろうとして出入り禁止を食らってしまう。
そうこうしているうちにファニイが修道院に入った、と使用人経由で聞くことになる。
これではもうファニイを妻に出来ない、と絶望するケビンのもとにある人物が訪ねてきた。
「ケビン、久しぶりだな」
「アインス……? どうしてここに?」
それはケビンと同じく王太子の側近を務めている宰相の息子、アインスだった。
同じ側近といえども互いの邸を行き来するような仲ではないので、どうしてここに来たのかとケビンは訝しんだ。
「実は、隣国に行くことになってね。もう戻って来ないと思うから、最後に挨拶に来たんだ」
「は? 隣国?」
どうして王太子の側近が隣国に行くことになるのか。
それにもう戻って来ないとはどういうことだ、と食い気味に尋ねるとアインスは乾いた笑みを浮かべた。
「……僕も君と同様、父親から勘当されたのさ。当然、王太子殿下の側近も辞退させられた。君と違うのは内戦続きの危険地帯ではなく、安全な場所に向かうことかな。父の伝手で隣国の商会で働くこととなった」
「はあ? どうしてそんな話になるんだ? お前まで殿下の側近から外れるというのか? 一体どうしてそんな……」
「分からないのか? 僕達は二人の公爵家を敵に回した。もうこの国で貴族としてやっていくことなんて無理だ。特に、グリフォン公爵家を敵に回したんだからな……」
「グリフォン公爵家? あの悪女か!? あいつがお前や俺をこんな目に……!」
「おい、止めろ! グリフォン公爵令嬢を馬鹿にするような発言は慎め!」
穏やかなアインスの叱責にケビンは驚いて口を閉ざす。
よく見ると彼の顔は青白く、何かに脅えているようだった。
「グリフォン公爵令嬢は想像以上に恐ろしい人だ……。王宮は既に彼女によって掌握されている。父上だって彼女の味方……というより最早崇拝している」
「崇拝だって……? あの厳しい宰相が?」
「ああ……あの父上を心酔させるなんてな。まあとにかく、皆が崇拝するグリフォン公爵令嬢に無礼を働いた時点で僕も君も終わりだ。これ以上何かすれば家自体の存続も危うくなる。君も親に叱責を受けたんじゃないか?」
アインスに指摘されケビンは口籠った。
両親からは確かにこれ以上何もするなと叱責を受けている。
だが……ケビン自身は納得していない。どうして自分がこんな目に遭わねばならないのかと不満で一杯だ。
「……その顔を見る限り、君はまだ理解していないようだね。グリフォン公爵家をサラマンドラ公爵家のように甘いと考えては駄目だよ。僕達はサラマンドラ嬢をルルナと殿下の恋路を邪魔する悪女と見做して悪し様に罵っていた。それをしたところで何のお咎めも無かったからね」
「何だ、アインス……何が言いたい……」
「同じことをグリフォン公爵令嬢にすれば、僕等も僕等の家も《《簡単に潰される》ということさ。それが出来るだけの力もある。サラマンドラ家も力はあるのだが……令嬢も当主も甘いからね。だから今までお咎め無しで済んだ」
そんな馬鹿な、と言いたかったがアインスの真剣な表情にケビンは何も言えなかった。
「王宮で君はグリフォン公爵令嬢に暴行を働こうとした。そして僕はそれを止めずに見ていた。その時点で君も僕も貴族として終わっていたんだ。違うのは君の方が罪が重いということだな。だから君は内戦続きの砦に行かされて、僕は安全な隣国でまあまあ穏やかに過ごせる。貴族ではなくなるけどね」
「お前はそれでいいのか!? 俺達は共にエドワード殿下の治世を支えようと約束したじゃないか! それをそんな簡単に放棄するつもりなのか?」
「……馬鹿だね、君は。放棄も何もこれが最善の方法じゃないか? そんなことも分からないのか」
蔑むように言われ、ケビンは怒りで顔を真っ赤に染めた。
その顔を見たアインスは深くため息をつく。
「当主である父親から見放され、婚約者もいなくなった。殿下を支えるというけれど、グリフォン公爵家に目を付けられた僕達がどうやって支えるというんだ?」
「婚約者がいなくなった……? お前もか?」
ケビンはアインスの質問に質問で返した。
説教なぞ聞きたくもない、それよりも婚約者のことが気になるといった態度にアインスは怪訝な顔をする。
脳味噌も筋肉で出来ているようなケビンにこれ以上言っても仕方ない、とアインスは諦めて婚約者について話すことにした。
────────────────────
ストックがなくなってしまったので、明日からは一日二話更新になります。
4,552
お気に入りに追加
7,557
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。
彼女にも愛する人がいた
まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。
「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」
そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。
餓死だと? この王宮で?
彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。
俺の背中を嫌な汗が流れた。
では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…?
そんな馬鹿な…。信じられなかった。
だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。
「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。
彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。
俺はその報告に愕然とした。
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
本日、貴方を愛するのをやめます~王妃と不倫した貴方が悪いのですよ?~
なか
恋愛
私は本日、貴方と離婚します。
愛するのは、終わりだ。
◇◇◇
アーシアの夫––レジェスは王妃の護衛騎士の任についた途端、妻である彼女を冷遇する。
初めは優しくしてくれていた彼の変貌ぶりに、アーシアは戸惑いつつも、再び振り向いてもらうため献身的に尽くした。
しかし、玄関先に置かれていた見知らぬ本に、謎の日本語が書かれているのを見つける。
それを読んだ瞬間、前世の記憶を思い出し……彼女は知った。
この世界が、前世の記憶で読んだ小説であること。
レジェスとの結婚は、彼が愛する王妃と密通を交わすためのものであり……アーシアは王妃暗殺を目論んだ悪女というキャラで、このままでは断罪される宿命にあると。
全てを思い出したアーシアは覚悟を決める。
彼と離婚するため三年間の準備を整えて、断罪の未来から逃れてみせると……
この物語は、彼女の決意から三年が経ち。
離婚する日から始まっていく
戻ってこいと言われても、彼女に戻る気はなかった。
◇◇◇
設定は甘めです。
読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる